207話 母、襲来
聞けば、ミルアさんは竜族の中でかなり偉い立場にいるらしい。
長に次ぐ実力、権力を持っているとか。
今回の事件の犯人達は、そんなミルアさんに一任されることになった。
人間では持て余してしまう竜族も、同じ最強種なら裁くことができるからだ。
ミルアさんは、子供のような性格をしていたけれど……
なんだかんだで、しっかりとした大人らしく、犯人達を同族だからといって手心を加えることなく、厳正に処罰することを約束してくれた。
なぜミルアさんがやってきたのか? という疑問だけど……
それは、タニアのおかげだった。
竜族の犯罪者は、俺達人には手に余るだろうと判断して、あらかじめミルアさんに連絡をとっておいたらしい。
娘を溺愛しているというミルアさんは、慌てて飛んできたという。
街にやってきたのはミルアさんだけではなくて、他にも二人、部下がいた。
その部下によって、犯人達は竜族の里に連行された。
どのような罰を与えるのか?
ミルアさんに尋ねてみると、にっこりとものすごい笑顔を浮かべながら、『タニアちゃんをいじめた罰として、永遠に……ううん、なんでもないよ』と言われた。
たぶん、俺が想像する以上の罰を受けるのだろう。
かくして、事件は無事に解決した。
……解決したのだけど。
「ぷはーっ、甘いミルクはおいしいねー♪ ルナちゃん、もう一杯、もらってもいいかな?」
「ま、まだ飲むのか? かれこれ、もう10杯は飲んでいると思うぞ……?」
「10杯くらいじゃぜんぜん足りないよー。だから、ちょーだい」
「う、うむ……まあ、タニアの母上なのだからな。おもてなしはしなければならないな。うむ。すぐに用意するぞ」
「わーい、ありがとー♪」
ミルアさんは、我が家で笑顔でくつろいでいた。
いや、まあ。
事件を解決してもらっておいて、そこではいさようなら、というわけにいかないのはわかるんだけど……
だからといって、ミルクをがぶ飲みされても困る。
ウチは、無制限飲み放題の喫茶店じゃないんだけどな……
「ちょっと、母さん!」
「どうしたの、タニアちゃん? いきなり大きな声を出して」
「どうしたの、じゃなくて……ウチは喫茶店じゃないんだけど? そんなにガバガバミルクを飲まないでくれる? タダじゃないのよ」
「だってだって、ルナちゃんのミルク、すごくおいしいんだよ? ちょっと砂糖が入っててすごく甘くなってて、でもでも、さっぱりとしてて……」
「ああもうっ」
タニアががしがしと頭をかいた。
話が通じなくて、イライラしているみたいだ。
どうやら、ミルアさんはかなりのマイペースみたいだ。
それに加えて、この幼い性格。
タニアのような性格だと、軽く衝突してしまうのも仕方ないだろう。
とはいえ、親子仲が悪いわけではないだろう。
タニアは、真っ先にミルアさんに連絡をしているし……
ミルアさんも即日、駆けつけてくるほどだし……
良好な関係を築いているのだと思う。
「タニアちゃんも一緒に飲む? おいしいよ?」
「はぁ……それじゃあ、あたしももらおうかしら。ルナ、いい?」
「うむ。任せろなのだ。レインもいるか?」
「じゃあ、悪いけど頼むよ」
「任されたのだ」
ルナが給仕のようなことをして……
他のみんなは、廊下の方から顔だけを出して、こちらの様子を見ている。
こっそりと覗き見ているつもりなのだろうけど、カナデとニーナは獣耳があるから丸わかりだ。
頭隠して獣耳隠さず?
「改めて……レイン・シュラウドです。タニアと一緒に冒険者をやっています。よろしくおねがいします」
「うん、よろしくねー♪」
騎士団支部にいた時はごたごたしていたので……
改めて、挨拶をすることにした。
ぺこりと、互いに頭を下げる。
「えっと……変なことを聞きますけど、タニアのお母さんなんですよね?」
「そうだよ?」
「なるほど……」
スズさんといいアルさんといい、最強種の母親は小さいというのが決まりなんだろうか?
