240話 冤罪
「ちょっと、ふざけたこと言わないでくれる?」
「レインがそんなことするわけないでしょ!」
真っ先にタニアとカナデがアリオスに噛みついた。
いわれのないことを言われたことに二人共腹を立てていて、ハッキリとした怒りの感情を見せていた。
今すぐにでも殴りかかりそうな勢いだ。
しかし、アリオスは怯むことはない。
正義はこちらにあるというように、堂々とした態度を取り続けている。
「厳正に調査をした結果、レイン以外に犯人はいない、という答えが出たんだよ」
アリオスの言葉に従うように、試験官達が俺達を取り囲む。
すでに犯人扱いをされていた。
セルとアクスは包囲網に加わることはなく、今は様子を見ていた。
「どうして、レインが他の冒険者を殺さないといけないのですか? そのようなことをする理由……動機がありません」
ソラが弁護士のように言う。
ただ、アリオスはその質問をあらかじめ想定していたらしく、スラスラと淀むことなく言い放つ。
「被害者は、レインと問題を起こしていた冒険者だったよ。レインはその時の恨みを晴らすために、彼らを殺した。あるいは、遺跡内で出会い、再びトラブルに発展した。そして、ついカッとなって……という感じかな? いずれにしても、動機はあるんだよ」
「でっちあげに等しいのでは?」
「そうかもしれないね。しかし、他の人は被害者とまったく接点がない。唯一、接点があるのがレインだけなんだよ」
「ふんっ、そんなものだけでレインを犯人扱いするなんて、笑わせてくれるのだ!」
「もちろん、これだけの理由でレインを犯人と決めつけたわけじゃないさ。おい、例のものを」
アリオスの合図で、試験官の一人が資料を持ってきた。
俺を含めて、その場の全員に配られる。
「この資料には、被害者の傷の具合などが書かれている。解剖の結果、というところかな」
「それがどうしたのだ?」
「死因について見てほしい」
「……刃物による傷が原因、となっているのだ。それが?」
「よくみてくれよ。剣ではなくて、短剣で刺されたことによる傷が原因で死亡……と書いてあるだろう?」
「むう……」
「短剣なんて持っている者は、レイン以外にいないんだよ。レインは短剣をメインの武装として活用しているが、他の者は剣や槍、斧などだ」
「それこそ言いがかりなのだ!」
「僕は事実を述べているだけだよ。なんなら、この場で全員の身体検査をしようか? レイン以外に短剣を持っている者は出てこないと、断言してもいいよ」
「短剣なんて簡単に処分できるのだ。地面に埋めるとか、川に捨てるとか……証拠にはならないのだ!」
ビシッとアリオスを指さして、証拠不十分であることをルナは告げた。
ルナの言う通りだ。
今の話だけで俺を逮捕するとしたら、横暴がすぎる。
むちゃくちゃな話で、到底受け入れられるものではない。
しかし、アリオスは余裕の表情を崩さない。
俺の犯行に違いないと、絶対的な確信を抱いているようだ。
「いつどのタイミングで、レインがそんなことをしたっていうんや?」
今度はティナが疑問をぶつけた。
「君達は、遺跡の罠にハマり、バラバラになったそうだな? その時、レインは一人で行動することになった。その時のレインの行動は誰にも保証されていない。つまり、その時ならば犯行は可能ということだ」
「それは……」
みんなとはぐれた時になにをしていたか?
その時に犯行に及んだのではないか?
