241話 逮捕
「れ、レイン! どうするの!?」
カナデの慌てた声が飛んできた。
「くっ……今は逃げるぞ!」
「ダーメ、逃さないわよ♪」
「なっ……!?」
すぐ近くから声がした。
影が盛り上がり、それが人の形を取る。
リーンだ。
影から影に移動する魔法『シャドウシーカー』を使用したのだろう。
「アースバインド!」
大地が隆起して、檻のように俺の体に絡みついた。
「アリオスから聞いたんだけど、あんた、状態異常が効かないんでしょ? でも、これならどうかしら?」
「ぐっ……この!」
全力で抜け出そうとするが、次から次に土の枷が絡みついてきて、逃げることができない。
「やめろっ、リーン! 俺は人を殺してなんていない! これはなにかの間違いだ。だから……」
「あははっ、そんなのどうでもいいわ」
「リーン……?」
「あたし、あんたのことが気に入らないのよ。ゴミ虫のくせしてあたしに逆らうし、パゴスでのことを上にチクるし……ふざけてんじゃないわよ。あんた、生意気なのよ。あたしを誰だと思っているわけ? 大魔法使いのリーンさまよ。このあたしに逆らった罰を受けなさい。きゃはははっ♪」
「こいつ……!」
大義じゃなくて、個人の感情で動いているのか!
こんなヤツが勇者を名乗っているなんて……ふざけている!
「きゃっ!?」
「あうっ!?」
ソラとルナの悲鳴が聞こえてきた。
慌ててそちらに目をやると、二人はアッガスに捕まっていた。
リーンと同じように、魔法で二人の傍に移動したのだろう。
魔法戦ならばソラとルナに敵はいないが、肉弾戦となると厳しい。
アッガスの豪腕を振りほどくことができないでいる。
「このっ……!」
「甘く見るな、なのだ!」
ソラとルナは魔法を使い、アッガスを引き剥がそうとするが……
「そこまでです」
ミナが鋭く言い放つ。
その手には、光のロープで縛られたティナの姿があった。
「みんな、すまん……ヘマしてもうた。あの映像を見て、驚いて……その隙をつかれてしもうた……」
「私は神官です。幽霊を消すことくらい簡単な作業です」
「ミナっ、やめろ!」
「なら、おとなしく投降してください。抵抗は許しません」
ティナは幽霊という特性から、最強種に近い力を発揮できるが……
神官は天敵だ。
浄化の光を浴びせられたら、またたく間に消滅してしまう。
「ちょっと、人質をとるなんて卑怯だよ!」
「そうよ! それでも勇者パーティーなの!?」
カナデとタニアが睨みつけるが、ミナは欠片も動揺しない。
「私達は正しいことをしています。すなわち、神に認められた行為です。そのような言葉で心が揺らぐことはありません」
「くっ……!」
ダメだ、なにを言ってもミナには話が通じない。
「ん……」
こそこそとニーナが動いていた。
ニーナが亜空間にみんなを避難させてくれれば、逃げることができる。
そんな期待をするのだけど……
「はい、あなたもおとなしくしていてくださいね」
「あうっ!?」
「ニーナ!」
いつの間にか背後に忍び寄っていた女騎士がニーナを取り押さえた。
見たことのない顔だけど……
アリオスと一緒に行動しているところを見ると、俺が抜けた後に加わったメンバーなのだろうか?
「さて……レイン。勝負はあったように見えるか?」
アリオスがニヤリと勝ち誇った笑みを見せた。
「くっ」
唇を噛む。
こんなところでアリオス達なんかに……とは思うが、どうしようもない。
俺、ソラ、ルナが動きを拘束されている。
なんとか抜け出せないことはないが……
しかし、ティナとニーナは完全に捕まってしまっている。
武器を突きつけられて人質に取られている状態なので、下手な行動をとることはできない。
カナデとタニアもそれを理解しているらしく、動くに動けない状況だ。
敵はアリオス達だけじゃない。
他の冒険者に試験官達が輪を作るようにして、俺達を包囲していた。
それぞれ武器を構えている。
その目は俺達を睨みつけていて、完全に犯人扱いしている。
彼らを説得することも不可能だろう。
この状況を打破するにはどうしたらいい?
どうすればいい!?
「……」
必死に考えるが……
答えは見つからなかった。
「……わかった。投降する」
「レインっ!?」
カナデが驚きの声をあげた。
タニアも本気なの? というような顔をしている。
しかし、他にどうしようもない。
無茶をしたら誰かが傷ついてしまう。
それだけは絶対にイヤだ。
俺は、アリオスのようにはならない。
仲間を簡単に切り捨てられるような……そんなヤツと同じにはなりたくない。
あの映像を見る限り、俺の単独犯ということになる。
捕まり、裁きにかけられて……
罪に問われるとしても、俺一人だけになるだろう。
みんなは大丈夫だと思う。
もちろん、簡単に諦めるつもりはない。
逃げ出す方法や、無実を証明する方法……色々と考えて試してみるつもりだ。
ただ、今はおとなしく捕まるしかない。
「物分りがよくて助かるよ、レイン。少しは成長したのかな?」
「アリオス、お前っ……!」
殴りかかりたくなる衝動を我慢しながら、なんとか問いかける。
「一つ聞くぞ。今回の件は……アリオスの仕業なのか?」
「どういう意味かな、それは?」
「俺を陥れたのはアリオスの仕業なのか、と聞いている」
「さて……なんのことか、さっぱりわからないね」
アリオスは……笑った。
楽しそうに。
嬉しそうに。
愉悦に満ちた笑みを口元に貼り付けた。
その笑みを見て確信した。
犯人はアリオスだ。
理由はわからないが、俺を貶めようとしている。
俺をパーティーから追放するだけでは飽き足らず、こんなことをして……
新しい仲間も奪おうとして……
俺の人生も潰そうとして……
どうしようもない怒りがこみ上げてくる。
昔、パーティーを追放された時のような……
あの時に似た感情が湧き上がる。
そして、俺は確信した。
アリオスは……敵だ。
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