224話 膨れ上がる悪意
王都周辺に巣を作るキメラを討伐するという任務を達成した後、アリオス達は帰還した。
人々がアリオス達の姿を見かけて、歓声を上げる。
ホライズンでは、勇者の名は地に落ちているが……
王都ではそんなことはない。
人類の希望。
魔王を打ち倒す救世主。
そのように扱われていて、たくさんの人々の支持を得ていた。
一部、ホライズンの街の情報が入ってくるものの……
遠い街のことなので、事実が歪曲されてしまったのだろう、と誰も本気にしていない。
「はー、疲れたー。キメラ退治なんて厄介な任務、久しぶりだし。ねーねー、もうこんなことしなくていいよね? 明日もまた、なんてことにならないわよね?」
リーンがくたびれた様子でため息をこぼした。
楽して金と名誉と地位が欲しい、と本気で考えているため、苦労というものを嫌う。
「明日は……どうなのでしょうか? なにかしら、任務はあるかもしれませんが……だとしても、より好みしてはいけませんよ。今は、私達の名声を回復しなければいけませんし、それに、強くならないといけませんからね」
ミナは教会で育てられた神官なので、アリオスと国の両方に仕えている。
なので、与えられた任務をわずらわしいと思うことはない。
ただ、根本的な部分では自分達の利益だけしか考えておらず、ある意味でリーンと似ていた。
アッガスがモニカに尋ねる。
「その辺り、どうなんだ? 任務は明日もあるのか?」
「そうですね……王城に戻り、確認してみないとハッキリとしたことは言えませんが、たぶん、ないと思いますよ。ここ最近、任務ばかりでしたからね。さすがに、たまには休みをとらないと」
「そうか、それは助かる」
「やった、久しぶりの休みね! ねえねえ、これだけの任務をこなしているんだから、当然、給金は出るわよね?」
「はい、問題ないかと。私から見ても、みなさんはきちんと任務をこなしていますし、給金を止めることはありませんよ」
「ふふっ、なにを買おうかな? アクセとか見て回ろうかな? ミナ、一緒に見る?」
「私、そのようなことに興味はないのですが……」
「はあ……あんたねえ。女の子なんだから、着飾ることも覚えなさいよ。あたしが教えてあげる」
「まあ……お任せいたします」
「モニカはどうする? 一緒する?」
「すみません。せっかくのお誘いなのですが、少し用事がありまして……」
「そういうことなら仕方ないわね。ま、いいわ。モニカの分まで楽しんできてあげる」
「たっぷりと英気を養ってください」
「ああ、そうさせてもらうつもりだ」
この数日で、リーンとミナとアッガスは、すっかりモニカと仲良くなった。
一方のアリオスは……
「ちっ」
仲間達と距離を置いていて、一人の時間を過ごすことが多い。
自分ではなくて、国から派遣された騎士がパーティーの中心にいるなんて……
あまり気分のいい話ではない。
自分のために結成されたパーティーなのだ。
故に、自分が中心にいなければいけない。
そんな子供じみたことを思いながらも、モニカの人柄はアリオスよりも圧倒的に上で、仲間達は彼女と親しくしていく。
アリオスができることといえば、不機嫌そうに距離を取るだけだ。
まるで子供の反抗期だ。
失笑ものなのだけど、それを自覚するだけの余裕はなかった。
――――――――――
翌日。
モニカが言っていたように、新しい任務が下ることはなくて、アリオス達は久しぶりの休暇が与えられた。
ミナは、リーンに連れられて買い物へ。
アッガスは食事を楽しむらしく、同じく城下町へ繰り出した。
アリオスは外に出る気分になれず、宿の部屋でゆっくりしていた。
ソファーに座り、本を読む。
「失礼します」
「……モニカか」
穏やかな時間を過ごしていると、乱入者が現れた。
モニカだ。
用事があると言っていたはずなのに、なぜここへ?