そう疑われても仕方ないといえば仕方ないが……
しかし、そんなことを言い出したらキリがない。
あの時の俺の無実を証明するのは、悪魔の証明に等しい。
「あー……ちといいか?」
見ていられないというように、アクスが口を挟んできた。
「レインなら俺と一緒にいたぜ」
「ふむ。それは確かかい?」
「ああ、確かだ。レインが裁判にかけられるっていうなら、俺が証言してもいい」
裁判でウソをつくことは重罪とされている。
一発で強制労働送りの刑だ。
ここまで強く言えば、普通はアクスの発言を疑うことはないだろう。
しかし、アリオスは態度を変えようとしない。
「悪いが、君の発言は信用できないな」
「なんだと?」
「君は以前、一時的にとはいえレインとパーティーを組んでいたね? いわば、昔の仲間だ。そのよしみで、レインに対して有利な発言をしているのかもしれない」
「おいおい、言いがかりはやめてくれ。そんなことをするわけないだろ」
「客観的に見てどう思われるかな? 証人はかつての仲間……裏の繋がりがあるのではないか? と疑われても仕方ないと思うけどね。僕の言っていることは間違っているかい?」
「ぐっ……てめえ……」
アクスが怒りの表情を浮かべる。
掴みかかるのではないかとヒヤヒヤするが、ギリギリのところで耐えたみたいだ。
アリオスの言葉は言いがかりに等しいが……
でも、荒唐無稽なデタラメというわけでもない。
俺とアクスに裏の繋がりなんてものはないが……
何も知らない第三者からしたら、怪しいと思われても仕方ない。
「アリオス、いいか?」
発言を求めると、アリオスが小さく頷いた。
「動機、殺害方法、犯行時のアリバイ……客観的に見て俺が怪しいのは理解した」
「それは自白ということでいいのかい?」
「そんなわけないだろう。俺は何もしていない。第一、どの証拠も決定的なものじゃない。曖昧なものにすぎないだろう? それなのに、アリオスは俺を犯人と信じて疑っていない。俺が犯人だという決定的な証拠はあるのか?」
「くくくっ」
アリオスは楽しそうに笑う。
この時を待っていたというように、心底楽しそうに笑う。
「あるよ」
アリオスは自信たっぷりに頷いた。
そこまでの態度を見せるからには、相当な自信があるのだろう。
いったい、どんな証拠を用意しているというのか?
「例のものを」
アリオスの合図で、試験官が水晶玉を持ってきた。
「これは、その場の光景を記憶するという魔道具なんだ。不正対策として、遺跡のあちこちにこの魔道具が配置されている」
「それがどうした?」
「コイツに、犯行の決定的瞬間が記録されているのさ。コイツを見ても、レインはまだ白を切ることができるかな?」
アリオスはニヤニヤと悪意たっぷりの笑みを浮かべながら、魔道具を操作した。
水晶玉が淡く輝いた。
ほどなくして光が収まり、遺跡内の光景が映し出される。
遺跡内の小さな部屋が映っていた。
誰もいない。
「どこに証拠が?」
「焦るなよ。もうすぐだ……ほら、来たぞ」
ほどなくして、被害者達が部屋に入ってきた。
罠がないか警戒をしているらしく、ゆっくりと移動している。
その後ろから……俺が現れた。
「なっ……!?」
俺の手には短剣が握られていて……
俺はゆっくりと被害者の一人の後ろに歩み寄り、短剣を振りかぶる。
刃が深いところまで食い込み、血があふれた。
刺された場所は首の横だ。
被害者は操り人形の糸が切れたように、膝から崩れ落ちた。
そのままピクリとも動かない。
突然の凶行に、被害者たちは半ばパニックに陥りながらも、すぐに応戦を開始した。
Aランク昇格試験を受けているだけあって、その実力は確かだ。
一人欠けている状態ではあるが、鮮やかな連携をして反撃に移ろうとした。
しかし……俺の方が上手だった。
俺は死体を盾にして攻撃を防いだ。
さらに、その死体を投げ飛ばす。
仲間の死体をどう扱って良いものか迷い、被害者たちの動きが鈍る。
その隙に俺は距離を詰めて、短剣を……
「レイン。これが君の言う証拠だ。これを見てもまだ、しらを切るつもりかい?」
「なんだ、これは……俺はこんなことはしていない!」
「しかし、映像に映っているのは間違いなく君だ。君に瓜二つの双子がいるというのならば話は別かもしれないが、僕はそんなことは知らない」
「それは……でも、俺は人を殺してなんていない! なにかの間違いだ!」
「身の潔白は裁きの場で証明するといいよ。まあ、これだけの決定的な証拠があるんだ。無理だろうけどね。はははははっ!」
「ぐっ……」
「捕まえろ」
アリオスの命令で一斉に試験官が動いた。
アクスとセルは戸惑い、動いていないが……
他の試験官が……さらに、冒険者達も加わる。
どうする!? どうすればいい!?
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