ついつい、そんなどうでもいいことを考えてしまう。
「今回はありがとうございました」
「ううん。お礼を言うのは私の方だよ」
ミルアさんは真面目な顔になり、じっと俺を見つめてきた。
「タニアちゃんから聞いたよ。タニアちゃんのために色々がんばって、戦ってくれた、って。ありがとう。タニアちゃんのお母さんとして、本当に感謝しているよ」
「いえ。当たり前のことですから」
タニアにはいつも助けられているし……
今回のことで力になることができたのなら、それはとてもうれしいことだ。
「んー……んふふ♪」
なぜか、ミルアさんがにっこりと笑う。
「どうしたんですか?」
「タニアちゃんは良い人を見つけたなあ、って」
「うん?」
「レイン君だっけ? タニアちゃんをよろしくね」
「ちょ、ちょっと母さん! それじゃあ、まるであたしが……」
「うん?」
「ああもう……母さん、そういう無自覚な発言で、いつも周りを困らせていること、いい加減自覚してよ」
ミルアさんに振り回されているらしく、タニアが疲れた顔をした。
それでも……どこか生き生きとして見えるのは、気のせいだろうか?
竜族の里を出て、一年以上経っているみたいだし……
久しぶりの母娘の再会に喜んでいるのかもしれない。
まあ、タニアの性格だから、それを素直に表に出さないかもしれないけどな。
「それで、母さんはウチでなにをしているの? 里に帰らなくていいの?」
「久しぶりだから、タニアちゃんと一緒にいたいのー。里には帰らなくても平気だよ? 私だけじゃなくて、他にたくさん仕事ができる人がいるからね」
それは、他の人に仕事を丸投げしているという意味では……?
「それとも……タニアちゃんは、私がここにいたら迷惑……?」
うるっ、とミルアさんが涙目になる。
タニアが怯んだ。
「そ、それは……」
「久しぶりだから……タニアちゃんと一緒にいたいな……」
「……あーもうっ、好きにしなさいよ!」
「わーい♪ だから、タニアちゃん好きだよ」
どっちが娘なのかわからない。
「って、勝手に決めちゃったけど……いい?」
タニアがうかがうようにこちらを見た。
「俺は構わないよ。みんなもいいよな?」
廊下の方で覗き見をしているみんなに声をかけた。
カナデとニーナの獣耳がぴょこぴょこと縦に動いた。
問題ない、ということらしい。
「しばらくはウチに泊まってください。部屋はいくつか空いているので」
「ありがとう、レイン君」
「ふむ……そうなると、歓迎パーティーだな!」
ルナが笑顔で言う。
「今夜は、ミルアの歓迎会なのだ! 腕によりをかけて料理を作るぞ」
「わー、楽しみだなー♪」
「ふははは、我の料理はすばらしいからな。首を洗って待っているがよい!」
「それ、ケンカの時に言うものだからな……?」
――――――――――
その夜……
ミルアさんの歓迎会が行われた。
ルナが作った料理がふるまわれて……
カナデが動けなくなるくらい、お腹いっぱいに食べたり……
ソラの作った料理が混じっていて、ニーナがトラウマを負ったり……
そんな事件があったりしたものの、楽しい時間が過ぎた。
「ふぅ」
歓迎会が続く中……
俺は一人、外に出た。
少し飲みすぎたかもしれない。
体が軽くふらふらした。
酔い覚ましに、夜の冷たい空気を体に浴びる。
少しだけ頭がスッキリした。
「飲みすぎちゃった?」
振り返ると、ミルアさんの姿が。
酔っているらしく、ほんのりと頬が染まっている。
まだ幼いのに酒を飲むなんて……って、違う違う。
ミルアさんは、俺よりもずっと年上なんだから、酒を飲んでも何も問題はない。
ついつい、見た目の印象に流されてしまいそうになるな。
「隣いいかな?」
「はい、どうぞ」
ミルアさんと並んで地面に座った。
心地いい夜風が吹いた。
どこかで虫が鳴いている。
そして、頭上に静かに輝く月。
穏やかな夜だった。
「ねえ、レイン君」
「なんですか?」
「ありがとう」
そう言って、ミルアさんは深く頭を下げた。
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