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225話 王都の朝

 サーリャを助けたことで歓待を受けたレイン達は、そのまま王城の客室に泊まった。

 一人一部屋。

 しかも、部屋は普通の宿の数倍の広さがある。


 さすが王城だった。

 贅沢だった。


 しかし、時にその贅沢が敵となる。

 広い部屋に一人……広い空間を贅沢に使えるという喜びだけではなくて、一人きりということを強く意識してしまう。

 そんな寂しさに、まだ幼いニーナが耐えられるわけがなくて……


「すぅ……すぅ……んんぅ……くぅ……」


 ニーナはレインの部屋にこっそりと移動して、そのままベッドに潜り込んでいた。

 くるっと丸くなり、レインと一緒に寝ている。


 レインはレインで、未だ寝ていて、そのことに気がついていない。

 昨夜は遅くまで考えごとをしていたため、眠りについたのが遅いためだ。


「にゃー……ニーナ、またレインのところに来てるし」

「このお子さま、意外な伏兵?」


 レインとニーナを見つめる影が二つ。

 カナデとタニアだった。


 レインを起こしてあげよう。

 あわよくば、その寝顔を見よう。


 そんなことを考えた恋愛脳の最強種が二人。

 同じことを考えていたらしく、レインの部屋の前でカナデとタニアは鉢合わせた。

 最初は、レインを起こすのは自分の役目だ! ……と、火花をバチバチと散らした。

 しかし、ここで争い、大きな音や声を出してレインを起こしてしまうのは得策ではない。

 故に二人は同盟を結び、一緒にレインを起こすことにした。


 だというのに……

 まさか、自分達よりも年下のニーナに先を越されているなんて。

 いや。

 先を越されるだけではなくて、レインと一緒に添い寝をしているなんて。

 うらやまけしからん!


