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227話 観光と噂と

 試験開始までしばらくの時間があるので、王都の観光をすることにした。

 ホライズンと比べると、王都は天と地ほどの差がある。

 街の規模は段違いで、活気や華やかさも桁違いで……


 ホライズンは良い街なのだけど、かすんでしまいそうなほどに王都は栄えていた。

 さすが、大陸の中心なだけはある。


「うにゃー、すごいね、レイン! こんなに広い街、私、初めて見たよ」

「ちょっとカナデ。あまりはしゃがないでくれる? あたし達まで田舎者と思われるじゃない」

「実際、田舎者ではないのですか?」

「うむ。我らは片田舎のホライズンに居を構えているからな。王都と比べると、田舎と言わざるをえないぞ」

「こらこら」


 ソラとルナは、ホライズンの人が聞いたら怒りそうなことを言っていた。

 軽くたしなめる。


「ホライズンも……良いところ、いっぱい……あるよ?」

「せやなー。良い人ばかりやし、食べものはうまいし、あと、ウチの体を作ってくれたガンツのおっちゃんもおるしな」


 ニーナとティナはホライズンの擁護に回っていた。

 そんな二人の言葉を聞いて、カナデが弁明する。


「別に、ホライズンを悪く言うつもりはないよ? にゃー、私もあそこは気に入っているし。ただ、やっぱりここはすごいなー、って言いたかったの」

「一長一短、っていうのもおかしいかもしれないが……どちらも良いところがある、っていう感じかな」

「そう! 私はそういうことが言いたいのっ」


 まあ……どちらかというと、俺はホライズンの方が好きかな?

 王都の華やかさも悪くないけど、俺にはちょっと似合わない。

 ホライズンのように落ち着いた雰囲気が好きだ。


「ねーねー、レイン。どこに行く?」

「あたし、美術館を見てみたいわ」

「にゃんですと? タニアが美術館……あっはっは、ご冗談を」

「あんた、締めるわよ……?」

「にゃん!?」


 追いかけっこが始まった。

 二人共、元気だなあ。


「おっ?」


 ふと、隣を歩くルナが明後日の方向を見た。

 鼻をすんすんと鳴らす。


「この良い匂いは……レイン、こっちなのだ!」

「お、おいっ」


 ルナに手を引っ張られる。

 何事かと、他のみんなもついてきた。


 たどり着いた場所は屋台だった。

 熱々の鉄板を使い、ホットサンドを焼いている。


「おぉ、素晴らしく良い匂いなのだ。レイン、ここはなんの店なのだ?」

「ホットサンドを売っているみたいだな」

「ほっとさんど?」

「知らないのか? 意外だな」


 料理が得意なルナのことだから、ホットサンドくらい知っているのかと思った。


「我は料理は得意だが、人間の料理は詳しくないぞ。今まで……まあ、今もだが、断交しているからな」

「そういうことか。これは、簡単に言うと焼いたサンドイッチだよ。中にハムとかチーズとか挟んで、熱々でとろけておいしいぞ」

「「「「「じゅるり」」」」」


 全員がよだれを垂らしそうな顔になっていた。


「せっかくだから食べるか?」


 苦笑しながら問いかけると、みんなは間髪入れずに頷いた。


 ホットサンドを七人前、注文した。

 具材はシンプルに、チーズとハム。

 足りないように思えるかもしれないが、複数の種類のチーズとハムが使われているらしく、ボリュームはたっぷりだ。


「はい。熱いから気をつけて」


 みんなにホットサンドを配る。


「いただきます、なのだ!」


 まずはルナがかぶりついて……

 次いで、みんながパクパクとホットサンドを食べた。


 ちなみに、ティナは人形に憑依している状態のみ、食事ができるようになった。

 ガンツが食事機能を追加してくれたのだ。

 とんでもない技術を持っている。


「おっ、おおおぉ……これは素晴らしいのだ! チーズがとろとろで、ハムがジューシーで……熱を加えることで二つの具材がパンと一体化して、口の中で絶妙なハーモニーを奏でるのだ!」

