223話 血筋
「……え?」
なにを言われたのか理解できず、思わず問い返してしまう。
そんな失礼を気にした様子もなく、王は話を続ける。
「神の血を引く者が勇者となる、そのことは知っているな?」
「は、はい……」
「勇者は魔王に対抗するための切り札。絶対に失うわけにはいかぬ。故に、いくつもの分家が作られて、その血が分けられることになった。これは知っていたか?」
「い、いえ……初耳です」
「だろうな。神の血を引く者が複数存在する……そのようなことが知られたら、よからぬことを考える者が現れるかもしれん。例えば、自分こそが真の勇者だと名乗り出る……とかな。そのような混乱を避けるために、この件は厳重に管理されることになった。神の血を引く者が複数存在しているということは、分家の長しか知らぬことだ」
「どうして、そんな話を俺に?」
ある種の予感があった。
王の言いたいことはすでに理解していた。
それでも、あえて尋ねた。
「ビーストテイマーの里にも分家が存在した。その名前は……シュラウド。そなたの家のことだ」
「っ!?」
ここまで話を聞いて、ある程度、予想はできたことだけど……
それでも実際にそう告げられると、衝撃があった。
俺が神の血を引いている……?
そんなことは誰も教えてくれなかった。
亡くなった父さんと母さんも、村の人達も、誰も……
「それは本当のことですか? なにかの間違いでは……」
「最初は疑った。かなり前に滅びた分家の生き残りがいたなんて、できすぎた話だからな。しかし……そなたについて調査をするうちに、疑念は確信に変わった」
「……」
「ただのビーストテイマーの枠を越えて、複数の最強種を使役する。最強種だけではなくて、幽霊も使役して、他にも昆虫も使役することができる。ホライズンの領主の不正を暴き、南大陸で暴れた悪魔の討伐を成し遂げる」
「……色々と調べているんですね」
「すまぬな。そなたが回りくどい手を使い、王室に取り入ることが目的だった……とも限らなかったのでな。それと、シュラウドの名前には覚えがあったため……色々と調べさせてもらった」
「この短時間で、よくもまあ……」
「王城には優れた人材が揃っているからな」
王が不敵な笑みを浮かべた。
「そなたのことを調べることで、確信を得た。そなたは分家の生き残りで、神の血を引いている、とな」
「それは……」
いきなりそんなことを言われても実感が湧かない。
当たり前だ。
いきなり勇者の資格があると言われても、そんなこと考えたこともない。
ただ……納得できるところはあった。
最初は当たり前のことだと思っていたが……
みんなが言うように、俺のビーストテイマーとしての力は普通の範囲を大きく越えている。
それだけではなくて、成長速度もずば抜けている。
神の血を引いているということが理由ならば、納得できる。
色々なことに説明がつく。
「そなたもまた、勇者なのだよ」
「俺が……勇者……」
やはり、実感は湧いてこない。
「……王は、俺になにを求めているのですか?」
「今はなにも」
王は夜空を見上げた。
その瞳になにが映っているのか?
それは本人にしかわからない。
「アリオスが勇者として選ばれたのは、一番、血が濃いからだ。血が濃ければ濃いほど、強い力を得ることができる。そう考えて、アリオスを勇者にした。が……力はともかく、その心が勇者としてふさわしいかというと、迷うところがある」
まあ、あんなだからな。
擁護する言葉なんて、欠片も出てこない。
「もしもこの先、なにかしらあれば……事態が大きく揺らぐようなことがあれば……その時は、アリオスに代わる勇者を求めるかもしれない」
「それが俺だと?」
「候補の一つに加えたいと思っている。言葉を取り繕うことなく言うと、予備だな」
「ストレートに言いますね……」
「言葉を濁しても仕方ないだろう。それに、そなたに対しては、変にごまかそうとせず、まっすぐにぶつかった方がいいと判断した」
人を見る目は確かみたいだ。
「いざという時が来たら、そなたの力をかりたいと思っている。どうだ? 力をかしてくれるか?」
「……勝手な話ですね」
相手は王なのだけど、そんな言葉が飛び出してしまう。
アリオスのことを勇者として担ぎ上げておいて……
それがダメになると、すぐに他を頼る。
勝手と言われても仕方ないと思う。
「この国を守るためならば、どのようなことでもしよう。それが王というものだ」
「……」
「まあ、自分から聞いておいてなんだが、すぐに答えを出す必要はない。当分は、アリオスを頼りにするつもりだ。他のことは、まだ本格的には考えていない」
ということは、多少は考えているということか。
「頭の片隅に留めておいてくれるだけでいい。たまに思い出して、考えてくれるだけでいい。そしてできることならば……いざという時に備えて、覚悟を決めてほしい」
「……ご期待に添えられるかどうか、わかりませんよ?」
「そなたは『良い』人間だ。民を見捨てるようなことはしないと信じているよ」
卑怯な言い方だった。
――――――――――
夜遅くまで宴は続いて……
みんなが酔いつぶれたところで宴は終了した。
カナデとタニアとソラとルナは、おもいきり酒を飲んだらしく、顔を赤くして、ベッドに入るなりすぐに寝息を立てた。
ニーナはまだ子供なので酒は飲んでいないが、たくさん食べて眠くなったらしく、こちらもすぐに寝た。
ティナは料理は食べられないものの、その場の雰囲気に酔ったらしく、同じく寝た。
「ふう」
みんなをベッドに寝かせた後、部屋を後にする。
さすがに、部屋は男女別だ。
俺は隣の部屋を使うことになっている。
「……」
ただ、すぐに寝る気になれなくて、中庭に降りた。
とても広い中庭だ。
たくさんの緑と花が咲いていて、小さな川も作られている。
どこからともなく虫の鳴き声が聞こえてきて、自然の演奏が繰り広げられる。
「どうかしましたか?」
振り返るとサーリャさまの姿が。
宴の時のドレス姿ではなくて、パジャマを着ていた。
王女さまのパジャマ姿なんて見ていいのだろうか?
迷うけれど、サーリャさまが堂々としているから、きっと問題ないのだろうと判断した。
「少し夜風に当たりに」
「眠れないのですか?」
「そうですね……色々と考えることができて」
「それは、父とした話が関係あるのですか?」
「鋭いですね。もしかして、人の心でも読めるんですか?」
「ふふっ、どうでしょう」
サーリャさまはいたずらっぽく笑う。
意外と茶目っ気のある人みたいだ。
「父になにか言われたのですか? レインさんが困ってしまうようなことを頼まれた、とか?」
「まあ……そんな感じです」
俺の中に流れる血のことは口外しないようにと言われたので、適当にぼかしておいた。
「そうですか……すみません、父が無茶を言ったみたいで」
「あ、いや。サーリャさまが気にすることじゃあ……」
「父の問題は私の問題でもありますから。私にできることがあれば、なんでもおっしゃってください」
「サーリャさま……」
「もちろん、父が関係していなくても、困ったことがあればおっしゃってください。私にできることならば、力になります。レインさんには、まだ恩を返していませんからね」
「ありがとうございます。なにかあった時は、頼りにします」
「ええ、ぜひ頼りにしてください」
自分の中に流れる血のこと……
そして、サーリャさまとの間に交わされた約束のこと……
この王都に来て、色々なことが起きた。
もしかしたら、ここが俺の人生の転換期なのかもしれない。
この先、俺はどうするのだろう?
夜空を見上げながら考えるものの、その答えは見つからない。
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