表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/1096

21話 レインの過去

 依頼を終えて、ギルドに報告。

 ちょうどいい具合に日が暮れてきたので、そのまま食堂に足を運んだ。


「にゃあ♪ おにく、おにく♪ これは私のお肉♪」

「なによ、そのアホっぽい歌は」

「あほ!? にゃあ……タニアひどい。レイン、タニアがいじめるよー」

「ちょ……そこまでしてないでしょ? 人聞きの悪いことを言わないで。あと、レインに言いつけないように」


 今日も二人は元気だ。

 なんだかんだで良い関係を築いているらしく、笑顔が絶えない。

 この二人は、将来、親友と呼べる関係になるかもしれないな。

 なんとなく、そんな予感を抱いた。


「ところで、レイン。聞きたいことがあるんだけど」


 パンをスープに浸して、それをパクリと食べながら、タニアがこちらを見た。


「うん?」

「レインって、学校に通っていたの?」


 タニアの言う学校は、おそらく、『冒険者育成学校』のことだろう。

 名前の通り、冒険者になるために必要な技術・知識を学ぶ施設だ。


 冒険者を志す者は学校に通い、力を身につける。

 そして、自分に適した職業について、さらに技術を身につける。

 そうして一人前になった後に卒業をして、冒険者の道を歩いていく。


 世の中の半分の冒険者は、学校の卒業生だ。

 残り半分は、俺みたいに飛び込みで冒険者になった者だ。


「いや、俺は違うよ。ただの飛び込みだ」

「なら、どこでテイムを学んだの?」

「あっ、それ、私もすっごい気になる!」


 カナデが話に乗ってきた。


「どこでそんなふざけた力を手に入れたのか。すごく気になるんだけど」

「そんなにおかしいか? 俺のビーストテイマーの力なんて、普通じゃないか?」

「「違うから」」


 揃って否定されてしまった。


 二人がそういうからには、そうなのだろう。

 ただ、俺は、自身が特別という自覚はない。


「そうだな……ちょっと暗い話になるが、構わないか?」

「暗い話?」

「決して楽しい話じゃないんだよ。食事中に、どうかと思うが……それでもいいなら」

「話して」


 二人が、それでも聞きたい、というような顔をした。

 俺は過去を思い返しながら、自身のことを語る。


「俺、元々は南大陸の出身なんだ」

「えっ、そうなの? なんで中央大陸に?」

「まあ……アリオスと一緒に旅してるうちに、ここにやってきたんだ」

「にゃー……勇者か」


 腹立たしそうな顔をするカナデ。

 一方のタニアは、きょとんとしてる。


「なによ、その勇者って?」

「そっか。タニアにはまだ話してなかったか。俺、勇者のパーティーに参加してたことがあるんだよ」

「へー、そうなんだ」

「驚かないんだな」

「レインくらいの実力があれば納得できるもの。でも、今は違うのよね? どうして抜けたの?」

「抜けたというか、追い出されたんだよな」

「は?」


 俺とアリオスに関連する、一連の事情を説明した。

 なぜか、タニアが沈黙する


「……」

「タニア? どうしたんだ?」

「その勇者……ばっっっっっ、かじゃないの!!!?」


 ドンッ、と机を叩くタニア。

 抑えきれない苛立ちが見える。


「レインはとんでもない力があるっていうのに、追放とか……そもそも、レインが支援や補給を一手に担当していたんじゃない。それなのに役立たずとか、どういう目してるわけ? アホなこと言ってんじゃないわよっ、あーもう、むかつくわ!」

「なんていうか……ありがとな」

「ど、どうして礼を言うのよ?」

「タニアが俺のために怒ってくれることが、うれしくて」

「なっ……べ、別にレインのためじゃないから! ただ、あまりにもバカげた話を聞いて、それでイライラして……と、とにかく、レインのためなんかじゃないんだからね!? 勘違いしないでよっ」

