20話 竜族の力
野鳥と同化したレインが羽ばたくのを、カナデとタニアが見送る。
レインが空の彼方に消えて……
ふと、思い出したようにタニアがつぶやいた。
「そういえば……レインのやつ、簡単に言ってたけど、思念波を飛ばすのって、かなりの魔力が必要なんだけど……この前会った時は、そんな魔力があるようには見えなかったのよね。まあ、できないことはないんだけど……魔力が低い場合、もっとノイズが混じるはずなのよね。それなのに、やけにクリアーに声が聞こえてきたし……」
「どういうこと?」
「んー……あとで確認してみましょうか」
――――――――――
周囲を二周ほどしてカナデとタニアの所に戻った。
野鳥との同化を解除して、自分の体に戻る。
「ふぅ。やっぱり、自分の体が落ち着くな。同化をすると、妙な感じになるんだよな。自分が本当に鳥になったような気がして、帰ってこられなくなりそうだ」
「おつかれさまー♪」
「で、収穫は?」
「ああ、バッチリだ。ここから東に5キロくらいのところに、大量のスライムがいるのを見つけた。例の依頼の件で間違いないだろう」
「よし、じゃあ行きましょう。現地まで競争ね。負けた人は、みんなにごはんをおごり、っていうことで。じゃあ、よーい……どん!」
「負けないにゃ!」
二人が駆け出して、あっという間に点になる。
「……俺が、二人に勝てるわけないだろう」
っていうか、このパーティーの財布を握っているのは俺なんだから、結局、俺が奢ることになるわけなんだけど?
やれやれ、とため息をこぼしながら二人を追いかけた。
体力を使い果たさないように、軽く走ること3分。
二人に追いついた。
カナデと契約して、身体能力が強化されているとはいえ、さすがに二人に追いつくことはできなかった。
「レインがビリだ~♪」
「ゴチになりまーす♪」
「お前らな……まあいいや。それで、あれが……」
森と平原の境目の辺りに、ぶよぶよとうごめくものがいた。
スライムだ。
100以上のスライムが群れをなして、草木を溶かし、大地を腐らせている。
なるほど。
さすがに、これは放置できないな。
ちょっとした災害になっている。
「じゃあ、サクッと片付けちゃおうー!」
カナデがそこらの岩を『よいしょ』と持ち上げた。
自分の数十倍くらいある大きな岩なのに、重さを感じていないみたいに、あっさりと持ち上げた。
「それをぶつけるつもりなのか?」
「うん。触りたくないもん」
「色々と大惨事になりそうな気がするが……でもまあ、破壊力は抜群か」
相手は100匹以上のスライム。
ちまちま攻撃していたら日が暮れてしまう。
「タニアは、火球とかブレスで攻撃してくれるか? 俺は、二人が狩りそこねたものを狙うよ」
「その前に、ちょっと試してほしいことがあるんだけど……レインって魔法は使えるの?」
「ん? 初級のヒールとファイアーボールくらいなら使えるが……」
勇者パーティーにいた頃、何かの役に立てないものかと、魔法を習得したことがある。
尤も、才能がなくて初級魔法しか習得できなかったが。
「なら、ファイアーボールで攻撃してくれる?」
「なんの意味があるんだ? ビーストテイマーの魔力なんて、たかが知れてるし……」
「いいからやってみなさいって。ほらほら。あっ、遠慮することなく、全力でやってちょうだいね」
「わ、わかった。わかったから押すな。それ以上したら、スライムの群れに突っ込む」
いったい、タニアは何をしたいんだろうか?
俺の魔法なんて見ても、何もおもしろくないのに……
とにかく、言われた通りにしよう。
手の平に魔力を集中。
頭の中で魔法の構造式を構築。
そして、一気に解き放つ!
「ファイアーボール!」
ファイアーボールは誰でも使えるような初級中の初級の魔法で、拳大の火球を生み出すことができる。
その威力は、スライムを一匹仕留めるのが限界といったところだ。
それなのに……
「え?」
「にゃ?」
俺が放ったファイアーボールは、人の大きさほどもある巨大な火球に成長した。
それだけに留まらず、さらに成長を続けて……スライムの群れの中心に着弾。
天に届きそうなほどの火柱を立ち上げながら、激しい爆炎が吹き荒れた。
100匹以上いたはずのスライムの群れは一掃された。
「な、な……なんだこれは!?!?!?」
「にゃー……一瞬で終わっちゃった……」
俺とカナデが唖然とする一方で、タニアは納得顔で頷いていた。
「ふーん、やっぱりね」
「今の、心当たりあるのか……?」
「レインは、カナデと契約して猫霊族の身体能力を手に入れたんでしょ? なら……あたしと契約した場合は、何を手に入れたのかしら?」
「あ」
「正解は、竜族の『魔力』よ。あたしたち竜族は身体能力も高いけど、それだけじゃなくて、強い魔力を持ってることは知ってるわよね? 空を飛んだり、火球を作り出したり、ブレスを吐く時は、全部、魔力で補っているの。そういう種族だから、最強種の中で二番目に魔力が高いと言われてるわ。その竜族の魔力を、レインは手に入れたのよ」
「マジか……」
「マジよ」
猫霊族の力だけじゃなくて、竜族の魔力まで手に入れるなんて……
色々なことがありすぎて、現実に認識が追いつかない。
この前まで、勇者パーティーでコキ使われるだけだった、しがないビーストテイマーだったのに……
なんだか、夢を見ているような気分だ。
「以上、解説終わり。っていうことで、細かい話は後にして魔石を回収しましょ」
「にゃっ!? まだスライムが残っているよ」
「あら」
奥の森から、さらにスライムが現れた。
100匹という情報は誤りだったか……
あるいは、俺達がたどり着くまでに分裂を繰り返して、さらに個体数が増えていたか。
どちらにしろ、こいつらも片付けておかないといけない。
「ちょうどいいわ。こいつらをレインの練習台にしましょ」
「どういうことだ?」
「レインは竜族の魔力を手に入れたけど、うまくコントロールできてないでしょ? 魔力って、肉体と比べるとコントロールが難しいの。練習できる時に、少しでも練習しておかないと、後で痛い目見るわよ?」
「レイン、がんばれー♪」
「まだ驚いていて、思考回路がちょっと麻痺しているんだが……」
「しっかりしなさい。あたしたちのご主人様でしょ」
「……そうだな。しっかりしないといけないな」
二人の隣に立つことが恥ずかしくないように……
俺は、もっと強く、成長しなければいけない。
「魔力の扱い方、教えてくれるか?」
「いいわよ。ビシバシいくからね」
「……なるべく、お手柔らかに頼む」
「がんばれがんばれレイン♪ 負けるなファイトだレイン♪」
カナデの声援を受けながら……
魔力のコントロールを学びつつ、残りのスライムを蹴散らした。
……タニアの教え方はスパルタだった。
きつい。
でも、おかげで、ある程度は魔力のコントロールができるようになった。
感謝だ。
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