208話 傍にいてくれたから
「ちょ……頭を上げてください」
いきなり頭を下げられても困る。
ミルアさんは見た目は子供だけど、でも、中身は俺よりも遥かに大人で……
そして、タニアの母親だ。
こんな風に頭を下げられても、どうしていいか迷う。
「タニアちゃんを助けてくれて、ありがとうね。レイン君のおかげで、タニアちゃんは無事だったから」
「俺だけの力じゃないですし……それに、仲間だから当たり前のことをしただけですよ」
「その当たり前ができる人は、なかなかいないと思うんだよね」
ミルアさんが顔をあげて、にっこりと笑う。
子供のような笑みなのだけど……
見ていると不思議な気分になる。
温かいというか、落ち着くというか……
ふと、遠い記憶の中にある母さんのことを思い出した。
「あとあと、もう一つ、ありがとうを言わせてほしいな」
「え?」
もう一つ、と言われても……
他になにかあっただろうか?
「タニアちゃんと一緒にいてくれて、ありがとうね」
「え?」
予想外のことを言われたような気がする。
一緒にいてくれて……と言われてもな。
どういう意味なんだろう?
なんだかんだでタニアの一人旅を心配していたのだろうか?
だから、仲間が一緒にいることに安心したのだろうか?
でも、それなら俺だけじゃなくて、他のみんなにも礼を言うはずだよな?
うーん、意味がさっぱりわからない。
「あ、ごめんね。言ってること、よくわからないよね」
「えっと……すみません」
ごまかしても仕方ないと思い、素直に頷いた。
「私、ちょっと話を飛ばすところがあるみたいなんだー。昔から、タニアちゃんによく怒られていたの。お母さんの言うこと、色々とはしょりすぎててわからない、って」
「なるほど」
なんとなく、その光景が思い浮かんだ。
微笑ましい。
「聞いたよ? タニアちゃんと知り合ってから、ずっと傍にいてくれたんだよね? そのことに対して、ありがとう……なんだよ♪」
そう言われても、特別なことをしたとは思えない。
仲間なのだから、傍にいることは当たり前なのでは?
そんな俺の疑問を察したらしい。
ミルアさんは、どこか遠い目をして語る。
「私達は最強種でしょ? その中でも、竜族ってプライドが高いんだよねー。さっきの事件の犯人みたいに、人間を見下してる竜族って、実はそこそこいるんだよね」
「まあ、それはそれで、仕方ないことだと思いますけど」
竜族と比べたら、俺達人は大したことはない。
身体能力も魔力も圧倒的に劣っている。
そんな相手を対等に見るというのは、なかなかに難しいことだ。
「そんなだから、タニアちゃんと一緒にいるの、大変なことだと思うんだよねー。さっきの事件の犯人ほどじゃないけど、タニアちゃんもプライド高いから」
心当たりはあった。
初めて顔を合わせた時から、やたらと強気で勝ち気だったからなあ。
今となっては懐かしい。
「でもでも、それじゃあダメだと思うんだよね。私は、みんな仲良くしないと、って思っているの。だから、里にいる頃、タニアちゃんには色々と言ってきたんだけど……」
「聞き入れてくれなかった?」
「うん、そのとおりなんだよねー。で、そのまま、タニアちゃんは掟に従って旅に出て……心配だったんだよね。どこかで今回みたいなことをやらかさないか、って」
「まあ……不安はありますよね」
「でもでも、そんなことはなかった。レイン君と知り合い、一緒に過ごして……あの子は大きく成長することができた。単なる力だけじゃなくて、心が成長した」
ミルアさんの言いたいことは理解した。
「レイン君が一緒にいてくれたおかげだよ。誰かが隣にいることは、とても大切なことだから……一人だと寂しいし、成長できないから……だから、ありがとう。タニアちゃんと一緒にいてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
でも……と言葉を挟み、続ける。
「そういうことなら、俺もありがとう、って言いたいですよ」
「ふぇ?」
「俺、色々とあって、一度仲間を失ったんですけど……そんな時、タニアが仲間になってくれたんです」
当時のことを思い返しながら語る。
温かい気持ちになり、自然と言葉があふれてきた。
「ミルアさんが言うように、誰かが一緒にいることって、とても大切ですからね。タニアが成長したというのなら、俺も同じことで……タニアがいてくれたから、色々と変わることができた。タニアのおかげで、今の俺がいる。そう思っています」
「そっか」
「だから、俺もありがとう……って」
「ふふっ。それを言うのは、私じゃなくてタニアちゃんに言わないと……だね」
「それもそうですね」
「タニアちゃん、きっと喜ぶよ」
「喜びますかね?」
「絶対喜ぶよ」
うーん、と迷ってしまう。
「似たようなこと、何度か口にしたことあるんですけど……そんな時に限って、タニアって妙に攻撃的になったり、機嫌が悪くなったりするんですよね」
「ははーん」
ミルアさんが、なぜかニヤニヤした。
「タニアちゃん、照れてるんだなー。ふふっ、そういうことかー」
「ミルアさん?」
「ううん、なんでもないよー。なんでもー」
何か悟っているような顔をしているのだけど、口にしてくれない。
自分で気づけ、ということだろうか?
こういうところ、ミルアさんは子供っぽいな。
……本人の前では、そんなことは口に出せないけどね。
「ねえねえ、レイン君。まだ起きているよね?」
「はい、そのつもりですけど?」
「なら、もう少し、お話しない? タニアちゃんのこと、色々と聞きたいな」
「いいですよ」
「やったー♪ お礼に、レイン君が知らないタニアちゃんのこと、教えてあげるね。主に、小さい頃のタニアちゃんの話とか。例えば……タニアちゃんは、何歳までおねしょをしていたのか、とか。その時に、どんな風にごまかしていたのか、とか」
「……それ、教えていいんですか?」
タニアがこの場にいたら、顔を真っ赤にして怒るような気がするんだけど……
「いいんだよー。だって、私はタニアちゃんのお母さんなんだから」
えっへん、と胸を張るミルアさん。
なぜかわからないが、問答無用の説得力があった。
いや。
でもまあ、やっぱり、タニアの過去を勝手に聞くのはまずいと思うのだが。
「まあ、タニアの過去は置いておいて……色々と話をしましょうか」
「うん、そうだね♪」
星が輝く夜空の下で……
俺とミルアさんは、笑顔で色々なことを話すのだった。
――――――――――
「……あーもうっ、母さんのばか」
あたしは、偶然、レインと母さんが話をするところを見て……
そのまま盗み聞きをして……
なんともいえない気持ちになったところで、これ以上は悪いと思い、その場を後にした。
「一緒にいてくれてありがとう……か。ふふっ。レインらしいんだから」
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