21話 レインの過去
依頼を終えて、ギルドに報告。
ちょうどいい具合に日が暮れてきたので、そのまま食堂に足を運んだ。
「にゃあ♪ おにく、おにく♪ これは私のお肉♪」
「なによ、そのアホっぽい歌は」
「あほ!? にゃあ……タニアひどい。レイン、タニアがいじめるよー」
「ちょ……そこまでしてないでしょ? 人聞きの悪いことを言わないで。あと、レインに言いつけないように」
今日も二人は元気だ。
なんだかんだで良い関係を築いているらしく、笑顔が絶えない。
この二人は、将来、親友と呼べる関係になるかもしれないな。
なんとなく、そんな予感を抱いた。
「ところで、レイン。聞きたいことがあるんだけど」
パンをスープに浸して、それをパクリと食べながら、タニアがこちらを見た。
「うん?」
「レインって、学校に通っていたの?」
タニアの言う学校は、おそらく、『冒険者育成学校』のことだろう。
名前の通り、冒険者になるために必要な技術・知識を学ぶ施設だ。
冒険者を志す者は学校に通い、力を身につける。
そして、自分に適した職業について、さらに技術を身につける。
そうして一人前になった後に卒業をして、冒険者の道を歩いていく。
世の中の半分の冒険者は、学校の卒業生だ。
残り半分は、俺みたいに飛び込みで冒険者になった者だ。
「いや、俺は違うよ。ただの飛び込みだ」
「なら、どこでテイムを学んだの?」
「あっ、それ、私もすっごい気になる!」
カナデが話に乗ってきた。
「どこでそんなふざけた力を手に入れたのか。すごく気になるんだけど」
「そんなにおかしいか? 俺のビーストテイマーの力なんて、普通じゃないか?」
「「違うから」」
揃って否定されてしまった。
二人がそういうからには、そうなのだろう。
ただ、俺は、自身が特別という自覚はない。
「そうだな……ちょっと暗い話になるが、構わないか?」
「暗い話?」
「決して楽しい話じゃないんだよ。食事中に、どうかと思うが……それでもいいなら」
「話して」
二人が、それでも聞きたい、というような顔をした。
俺は過去を思い返しながら、自身のことを語る。
「俺、元々は南大陸の出身なんだ」
「えっ、そうなの? なんで中央大陸に?」
「まあ……アリオスと一緒に旅してるうちに、ここにやってきたんだ」
「にゃー……勇者か」
腹立たしそうな顔をするカナデ。
一方のタニアは、きょとんとしてる。
「なによ、その勇者って?」
「そっか。タニアにはまだ話してなかったか。俺、勇者のパーティーに参加してたことがあるんだよ」
「へー、そうなんだ」
「驚かないんだな」
「レインくらいの実力があれば納得できるもの。でも、今は違うのよね? どうして抜けたの?」
「抜けたというか、追い出されたんだよな」
「は?」
俺とアリオスに関連する、一連の事情を説明した。
なぜか、タニアが沈黙する
「……」
「タニア? どうしたんだ?」
「その勇者……ばっっっっっ、かじゃないの!!!?」
ドンッ、と机を叩くタニア。
抑えきれない苛立ちが見える。
「レインはとんでもない力があるっていうのに、追放とか……そもそも、レインが支援や補給を一手に担当していたんじゃない。それなのに役立たずとか、どういう目してるわけ? アホなこと言ってんじゃないわよっ、あーもう、むかつくわ!」
「なんていうか……ありがとな」
「ど、どうして礼を言うのよ?」
「タニアが俺のために怒ってくれることが、うれしくて」
「なっ……べ、別にレインのためじゃないから! ただ、あまりにもバカげた話を聞いて、それでイライラして……と、とにかく、レインのためなんかじゃないんだからね!? 勘違いしないでよっ」
「了解」
ちょっと勘違いしてたけど……
タニアは、根は優しい子なんだな。
他人のために本気で怒ることができるなんて、そんな子はなかなかいない。
「ねえねえ、レイン。勇者のことはどうでもいいから、どこでテイムを学んだの?」
脱線した話をカナデが元に戻した。
「そうだったな。その話なんだけど……テイムは、俺の故郷で学んだんだよ」
「故郷で?」
「俺の故郷って、ビーストテイマー達が集まる特殊な里なんだ。名前なんてないような小さな村だったけど……名付けるなら、ビーストテイマーの里、ってところか?」
「ビーストテイマーの里……」
「へぇ、そんなところがあるんだ。初めて知ったわ」
昔を思い返しながら、話を続ける。
「家族は父さんと母さんの二人で、共にビーストテイマーだったよ。だから、物心ついた時は、俺も自然とビーストテイマーの技術を学んでいた。他の職業になるなんて、考えることすらなかったな」
「おーっ、お父さんとお母さんの後を継いだんだね。レイン、親子丼だー」
「それを言うなら、親孝行でしょ。どんだけ食いしん坊なのよ」
「うにゃー……ごはん食べてる途中だから、間違えちゃった。恥ずかしい……」
ここしばらくの間、故郷を思い返すことはなかった。
両親とは仲が良かったし、村の人とも仲が良かった。
悪い思い出なんてないんだけど……
でも、村のことを思い返すと、自動的に『あの事件』も思い返すことになる。
だから、自然と避けていた。
穏やかに語ることなんて、もうできないと思っていた。
だけど……今は、落ち着いて故郷についての話をしている。
二人のおかげだろうな。
一緒にいるだけで心が安らぐ。
「……ありがとな」
「にゃん? なんのこと?」
「まあ、色々と……な」
「それで……レインは、パパとママからテイムについて学んだのね?」
「そうだな。俺の技術は、全部、両親から受け継いだものだ。あ、一部、違うところはあるな。インセクトテイマーの技術なんかは、お隣さんから学んだものだ。他のテイム技術を持っている人も、多少はいたんだよ」
「は? インセクトテイマーって……昆虫も使役できるわけ?」
「できるよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてないし!」
「驚くよねー、あははは」
「ちょっとレイン。他に隠してることはないでしょうね? 実は、モンスターテイマーとかエレメンタルテイマーの力もあるとか」
「えっと……一応、それらのテイムも教わったことはあるな」
「やっぱり……」
「ただ、習得するまではいかなかったな。モノにしたのは、ビーストテイマーとインセクトテイマーだけだ。それに、インセクトテイマーは簡単なものしかできない、不完全な状態だな。時間がなくて、そこが限界だった」
「それでも、二つも手をつけることができるなんて、とんでもないんだけど……」
「俺の技術が特別なものっていうなら、故郷が特別だったのかもしれないな。ずっと昔から受け継がれてきたものらしいし……だから、二人がいう『すごいこと』も俺にとっては当たり前だったんだ。他のテイマーと違うところがあるのかもしれないけど、よくわからないんだよな。俺、他のテイマーを見たことがほとんどないから」
「なるほどね……そういう理由か」
「にゃー。ふと思ったんだけど、レインなら、全部、習得できそうな気がするのに。どうして、全部、習得しなかったの? 時間がないって」
「あー……」
この先を話していいものか?
せっかく、和やかに話が進んでいるのに、それに水をさすような真似をしていいものか?
迷うが……
カナデとタニアは、暗い話でも構わないと言っていた。
ここまで話しておいて、今更、隠し事をするのはどうかと思う。
それに……仲間なら、俺のことを知っておいて欲しいと、そんなことも思う。
「……気づいてるかもしれないが、故郷を語る時の俺の口調は、全部、『過去形』なんだよ」
「にゃん?」
「……」
「俺の故郷は……もう存在しない。滅んだんだ」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!