247話 反撃の一手
サーリャさまと一緒に今後のことについて話し合う。
色々な話をして、敵の推測をする。
それから騎士団の行動を読み、今後の流れを考える。
そんなことをして……
ひとまずの結論が出た。
「それじゃあ……例の魔道具について調べる、ということが今できる一番のことですかね?」
「ええ、そうだと思います」
俺とサーリャさまは、アリオスが用意した魔道具が怪しいという結論に達した。
なにかしらの細工が施されている可能性が高い。
俺が殺人を犯した映像も、なにかしらの手段で作り上げられたものだろう。
サーリャさまの話によると、アリオスは頑なに魔道具を手放そうとしないらしい。
事件の調査のために要請があれば、映像を公開する。
しかし、魔道具を騎士団に預けることはなく、自分で保管しているという。
怪しさ全開だ。
普通、証拠品を自分で管理するようなことはしない。
司法を司る騎士団に預けて、後は任せるのが通例だ。
それなのに、アリオスは魔道具を手放さない。
なにかある、と言っているようなものだ。
魔道具を調べることができれば、俺の無実に繋がる証拠を得られるかもしれない。
「問題は、どうやって魔道具を手に入れるか、ということですね」
「それでしたら、チャンスがあります」
「と、いうと?」
「今度、事件に関する大規模な調査が行われると聞きました。そこで騎士団は、一時、アリオスさまの魔道具を預かるとか」
「それは、いつも断ってきたのでは?」
「何度も何度も断れば周囲に怪しまれる……アリオスさまは、そのことを懸念しているのでしょうね。やむを得ずという感じで、騎士団に魔道具を貸し出すことにしたそうですよ」
「なるほど……じゃあ、横から突くような形で魔道具を奪取すれば……」
「はい。私達の手で詳しく調べることができます」
「その調査はいつ行われるんですか?」
「予定通りならば明日ですが……どうでしょうか? 私が誘拐されたとなれば、予定が変わるかもしれませんし……」
「それもそうですね……さて、どうしたものか」
アリオスの魔道具を奪取する機会はあるが、そのためにはより正確な情報が必要だ。
どのようにして情報を得ればいい?
俺は指名手配されているだろう。
サーリャさまの方は知名度は遥かに高いし、動けばすぐに見つかるだろう。
部下に動いてもらうにしても、下手に指示を出せば、そこから逆探知されてこちらの情報が漏れてしまう恐れがある。
……ダメだな。
現状、手詰まりだ。
俺達だけでは解決できない。
なら……外部の協力者を得よう。
「サーリャさま、一つ聞きたいことが」
「はい、なんでしょうか?」
「試験会場にいた試験官達のその後の足取り、知っていますか?」
――――――――――
幸いというべきか、サーリャさまは試験官達の後の行動を把握していた。
事件の調査をする際に、なにかしらの役に立つかもしれないと、それらの情報も集めていたらしい。
試験官のほとんどは冒険者だ。
Aランクの昇格試験は、同じくAランクの冒険者が試験官として協力しているらしい。
事件の後、試験官達も軽い取り調べを受けた。
万が一、横の繋がりがないかを確かめるためだ。
結果は……もちろんシロ。
全ての試験官達は解放されて、元の自由な生活に戻った。
ただ、事件の捜査の協力を求められた冒険者も多く……
大半が王都に残ったままらしい。
願わくば、あの二人も残っていてほしい。
そんな希望を込めながら、俺は夜の街を歩く。
身を潜めるようにしながら、影から影へ渡り歩く。
「ピィッ」
周囲の偵察のために仮契約をした野鳥が戻ってきた。
体は黒い羽毛で覆われており、夜行性の鳥なので、偵察にはうってつけだ。
「どうだった?」
「ピィ!」
野鳥がその場で滞空して、右手を向いて鳴いた。
こちらに人がいますよ、という合図だ。
「ワンッ」
もうひとつ……同じく仮契約をした野犬が帰ってきた。
野鳥と同じく、右手の方を向いて小さく鳴く。
「よーし。お前たち、この調子で案内を頼んだぞ」
「ピィッ」
「ワンッ」
野鳥と野犬は俺に応えるように、元気よく鳴いた。
こういう時、彼らの文字通りの野生の勘は本当に頼りになる。
人間の何倍も感覚が優れているから、魔法を使うよりも正確に人の居場所などを探知できる。
野鳥と野犬の力を借りて、俺は王都全体に敷かれた包囲網を掻い潜り、目的地へと到着した。
「ありがとな。ここまででいいよ」
それぞれに餌をあげて、仮契約を解除した。
たどり着いた場所は……宿だ。
足場を探して外から二階へ。
