226話 ぎこちない再会
ギルドの作りはホライズンと大して変わりない。
受付のカウンターがあり、依頼表が貼られている掲示板があり、冒険者同士の交流の場が用意されている。
ホライズンと比べると規模は大きく、数倍の広さを誇るものの……それ以外の基本的な作りは同じだ。
アクスとセルは椅子に座り、見知らぬ冒険者と話をしていた。
たぶん、依頼の打ち合わせをしていたのだろう。
「あー……ひさしぶりだな」
「そう、だな」
ぎこちない挨拶が交わされる。
俺もアクスも、相手のことをきちんと見ていない。
軽く視線を逸らしていて、気まずい顔をしている。
「おーっ、セルだ。久しぶりだね♪」
「元気にしていたかしら?」
「ええ。そちらは……聞くまでもないみたいね」
女性陣は気まずさとは無縁らしく、ひさしぶりの再会に喜んでいた。
そんなパートナーを見て、アクスが慌てる。
「お、おいおいっ、セル。どうしてそんな気さくに接してるんだよ?」
「おかしなことを言うのね。懐かしい顔に会ったのだから、こうするのが普通じゃない。それとも、イヤな顔をしろと?」
「そうは言わねえけどよ……でもな、俺とレイン達は……」
「対立したわね」
「わかってるなら、どうして……?」
「はあ……アクス。あなたバカ?」
セルが呆れたように言う。
その一言は思いの外堪えたらしく、アクスが顔をひきつらせた。
「昔は対立していたけど、今は対立する理由がないでしょう? 戦いもしたけれど、でも、殺し合いを望んだわけじゃない。それとも、アクスはケンカをした相手とは、一生、仲直りをしないのかしら?」
「そんなことはないけどよ……でも、いきなりのことだし。そう簡単に割り切れないだろ」
「それはあなたが子供だからよ」
ということは、気まずい思いをしている俺も子供なのだろうか……?
尋ねてみたいけれど、「その通りよ」と言われそうなのでやめておいた。
「って……ごめんなさい。話を中断させてしまって」
一緒に話をしていた冒険者に、セルは謝罪した。
気の良い人らしく、笑顔を返す。
「気にしなくていいさ。話を聞くと、知り合いなんだろう? 俺は行くから、旧交を温めるといい」
「ありがとう」
「お、おいっ、俺は別に……」
「じゃあ、あの件はまた後日に」
冒険者は笑顔を残してギルドを後にした。
「……」
「……」
沈黙。
みんなは二人と話をすることを俺に任せたらしく、なにも言わない。
セルも、アクスに話の主導権を与えたらしく、なにも言わない。
「あー……元気にしていたか?」
ずっと黙っているのもアレなので、無難な言葉を投げかけた。
「まあな。そっちは?」
「見ての通りだ」
「相変わらずのハーレムだな……ちくしょう。俺も、それくらいの美少女に囲まれていれば……」
「あら。私では不満ということなら、いつでも解散してもいいわよ?」
「ごめんなさい俺が悪かったですだからそんなこと言わないでください!!!」
アクスが光の速さで土下座していた。
「い、今、どうやって土下座したのか見えなかったのにゃ……」
「すごいわね……なかなかやるじゃない」
カナデとタニアが妙なところで戦慄していた。
「元気そうだな」
「……レイン達もな」
少しだけど、ようやく互いに笑み浮かべることができた。
一度は、縁が途切れたと思っていたけれど……
そんなことはなくて、再び交わることができた。
まあ、顔を合わせただけで、一緒に旅をしていた時のように仲良くやれるかわからないが……
それでも、また話をできることは素直にうれしいと思う。
「時間あるか? まあ……俺達は時間が空いたからな。少しなら付き合ってやらないでもないぜ」
「ツンデレですね」
「ツンデレだな」
「うるせえ!」
ソラとルナのつっこみに、アクスは顔を赤くして叫んだ。
アクスの誘いを受けることにして、テーブルについた。
ちなみに人数が多いので、二つのテーブルを繋げることにした。
みんな席についたところで、セルがやわらかい笑みを浮かべる。
「改めて……ひさしぶりね。元気にしていたみたいで、なによりね」
「二人も変わらないみたいだな」