アリオスが訝しげな顔をすると、その疑問に答えるように、モニカがふわりと微笑む。
「私の用事は……アリオスさまとお話をすることですよ」
「話を?」
「私の気のせいかもしれませんが、アリオスさまに避けられているような気がして……」
「正解だな。僕はお前を避けている」
「なぜですか?」
「監視役と仲良くできるわけないだろう」
「私は、アリオスさまを監視しているつもりはないのですが……ですが、そう思われても仕方ありませんね。実際に、アリオスさまの行動を王に報告するように言われていますから」
「見たことか。そんなヤツと仲良くできると思うか? 答えはできない、だ」
アリオスは出て行けというように手を振るが……
モニカはそれを無視して、アリオスの隣に腰を下ろす。
そして、その魅力的な体をアリオスに寄せた。
「もうしわけありません。勘違いをさせてしまったみたいですね」
「勘違い?」
「確かに、私はアリオスさまを監視しているかもしれません。しかし、それはあくまでも任務だから、という理由で……私自身は、そのようなことはしたくないと思っています」
「どうだかな」
「私は、アリオスさまのことを尊敬しています。勇者様として、素晴らしい方だと思っています。それに……異性としても魅力的だと」
モニカは体を押し付けるようにしながら、甘い言葉をささやいた。
アリオスは眉をひそめているが……
若干、不機嫌そうな表情が薄れていた。
国から派遣された監視役ということで、疎ましく思っていたけれど……
それを抜きにすれば、モニカは絶世の美女だ。
男を立てる性格をしていて、スタイルも申し分ない。
言い寄られて悪い気分はしなかった。
とはいえ、ほいほいと餌に食らいつくほどアリオスも馬鹿ではない。
一度、距離をとる。
「僕と話をしたいというのなら、構わない。ただ、つまらない話をするようなら、付き合うことはないぞ?」
「アリオスさまの興味を惹く話ですが、難しい問題ですね」
「ネタがないなら、すぐに部屋を出て行け。それとも、僕が食いついてしまうようなネタがあるとでも? そういうことならば、話をしても構わないけどね」
「ありますよ」
モニカは即答した。
にっこりと笑いながら、口を開く。
「レイン・シュラウド」
「っ!?」
「かつて、アリオスさまのパーティーに所属していた方ですよね?」
「どこで、レインのことを……」
「私、こう見えてもエリートなので。優秀な部下がたくさんいるので、情報収集は得意なんですよ」
「あいつの話をして、どうするつもりだ?」
「興味があるのでは?」
「……」
アリオスは否定しない。
つまり、そういうことだ。
「私の調査によると……」
モニカは微笑みながら、レインについての話をした。
『ホライズンの英雄』と呼ばれていること。
五人の最強種を仲間にして、さらに幽霊もパーティーに加えたこと。
悪魔を討伐したことで、Bランクに昇格したこと。
王女を助けて、コネクションができたこと。
起きた出来事を順々に伝えていく。
ただし……
レインが神の血を引いている……アリオスと同じく、勇者の資格があることは口にしなかった。
そのことを告げれば、アリオスは確実に暴走するだろう。
それはそれでおもしろいことになりそうだが……
しかし、今はまだその時ではない。
モニカはそんなことを考えながら、一点を除いて、説明をした。
「ばかな……あの役立たずが、そこまで成り上がっているなんて……ありえない。そんなことはありえないぞ……というか、あってたまるものか!」
レインの活躍を聞いたアリオスは、わなわなと震えた。
役立たずのくせに。
落ちこぼれのくせに。
それなのに自分よりも活躍しているなんて……許せない!
身勝手極まりない思考なのだけど、それを指摘するものはいない。
アリオスの中で暗い感情が膨らんでいく。
「私も、アリオスさまの言う通りだと思います。レイン・シュラウドは、確かに、数々の功績を打ち立てた。しかし、品位というものに欠けています。神の血を引くアリオスさまの方が、『英雄』という言葉がふさわしいかと」
「なんだ、わかっているじゃないか。そうだ……あんなクズよりも僕の方が優れている。あいつは、ただのビーストテイマーで僕は勇者だ……僕の方が上に決まっている」
「ええ、もちろん。まさに、その通りかと」
モニカは優しく微笑みながら、ひたすらにアリオスを持ち上げた。
冷静な時のアリオスならば、モニカの笑みの向こうにある歪んだ感情に気がついたかもしれないが……
レインの話を持ち出されたことで、今のアリオスは冷静さを失っていた。
モニカに持ち上げられるまま、誘導されるまま……
自分こそが優れている、という思考に染められていく。
「それにしても……レインのヤツ、王都に来ているのか。今度は、なにを企んでいる?」
「どうも、Aランクの昇格試験を受けるつもりらしいですね」
「なるほど、そういうことか……」
「もしも、レイン・シュラウドが試験に合格したら……おもしろくないことになりそうですね。現在の記録では、史上最年少のAランクは21歳です。しかし、レイン・シュラウドが合格したら、その記録は大きく塗り替えられることになります。人々は、彼を讃えるかもしれません。第二の勇者だ、と思う人が出てくるかもしれません」
「ばかな!? 勇者はこの僕、ただ一人だ! あんなヤツが勇者であってたまるものか!」
「はい、その通りです。勇者はアリオスさま、ただ一人です。今のはただの例えなので、あまり気になさらず。しかし、このままだと、現実のものになってしまうかもしれないという懸念はありまして……」
「何が言いたい?」
「排除してしまいませんか?」
あまりにもあっさりと言うものだから、アリオスは驚いてしまった。
モニカは当たり前のことを告げるように、言葉を続ける。
「アリオスさまの邪魔をするような者は、排除してしまいましょう」
「君がそのようなことを口にしてもいいのかい? そういうことをさせないために、僕の監視をしているんじゃないのか?」
「それも任務ですが……しかし、私は、アリオスさまの方を優先的に考えていますので。それゆえに、アリオスさまを悩ませるレイン・シュラウドのことが許せないのです」
「ふは……はははっ、なんだ! 話がわかるじゃないか」
モニカの言葉に気をよくしたアリオスは、笑い声をあげた。
敵だと思っていたが……違う。
この女は味方だ。
自分に付き従う存在だ。
アッガス、ミナ、リーンのように、好きに扱っていい駒だ。
そう認識したアリオスは、歪んだ笑みを浮かべる。
「おもしろい話だ。もっと詳しく話を聞きたいな? 当然、先の計画も立てているんだろう?」
「細かいところは詰める必要はありますが、基本的なところはすでに」
「いいだろう。お前の言うとおりにしてやろうじゃないか。確かに、レインのヤツは邪魔だ。以前から、どうにかしたいと思っていた。それが叶うのなら、お前の話に乗る価値はある」
「お前ではなくて、モニカと呼んでください……ふふっ」
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