念のために隙間から部屋を確認すると……
野鳥と野犬が探し当てた人物の姿が見えた。
「他に人はいない……今がチャンスだな」
窓の隙間にナイフをいれて、強引に鍵を外す。
高級宿ではないので鍵も安物で、簡単にいく。
そのまま窓を開けて、土足で申し訳ないが室内に入った。
「なっ……!?」
突然、俺が現れたことで室内の人物は驚いていた。
武具の手入れをしていたらしく、鎧を磨いている手が止まっている。
「夜遅く悪いな。ちょっと邪魔するぞ、アクス」
「おまっ……れ、レイン!?」
アクスは目を丸くして……
しかし言葉がうまく出てこないらしく、口をぱくぱくと開け閉めした。
「いきなり悪い。セルは一緒じゃないのか?」
「いや、部屋は別だから……」
「それもそうか。すまないが、呼んできてくれないか?」
「……俺がセルじゃなくて、騎士などを呼んでくる、っていう可能性は考えないのか?」
「あ、それは困るな……アクスならって思っていたから、まるで考えてなかった。どうしよう?」
「ったく……」
アクスが苦笑して、ガシガシと頭をかいた。
「その甘いところ、ぜんぜん変わってないな。ホント、前のままで……調子が狂う。ちょっと待ってろ」
「アクス。俺は……」
「いいから。詳しい話は後で聞く。今は……セルが一緒にいた方がいいんだろ?」
照れるように早口で言って、アクスは部屋を出ていった。
一度は絆が途切れたと思っていたけれど……
そうじゃなかったのかもしれない。
どこかでまだ、繋がっていたのかもしれない。
そう思うとうれしかった。
「待たせたな」
ややあって、セルを連れたアクスが戻ってきた。
こちらを見て、セルはわずかに眉を上げるが、それだけだ。
事前に話を聞いていたのか、さほど驚いていない。
俺は無実であることを話して……
それから、二人に協力を求めた。
アクスとセルなら、アリオスと繋がっているということはありえない。
信頼できるし……なによりも頼りになる。
味方になってくれれば、この状況を覆せるかもしれない。
「……なるほどね」
一通りの話をしたところで、セルは納得したように頷いた。
隣のアクスは苦い顔をしている。
「お前……姫さまを人質にして逃走するなんて、大胆なことをするな……下手したら……いや、下手しなくても反逆罪で終わりだぞ?」
「サーリャさまも納得してのことだから、俺の無実が証明されれば、なんとかなると思うんだ。誘拐されたはずの本人が違うといえば、問題ないだろう?」
「それはまあ……いや、どうなんだ? すごく難しい気もするが……」
アクスが懸念する通り、かなり乱暴な手段ではあるが……
あの国王を相手なら、話が通じると思う。
敵を炙り出すために娘を囮にするくらいだから……
緊急時として、俺の手段も認めてくれると思う。
そう判断しての行動だ。
「それで……協力してくれないか? 俺だけではどうしようもなくて……協力者が欲しい」
「ずいぶんと都合のいい話ね」
セルが冷たく言う。
「私たちとあなたの縁は切れたはずよ。その上であなたのために動くというのならば、それ相応の対価が必要になるわ。レインは、私達に何を提示できるのかしら?」
「俺の全部を」
「……」
迷うことなく言い切ると、セルは目を丸くした。
アクスも唖然とした。
「このままだと、俺だけの問題じゃなくなる。みんなが……仲間にも危険が及ぶ。それだけは絶対にダメだ。俺にできることならなんでもする。文字通り、なんでも……だ。だから、助けてくれないか? この通りだ!」
思いを全部ぶちまけて、頭を下げた。
そうすること少し……
「やれやれ」
呆れたような感じのセルの声が聞こえた。
顔を上げると、アクスとセルが苦笑していた。
「ホント、変わらないのね……そのまっすぐなところ、少しうらやましく思うわ」
「ここまでして無視するってのは、さすがに……なあ」
「助けてくれるのか……?」
自分で言っておいてなんだけど、二人が協力してくれる可能性は低いと思っていた。
しかし、アクスとセルは笑みを浮かべている。
「助けてやるよ。あ、別に礼はいいからな。レインにしてほしいことなんてねえし……まあ、強いて言うなら貸し一つ、ってところか」
「レインが困っているのなら力を貸したい……そう思うから、私達は協力するわ。なんだかんだで今回のことは気になっていたし……レインのこと、放っておけないのよね」
「……ありがとう」
俺はもう一度、深く頭を下げた。
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