「あら、それは成長していないということ?」
「いや、そういう意味じゃ……セルは、意地が悪くなったか?」
「ふふっ、冗談よ」
「……お前ら、仲いいな?」
アクスがジト目を向けてきた。
「セルの笑顔は俺だけのものだというのぐあっ!?」
「誰が誰のものだって?」
「す、すみませんでした……調子にのりました」
アクスが苦悶の表情を浮かべている。
たぶん、足を踏まれているのだろう。
「ところで、レイン達はどうして王都へ? もしかして、活動拠点を変えたのかしら?」
「いや、そういうわけじゃないさ。試験を受けようと思って」
「もしかして、Aランクの?」
「ああ。アクスとセルが離れた後、ホライズンでちょっとした事件が起きて……それを解決したら、Bランクに昇格できたんだ。その時にAランク昇格試験のことを聞いて、それで」
「なるほどね。いいんじゃないかしら? レイン達なら、問題なく受かると思うわ。それにしても……これも縁なのかしらね?」
「うん? それはどういう……」
「内緒。こういうことは、黙っていた方がおもしろいもの」
なにかしらあるみたいだけど、セルは教えるつもりはないらしい。
子供がいたずらを企んでいるような顔をしているから、悪いことではないと思うが……うーん、気になるな。
――――――――――
「それじゃあ、私達はそろそろ行くわ」
しばらく話をしたところで、セルがそう言って立ち上がる。
アクスも追従して席を立つ。
気がつけば、30分ほどが経過していた。
意外と話し込んでしまったみたいだ。
「よかったら、また会いましょう。これ、私達が泊まっている宿の連絡先よ」
「ありがとう。俺達はまだ宿を決めてないから、決まったら連絡するよ」
「待っているわ。ほら、行くわよ、アクス」
「わかってるって。その前に……あー、レイン」
「うん?」
「……またな」
「ああ、また」
セルはともかく、アクスとはまだ気まずいところがある。
それでも、少しずつ歩み寄れている。
「レイン、うれしそうだね」
「そうか?」
「うん。にこにこー、ってしているよ」
「……そうだな。うれしいと思う」
一度は、二人との関係が完全に途切れたと思っていたからな。
そうならなかった運命に感謝したい。
「さてと……俺達もやることをやるか」
「王都のグルメツアーなのだ!」
「ちがいます」
「昇格試験の申し込みやでー」
「ティナの言う通り、目的を忘れないでくれよ? グルメツアーは、その後っていうことで」
「聞いたぞ! 約束なのだ!」
苦笑しながら受付に向かう。
「すみません」
「はい、なんですか?」
「って、ナタリーさん!?」
なぜか、ナタリーさんが受付嬢をやっていた。
「あら、ナタリーの知り合いですか?」
「え? え?」
「ふふっ、その様子だと私をナタリーと勘違いしているみたいですね」
「違うんですか……?」
「違いますよ。私は、双子の姉のナナリーと言います。よろしくおねがいします」
驚いた。
まさか、ナタリーさんに双子の姉がいて、同じく冒険者ギルドの受付嬢をしているなんて……
このことを告げなかったのは、俺達が驚くからと考えたからだろうな。
ナタリーさん、あれでいたずらっぽいところがあるからな。
「もしかして、シュラウドさんですか?」
「どうして俺のことを?」
「妹から色々と聞いていますから。色々と、ね……ふふっ」
いったい、どんな話をしているのだろうか……?
「本日はどのような用件で?」
「Aランク昇格試験の申込みをしたいんだけど、話は聞いていないか? あ、それとこれ、紹介状」
「はい、聞いていますよ。紹介状もお預かりしますね」
ナナリーさんはテキパキと書類に記述をしてまとめていく。
ナタリーさんと同じく優秀だ。
「手続きは完了しました。試験は後日行われるので、また、ギルドに来てください」
「了解」
こうして、俺はAランク昇格試験に挑むことになった。
無事に合格できるかわからないが……
全力を尽くして、後悔のないようにしよう。
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