「どこでそんな言葉を覚えたのですか? はむはむ」


 ソラのツッコミを気にすることなく、ルナはホットサンドを食べ進める。

 他のみんなも笑顔で食べていた。


「……なんかいいな」


 こうしてみんなで一緒にのんびりと過ごす。

 穏やかで優しい時間に浸り、心が癒やされていくみたいだ。


 ちょっとした悩みも吹き飛んでしまう。

 いや、ウソだ。

 簡単に吹き飛ぶような悩みなら、苦労はしないよな。


「勇者……か」

「にゃん? どうしたの、レイン? 食べないの?」

「ちょっとぼーっとしてただけ」

「いらないなら私が……」

「ちゃんと食べるよ。というか、そんなに食べたら、後でごはんが食べられなくなるだろう。だから、ダメだ」

「にゃうー……」


 カナデの耳がぺたんと沈む。


「兄ちゃん、兄ちゃん。ウチのホットサンドは絶品だから、いくら食べても腹に溜まることはないよ!」


 屋台の店主がそう話しかけてきた。

 セールスの機会を逃したくないのだろう。


「それに、彼女が欲しいって言っているんだ。それなら、応えてやるのが彼氏の務め、ってもんだろう?」

「にゃん!? か、かかか、彼女!? そんな、私は、別に……にゃふふふ♪」

「むうううううっ」


 カナデが照れて、なぜかタニアがふくれた。

 勘違いされてカナデが照れるのはわかるんだけど、なぜタニアが怒るんだ?


「おじさん……おかわり、ください」

「うちも。っていうか、みんなの分よろしゅうなー」


 ニーナもホットサンドが気に入ったらしく、追加注文をしていた。

 ティナに焚き付けられたらしい。


「おい、勝手に……」

「あう……ダメ、かな?」


 ニーナはじっとこちらを見つめて、ちょっとおどおどとした様子で、小首をかしげる。

 そんな風にされて、断れるわけがない。


「はあ……仕方ないな。二つまでだからな?」

「うん。あり、がと……レイン♪」


 みんな、喜んでおかわりにかぶりついていた。

 ごはんが食べられなくなるとか、そういうことは今は気にしなくていいか。

 それよりも、みんなが笑顔でいられることを気にしておこう。


「兄ちゃん、見かけない顔だね。旅人かい?」


 屋台のおっちゃんが話しかけてきた。


「旅人というか、冒険者なんだ」

「冒険者っていうと……もしかして、試験を受けに?」

「よくわかったな」

「依頼以外で、冒険者が王都に来る理由なんてほぼないからな。それにしても、兄ちゃんが試験か……うん。良い面構えをしてるじゃねえか。俺は応援するぜ」

「ありがとう。よかったら、試験について話を聞かせてもらいたいんだけど……」

「おう、いいぜ。といっても、俺が話せることなんて限られてるけどな」


 おっちゃんから試験について、あれこれと聞き出した。

 とはいえ、本人が言っていたように、大した情報は持っていなかった。

 事前にギルドで聞いた話とほぼ同じだ。


「あ、そういや」


 何事か思い出した様子で、おっちゃんが言葉を続ける。


「今回の試験は、勇者様が試験官を担当するらしいぜ」

「……アリオスが?」


 思ってもいなかった話に、眉をひそめてしまう。


「それはどういうことなんだ? なんで、アリ……勇者が冒険者の試験に関わるんだ?」

「俺に聞かれてもわからないさ。ただ、聞いた話によると、勇者様が自分から申し出たらしいぜ。国の力になる冒険者の育成に携わりたいとかなんとか」

「そっか……ありがとな。おもしろい話を聞けたよ」

「あいよ。また来てくれよ」


 礼を言って話を終わらせた。

 屋台から離れたところで、小さな声でカナデが話しかけてくる。


「にゃー……あの勇者、またなにか企んでいるのかな?」

「どうだろうな。イリスの一件で、王にかなり絞られた、っていう話は聞いているが……」


 本来なら表に出ていない情報なのだけど、ナタリーさんが「特別ですよ?」と教えてくれた。


「でも、それくらいであの勇者が真面目になるなんて思えないなー」

「あたしも同感ね。アイツ、性根が腐ってねじまがって、一周回って知恵の輪みたいになっているじゃない。アイツを改心させるくらいなら、スライムに芸を仕込む方が簡単よ」

「タニア、言うね」

「本当のことでしょ」

「それはともかく……当日は気をつけた方がいいかもしれないな」


 あのアリオスが関わるとなると、またなにかが起きるかもしれない。

 そんな不安が広がり、晴れやかだった気分が曇りになってしまう。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言]うわっ!!あのクズ勇者が試験官だと!?改心するわけ無いぢゃん。どさくさに紛れて亡き者にしようとするな!!
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