「タニア」

「なによ?」

「これ……どうしようか?」

「……どうしましょうか?」


 ニーナのことは、うらやまけしからん。

 しかし、子供のすることだ。

 嫉妬に怒るなんてことをしたら、大人としてアウトだ。

 寛容な心を持たなくてはいけない。


 しかし、うらやましい。

 嫉妬するなんて大人げない。

 それは理解しているのだけど、うらやましい。

 理屈と感情は一緒の結論に辿ることはないのだ。


「にゃうー……あっ、閃いた!」

「つまらないアイディアだったら容赦しないわよ、色ボケネコ」

「色ボケ!? タニアには言われたくないにゃ……」

「で、どうするわけ?」

「私達も一緒に寝よう!」


 カナデは胸を張り、ドヤ顔で言い放った。


「……時々、カナデがとんでもない大物に見えてくるわ」

「にゃん?」

「でもまあ、悪くない案ね。うん。レインを起こしに来たんだけど、なかなか起きないから、ついついあたしたちも一緒に……そうね、これは仕方ないことね」

「そうそう、仕方ないことだよ」

「まあ、あたしはこんなことはしたくないんだけど? でも、カナデがどうしてもしたい、って言っているし? 邪魔したら泣かれてしまいそうだし? だから、仕方なくよ」

「なんか、私のせいにされているし……まあいいや。ではでは、さっそく♪」

「あっ、こら! 抜け駆けしないのっ」


 カナデとタニアがベッドに潜り込み、レインにぴたりと貼りついた。


 ニーナのもふもふ感に加えて、カナデとタニアの温もり。

 さすがに暑く、レインは寝苦しそうにうめいた。


「うっ、うぅ……」

「にゃー……さすがに三人は無理があるかな?」

「もっとつめればいいのよ。ほら、カナデはあっち」

「そんなことをしたら落ちちゃうよ!?」

「そうならないようにがんばりなさい」

「どうやって?」

「さあ?」

「丸投げ!? そして、無責任!?」

「ふふん、この間に、あたしはレインを独り占め♪」

「にゃー……タニアって、レインが寝ている時なんかは、けっこう大胆だよね。あと、すっごく素直」

「う、うるさいわねっ。仕方ないじゃない、起きている時にこんなこと、恥ずかしくて言えないわよ」

「まあ、わからないでもないけどねー」


 ……などなど。

 あれこれと話をしていると、ニーナがもそりと起きた。


「はふぅ……んんぅ……カナデ? タニア?」

「わっ、起こしちゃった?」

「ち、違うのよ、ニーナ? これはレインと一緒に寝たいわけじゃなくて、えっと、その……」

「……みんな、一緒。えへへ、うれしいな」


 無邪気さ100%の笑みを浮かべて、ニーナはカナデとタニアに抱きついた。

 そのまま、再び寝息を立ててしまう。


「……おとなしくしてようか」

「……そうね」


 カナデとタニアもニーナを抱きしめるようにして……

 そのまま眠りについた。


 ちなみに……

 当然のことながら、その後、目を覚ましたレインは何事かと驚いて……

 ソラとルナとティナは仲間外れにされたと怒るのだった。




――――――――――




 朝。

 いつの間にか、カナデとタニアとニーナがベッドに潜り込んでいるというハプニングがあったものの……

 朝食をいただき、それから城を後にすることにした。


「もう行ってしまうのですか? 残念です」


 城に入って少しのところまで、サーリャさまが見送りに来てくれていた。

 一介の冒険者にするようなことじゃないのだけど……

 サーリャさまは、俺の血のことを知っているのだろうか?

 それとも知らずに、ただの善意なのだろうか?


 ついつい、そんなことを考えてしまう。


「試験はもう少し先ですよね? 試験まで、城に泊まっていけばいいのに」

「いや、さすがにそれは……」


 王城を宿代わりになんてできない。

 サーリャさまも王も気にしないのかもしれないが、俺が気にする。


「残念です……レインさんの話、もっとたくさん聞きたかったのですが」

「機会があれば、また。これで会えなくなるわけじゃないですし」

「それもそうですね。次の機会を楽しみにしています。それまでは、勇者さまに話をせがむことにします」

「勇者? もしかして、アリオスがここに……?」

「ええ。少し前から、王都に滞在していますよ。今は城下町の宿にいますが、定期的に城に足を運んでいるみたいですね」

「……そうですか」


 ばったり遭遇しなくてよかった。

 アリオスの顔なんて見たくないし……

 なによりも今は、昨夜知らされた血のことがある。

 どんな顔をしてアリオスと話をすればいいかわからない。


 まあ、アリオスを相手に、そこまで考える必要はないのかもしれないが。

 そもそも、気さくに話をする間柄でもないし。


「じゃあ、俺達はそろそろ」

「はい。レインさん達ならばいつでも歓迎するので、気軽に遊びに来てくださいね」

「えっと……はい、ありがとうございます」


 王城は気軽に行けるようなところじゃないんだけどな……

 内心で苦笑しながらも、サーリャさまの好意をありがたく思い、頷いておいた。


「またねー♪」

「ばい……ばい」


 カナデとニーナの気さくな挨拶に、サーリャさまは笑みを浮かべて手を振り……

 そうして見送られながら、俺達は王城を後にした。


 外に出ると、温かい日差しに包まれた。

 空は青く、白い雲が流れている。

 その隙間から太陽が顔を覗かせて、今日も元気に輝いていた。


「この街は活気がありますね」


 周囲の様子を見て、ソラがそんなことを言う。


「ホライズンもたくさんの人がいましたが……ここは、それ以上です。たくさんの人がいて、たくさんの建物があって、とても興味深いです」

「うむっ、なかなかいいところではないか。レインよ。我は王都の食べものに興味があるぞ。屋台はないのか? 食堂でもいいぞ?」

「探せばあると思うけど、朝食を食べたばかりだろう?」

「我の胃は宇宙なのだ!」


 体は小さいのに、どうしてそんなに入るのだろう?

 成長期なのだろうか?


「悪い。王都観光もいいんだけど、その前に、本来の用事を済ませてもいいか?」

「む? もう試験とやらが行われるのか?」

「試験はまだ先だよ。ただ、受付はもう始まっているらしいから……手違いとか起きた時のために、なるべく早く済ませておきたいんだ」

「そういうことなら仕方ないのだ。冒険者ギルドに急ぐのだ」

「意外ですね……食いしん坊魔神のルナのことだから、食べものを優先させると思っていましたが」

「ふふんっ、我を馬鹿にするでないぞ。我は日々、成長しているのだからな!」

「あかんで、ルナ。ソラに軽く馬鹿にされとるで……」


 みんなと一緒の楽しい時間を過ごしながら、王都の冒険者ギルドへ移動した。

 王都の冒険者ギルドは、ホライズンの数倍は大きい。

 さすが王都というべきか。


 若干の緊張を覚えながら建物の中へ。

 そして……


「お前……!?」

「アクス!?」

「あら。ひさしぶりね」


 懐かしい姿がそこにあった。

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