「了解」


 ちょっと勘違いしてたけど……

 タニアは、根は優しい子なんだな。

 他人のために本気で怒ることができるなんて、そんな子はなかなかいない。


「ねえねえ、レイン。勇者のことはどうでもいいから、どこでテイムを学んだの?」


 脱線した話をカナデが元に戻した。


「そうだったな。その話なんだけど……テイムは、俺の故郷で学んだんだよ」

「故郷で?」

「俺の故郷って、ビーストテイマー達が集まる特殊な里なんだ。名前なんてないような小さな村だったけど……名付けるなら、ビーストテイマーの里、ってところか?」

「ビーストテイマーの里……」

「へぇ、そんなところがあるんだ。初めて知ったわ」


 昔を思い返しながら、話を続ける。


「家族は父さんと母さんの二人で、共にビーストテイマーだったよ。だから、物心ついた時は、俺も自然とビーストテイマーの技術を学んでいた。他の職業になるなんて、考えることすらなかったな」

「おーっ、お父さんとお母さんの後を継いだんだね。レイン、親子丼だー」

「それを言うなら、親孝行でしょ。どんだけ食いしん坊なのよ」

「うにゃー……ごはん食べてる途中だから、間違えちゃった。恥ずかしい……」


 ここしばらくの間、故郷を思い返すことはなかった。

 両親とは仲が良かったし、村の人とも仲が良かった。

 悪い思い出なんてないんだけど……

 でも、村のことを思い返すと、自動的に『あの事件』も思い返すことになる。


 だから、自然と避けていた。

 穏やかに語ることなんて、もうできないと思っていた。


 だけど……今は、落ち着いて故郷についての話をしている。

 二人のおかげだろうな。

 一緒にいるだけで心が安らぐ。


「……ありがとな」

「にゃん? なんのこと?」

「まあ、色々と……な」

「それで……レインは、パパとママからテイムについて学んだのね?」

「そうだな。俺の技術は、全部、両親から受け継いだものだ。あ、一部、違うところはあるな。インセクトテイマーの技術なんかは、お隣さんから学んだものだ。他のテイム技術を持っている人も、多少はいたんだよ」

「は? インセクトテイマーって……昆虫も使役できるわけ?」

「できるよ。言ってなかったっけ?」

「聞いてないし!」

「驚くよねー、あははは」

「ちょっとレイン。他に隠してることはないでしょうね? 実は、モンスターテイマーとかエレメンタルテイマーの力もあるとか」

「えっと……一応、それらのテイムも教わったことはあるな」

「やっぱり……」

「ただ、習得するまではいかなかったな。モノにしたのは、ビーストテイマーとインセクトテイマーだけだ。それに、インセクトテイマーは簡単なものしかできない、不完全な状態だな。時間がなくて、そこが限界だった」

「それでも、二つも手をつけることができるなんて、とんでもないんだけど……」

「俺の技術が特別なものっていうなら、故郷が特別だったのかもしれないな。ずっと昔から受け継がれてきたものらしいし……だから、二人がいう『すごいこと』も俺にとっては当たり前だったんだ。他のテイマーと違うところがあるのかもしれないけど、よくわからないんだよな。俺、他のテイマーを見たことがほとんどないから」

「なるほどね……そういう理由か」

「にゃー。ふと思ったんだけど、レインなら、全部、習得できそうな気がするのに。どうして、全部、習得しなかったの? 時間がないって」

「あー……」


 この先を話していいものか?

 せっかく、和やかに話が進んでいるのに、それに水をさすような真似をしていいものか?


 迷うが……


 カナデとタニアは、暗い話でも構わないと言っていた。

 ここまで話しておいて、今更、隠し事をするのはどうかと思う。

 それに……仲間なら、俺のことを知っておいて欲しいと、そんなことも思う。


「……気づいてるかもしれないが、故郷を語る時の俺の口調は、全部、『過去形』なんだよ」

「にゃん?」

「……」

「俺の故郷は……もう存在しない。滅んだんだ」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇◆◇ お知らせ ◇◆◇
既存の作品を大幅にリファインして、新作を書いてみました。

娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!

こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

― 新着の感想 ―
[気になる点] ビーストテイマーの里で育ったとありましたがレインの両親以外は普通のビーストテイマーだと思うのですが、なぜレインは普通のビーストテイマーは1匹しか契約できないと知らなかったのでしょうか
[一言] 消されたあの人さん……
[気になる点] 里まるごとテイマーだったなら5話で言ってた「他のビーストテイマーは、『あの人』しか知らない」ってのは何だったんだろ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