220話 裏切りもの
夜。
自分のために特設された寝所で、サーリャは穏やかな寝息を立てていた。
柔らかい布団と温かい毛布にくるまれている。
その寝姿は子供のようで、毛布を頭までかぶっていた。
「……」
音もなく寝所に侵入する人影があった。
暗闇に紛れるように、人影はゆっくりとサーリャに近づいていく。
人影はゆっくりと剣を抜いた。
その刃をサーリャに向けて……
勢いよく振り下ろす!
キィンッ!
「なっ……!?」
刃は毛布を切り裂いたが、その奥にまでは届かない。
なにか硬いものにぶつかったかのように、弾かれた。
手がしびれたらしく、人影は手をおさえる。
「そこまでだ」
瞬間、テント内に光球が生まれた。
光はテント内を照らし出して、人影の姿をあらわにする。
その正体は……騎士アレクだった。
――――――――――
突然のことに、アレクは動揺しているみたいだった。
まあ、当たり前の反応だろう。
王女を暗殺しようとしたら、なぜか、俺が現れたのだから。
「貴様、どうしてここに……」
「怪しいと思って、張り込んでみたんだよ」
サーリャの話を聞いて、おかしいと思ったことがある。
機密性の高い公務のために、目立たないように、最小限の護衛だけを連れて旅をする。
それ自体はわからないでもない。
おかしいのは、護衛の騎士の実力だ。
少数で王女を守らなければいけないのだから、一騎当千の実力者でなくてはならない。
しかし、アレク達はオーガ程度に苦戦していた。
力が足りないのかと思ったが……
それにしては、カナデやタニアが発する気に威圧されることなく、平然としていた。
それなりの実力があると判断しても問題はない。
ならば、なぜオーガ相手に苦戦していたのか?
あえて魔物の襲撃を誘い、サーリャを狙わせることが本来の目的だとしたら?
アレク達の動機はわからないが、そう考えると納得がいく。
もちろん、証拠はない。
俺の考えすぎ、ということもある。
ただ、あの後、サーリャさまに騎士について話を聞いてみたのだけど……
同じようなことが何度かあったらしい。
違和感が大きくなり、疑惑へ変わる。
ただ、証拠はない。
問い詰めてもごまかされるだろう。
なので、罠を張ることにした。
俺の考え通りだとしたら……
アレク達は俺達という同行者が加わり、焦っているはずだ。
ならば、早々に動くだろう。
そして、俺達に罪をかぶせる……というようなことを考えるはず。
そんな予想をして、サーリャさまの寝所を見張ることにしたのだ。
もちろん、サーリャさまが危険にさらされることにならないように……
「ふふんっ、お前の悪事は、我がバッチリくっきりと目撃したのだ!」
毛布をはねのけてルナが現れた。
サーリャさまに頼み、寝床を代わってもらっていたのだ。
剣は魔法で防いでいたので、まったくの無傷だ。
「くっ……貴様ら……!」
「王都までの数日間、ずっと罠をしかけておくつもりだったんだけど……初日で釣れるなんてラッキーだな。いや……騎士が王女さまの命を狙うなんてこと、あってほしくなかったから、アンラッキーというべきか?」
「……第三王女はどこだ?」
「言うわけないだろ」
手のしびれが収まるのを待っていたのだろう。
アレクが無言で突撃してきた。
「レインっ」
ルナが焦ったように叫ぶが、それは心配しすぎというものだ。
「ふっ!」
アレクが剣を振り下ろす。
剣を握る手に向けて、蹴撃を叩き込んだ。
「がっ!?」
指の骨を砕く感触が足の裏に伝わる。
それでも、さすが騎士というべきか。
アレクは苦痛に顔を歪めながらも剣を放り出すことなく、無理矢理に握りしめて、第二撃を放ってくる。
軽く剣筋が鈍っているが、その速度はまるで衰えていない。
これが本来のアレクの力なのだろう。
これだけの力があれば、オーガなんて一人で蹴散らせただろう。
しかし……
「アースバインド!」
「ぐっ……こ、これは!?」
ルナの魔法が炸裂して、アレクの動きを封じた。
精霊族のルナの魔法だ。
さすがにこれに抗うことはできず、アレクは抵抗することを諦めた。
――――――――――
「……おつかれさまでした」
他の騎士二人も捕らえて……
念のために周囲の探索も行い、安全を確保したところで、俺達が使う馬車へ。
その荷台からサーリャさまが姿を見せた。
アレクとやりあっている間、ここに避難してもらっていたのだ。
もちろん一人ではなくて、カナデとタニア、ニーナも一緒にいてもらった。
ティナは他の二人の騎士の捕縛。
ソラは魔法を使い、アレクがサーリャさまを襲うところを記録してもらった。
「騎士達はどうしていますか?」
「絶対に逃げられないところに放り込んでいます」
「ん……逃げられない、よ?」
近くで話を聞いていたニーナが、誇らしそうに言った。
アレクを始め、騎士達はニーナの亜空間に放り込んでおいた。
最近のニーナは色々と成長しているらしく、人三人を収納しても問題ないらしい。
光も音もなく、時間の経過すらもわからない。
そんな空間に拘束されるのは酷かもしれないが……
相手は王女を暗殺しようとした大罪人だ。
身の安全を気にする必要はないだろう。
「話をしますか?」
「いえ、その必要はありません」
「どうしてあんなことをしたのか、気にならないんですか?」
「なんとなく、予想はついていますので」
そう言って、サーリャさまは寂しそうな顔をした。
予想はつくというが、やはり、ショックはあるのだろう。
信頼できる仲間がいる俺をうらやましいという言葉……
サーリャさまには、そういう人がいないのかもしれない。
だからこその、あの発言なのかもしれない。
そう思うと、いたたまれない気持ちになった。
「正直なことを言うと、今回のことは、ある程度、予想していました。なので、レインさん達に依頼をして……私なりに、自分の身を守ろうとした、というわけです」
色々と納得がいった。
いくらなんでも、出会ったばかりの人に護衛を依頼するなんてこと、普通はしないだろうし……
自らの身分を明かすこともしないだろう。
最初からアレク達に疑念を抱いていたからこその行動なのか。
サーリャさまは、俺が思っている以上に頭がいいみたいだ。
「これからどうしますか?」
「王都へ戻り、今回のことを王に報告しなければいけません。お手数をかけてしまいますが……このまま、私の護衛を依頼できませんか?」
「もちろん、構いませんよ」
「ありがとうございます」
頭を下げられて、こっちが恐縮してしまう。
こうして、民を相手に頭を下げることができる。
そんな王女さまを狙うなんて……いったい、どんな思惑が絡んでいるのだろう?
俺が気にしても仕方ないことかもしれないが……
それでも、考えずにはいられなかった。
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