235話 分断
「……いてっ」
頭に鈍い痛みを覚えて目が覚めた。
落とし穴に落ちた際に、頭をぶつけて、一時的に気を失っていたのだろう。
体を起こすと、周囲は暗闇に包まれていた。
「カナデ? タニア?」
呼びかけるけれど返事はない。
「ソラ? ルナ? ニーナ? ティナ? みんな、いないのか? おーい!」
声が反響するだけで、やはり返事はない。
「まいったな……はぐれたか」
あちこち転がったような覚えがあるから……
あの落とし穴はいくつかに穴が別れていた。
侵入者を分断するためのトラップなのだろう。
とりあえず、荷物袋から松明を取り出して……
「ファイアーボール」
威力を最小限に絞った魔法で火を点ける。
明かりが生まれて、周囲の暗闇を払う。
落ちてきた先は小さな部屋だ。
壊れた花瓶などの調度品。
それと埃や蜘蛛の巣があるだけで、他になにもない。
やや大きめの通路……大人が三人くらい並んで歩けるくらいの広さの通路が、まっすぐと伸びている。
「前に進むしかないか」
さきほどのように罠が仕掛けられているかもしれないが、ここで止まっているわけにはいかない。
早くみんなを探し出して合流しないと。
「っ……!」
カサカサという音と共に、無数の気配が近づいてきた。
松明の火に照らされて、その姿が明らかになる。
30センチメートルほどの巨大な蜘蛛だ。
牙が槍みたいで、異様に鋭く発達している。
Dランクの魔物のキメラスパイダーだ。
Dランクなので、高い戦闘能力は持たず、特殊な能力も備えていない。
ただ……
「数が多いんだよな」
一匹、二匹、三匹……次から次へとキメラスパイダーが湧いて出てきた。
どこに隠れていたのかと、思わず真面目に考えてしまうほどの数だ。
俺は武器を構えて……
「まずは俺が突っ込むから、みんなは……って、いないんだよな」
ついつい、いつものように仲間に呼びかけてしまう。
癖というかなんというか……
みんながいるのが当たり前になっていたからな。
意図的なものならともかく、予期せぬ事態で離れ離れになったのは、思えば初めてじゃないだろうか?
「一人……か」
情けないと思われるかもしれないが、寂しさを感じた。
「俺、みんなのことをずいぶんと頼りにしていたんだな……」
しみじみとそんなことを思う。
とはいえ、落ち込んでなんていられない。
こんなことで気落ちしていたら、みんなと合流した時に笑われてしまう。
「やるか!」
俺はカムイを手に、キメラスパイダーの群れを迎え撃った。
――――――――――
「カナデ……起きてください、カナデ」
「んぅ……にゃ?」
ゆさゆさと揺さぶられて、カナデは目を開けた。
「……ソラ?」
「よかった、目を覚ましましたね」
ソラがいた。
その背中に、ふわふわと光球が浮かんでいる。
ソラの魔法だろう。
「えっと……ここは?」
小さな部屋だ。
奥に続く通路が一本、見える以外はなにもない。
「ソラ達は、落とし穴で分断されたみたいですね。
「そうなんだ……レインや他のみんなは大丈夫かな?」
「問題ないと思いますよ。簡単にやられてしまうほど、みんな、やわではありませんから」
「それは……そうだね」
カナデは苦笑しながら同意した。
立ち上がり、パンパンと服についた砂埃などを落とす。
「それじゃあ、みんなと合流するために壁をぶち抜いていこうか!」
「いやいやいや、ダメですよ!? さらりと、当たり前のように言わないでくださいね!?」
「にゃん? なんでダメなの?」
「試験の説明を聞いていなかったんですか! そういうことをしたら失格だと言われましたよね!?」
「おー、そういえば」
「つ、疲れます……」
「じゃあ、普通に探すしかないかな?」
「そうですね。遺跡に魔法を妨害する機構が備わっているらしく、探知系魔法がうまく使えないので……地道に足を使って探すしかないです」
「じゃあ、レッツゴー! だよ♪ 私に続けー」
「そこはかとなくイヤな予感がします……」
――――――――――
「ニーナ、大丈夫? 痛くない?」
「ん……大丈夫、だよ」
タニアはニーナをおんぶして、遺跡の中を歩いていた。
おんぶされているニーナは、松明を手にしている。
落とし穴に落ちて……
気がつけば、タニアとニーナの二人になっていた。
しかも、ニーナは落ちた際に足を捻ってしまったらしい。
タニアもニーナも回復魔法を使うことはできない。
ニーナの亜空間収納で薬を取り出して治療したものの、すぐに完治するわけではない。
ソラとルナに治してもらうのが一番確実だ。
なので、助けを待つという選択はしないで、自ら探しに行くことにした。
「わたし……重くない、かな?」
「なに言ってるのよ。軽いわよ? 羽みたい」
「んー……」
ニーナがちょっと照れていた。
「ごめんなさい……タニア」
「ん? どうして謝るの?」
「わたし、足を引っ張って……」
「そんなこと気にしてるの?」
「気にする、よ……仲間、だもん」
「なら、あたしは気にしないわ。仲間だもの」
タニアは明るい声で言う。
「仲間って、困っている時は支え合うものでしょ? だから、気にしないの」
「……んっ♪」
おんぶされたニーナの尻尾が、うれしそうにふりふりと揺れた。
――――――――――
「ライトニング・ストライク!」
紫電が走り抜けて、通路に巣くう魔物を蹴散らした。
しかし、全ての魔物を捕捉することはできない。
数匹、撃ち漏らしていた。
「第一球……投げたぁあああああ!!!」
ルナの頭の上で、ティナが大きく腕を振りかぶり……
魔力の塊を魔物めがけて投げつけた。
剛速球だった。
魔力の塊は見事に魔物の頭部を捉えて、パァンッ! と弾き飛ばす。
「ふはははっ、弱い、弱すぎるのだ! こんなものなのか?」
「そんなんじゃ、ウチらを止めることはできへんでー!」
ルナとティナは仲間とはぐれていても元気だった。
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