2話 運命の出会い
「さてと……これからどうしたもんかな」
翌朝。
宿をチェックアウトした俺は、街の広場のベンチに座り、のんびりと日光浴をしていた。
ちなみに、勇者さま御一行は、ここから西にある『迷いの森』に挑むために、朝早くに出発した。
挨拶?
そんなものはない。
まあ、勇者さま御一行のことはどうでもいい。
大事なのは、今後の俺の行動だ。
「金がないんだよなあ……」
全財産は、銀貨5枚と銅貨が38枚。
銅貨100枚分で銀貨が一枚。
宿で一泊するのに銅貨50枚だから、しばらくは宿に困らない計算だ。
でも、その後はどうする?
定期的な収入がない俺は、いずれ、宿に泊まることができなくなる。
ヘタしたら、食べ物を買う金もなくなってしまう。
なんとかして、収入手段を確保しないと。
「今日はどうする?」
「そうだな……平原に出て、ホーンボアでも狩るか。キラータイガーが出たらしいから、沼地には行かない方がいいだろう」
ふと、目の前を冒険者らしき二人組が通っていった。
「冒険者……か」
渡り鳥のように自由に生きて、自由に死ぬ。
全てが自己責任であり、己の腕一つで生きていかなければいかない職業だ。
「……いいかもしれないな」
勇者パーティーに入ってから、魔王を倒すという使命感を持って戦ってきたけれど……
それも失われた。
今の俺は空っぽのような存在で……
ある意味で、自由と言える。
冒険者は、ひょっとしたら今の俺にとって、最適の職業かもしれない。
「よしっ。一つ、やってみるか!」
俺は元気よく立ち上がり、冒険者ギルドの門を叩いた。
――――――――――
誰でも冒険者になれるというわけではないらしい。
一応、年齢や性別などの制限はない。
なろうと思えば子供でもなれるし、老人でも冒険者になることができる。
ただし、試験が存在する。
一定以上の力量があると認められない限り、冒険者としてギルドに登録することができない。
これは、力を持たない無謀な挑戦者をふるいにかけるためのシステムだ。
以前は試験は存在しなかったらしく、誰でも冒険者になることができたらしい。
しかし、おかげで新米冒険者が無茶ばかりして、依頼の失敗だけではなくて、冒険者自身が死ぬ事件が多発したという。
依頼は失敗して、冒険者ギルドの信用は失墜。
さらに多数の死者を出したことで、国の監査を受けたらしい。
以降、試験が設けられたという。
「ゴブリンを10体、狩ってくること……か」
それが、俺が冒険者になるための試験の内容だった。
ゴブリンはFランクの魔物で、武器を持った成人男性なら撃退できるという、非常に弱い魔物だ。
しかし、弱い魔物と侮ることなかれ。
連中は自身が非力なことを自覚している。
そのため、常に五体前後の群れで行動するのだ。
五体前後のゴブリンの群れを、正確に、怪我をすることなく倒さなければいけない。
それができる者は、文字通り、『一定以上』の力量を持った者に限られる。
冒険者になるための試験としては、これ以上ないくらいの適正な内容だろう。
また、ゴブリン全てを討伐することは難しいが、逃げるだけならば簡単な相手なのだ。
いざとなれば撤退すればいいので、試験で死者が出ることはない。
最悪、骨を折るなどの大怪我で済む。
そういう意味で、試験に適した相手と言えるだろう。
「まあ、さすがに、これくらいは楽勝なんだけどな」
いくらパーティーから追放されたとはいえ、先日まで、魔王軍と戦ってきたんだ。
ビーストテイマーといえど、ゴブリン程度に遅れを取ることはない。
平原に出た俺は、サクッとゴブリンを10体狩った。
モンスターを倒すと、『魔石』と呼ばれる宝石に変化する。
これを持っていくことで、魔物を討伐した証拠とするのだ。
「さてと。早くギルドに行こう。これで俺も冒険者だ!」
新しい生活が始まる。
あんなことがあったばかりだけど……俺は、わくわくしていた。
「ん?」
今、悲鳴が聞こえたような……?
平原の奥にある沼地の方角だ。
気の所為……かもしれないが、気になる。
様子を見るだけ見てみよう。
――――――――――
「あれは……!?」
沼地に入って少ししたところで、キラータイガーに襲われている女の子を見つけた。
キラータイガーというのは、Dランクの魔物だ。
素早い動きが特徴で、鋭い爪と牙で獲物を死に至らしめる、厄介な存在だ。
多くの下位冒険者が不意打ちに遭い、その命を落としていることから、『冒険者キラー』とも言われている。
「まずいっ!」
キラータイガーは、倒れている女の子に爪を突き立てようとしていた。
俺は急いで駆けて、短剣で斬りかかる。
「グァアアアアアッ!!!」
所詮、銅貨10枚で買った、護身用の安物の短剣。
キラータイガーの鎧のような皮膚を貫くことができず、折れてしまう。
ヤツの怒りを買っただけで終わる。
ターゲットを女の子から俺に変更したらしく、キラータイガーがこちらを睨みつけた。
これでいい。
「動けるか!? 今のうちに逃げろっ」
「うっ……にゃあ……」
女の子がのろのろと立ち上がる。
なんとかなりそうだ。
まあ……俺の方は、どうしようもなさそうだ。
テイムする動物もなしに、キラータイガーと渡り合うことはできない。
ましてや、唯一の武器だった短剣は折れてしまった。
「絶体絶命、ってやつか。でも、女の子が逃げる時間だけは稼いでやる!」
覚悟をして、拳を構える。
と、その時。
「うにゃあ……最後の力を、振り絞ってぇ……にゃんっ!!!」
女の子が跳躍した。
遥か高く。
雲に届きそうな勢いで跳んだ。
そして……落下。
俺と対峙するキラータイガー目掛けて、矢のごとく飛翔する。
ゴガァッ!!!
着弾。
大地が震えるほどの激震。
いったい、どれだけの威力がこめられていたのだろう?
小さなクレーターができていた。
当然、そんな馬鹿げた一撃に、Dランクのキラータイガーが耐えられるわけもなく、首を折られて絶命していた。
「キミは……いったい……?」
「にゃふぅ……もう、限界だよぉ……」
女の子はふらふらとよろめいて、そのまま倒れてしまう。
慌てて駆け寄り、抱き起こした。
「おいっ、大丈夫か? 怪我をしているのか!?」
「にゃ、にゃあ……お腹、減ったよぉ……」
間の抜けた台詞がこぼれた。
そんな女の子の頭には、ぴょこぴょこと動く猫耳と、フリフリと揺れる尻尾がついていた。
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