195話 竜族、襲来
空を覆ってしまうほどに巨大な翼。
鋼鉄よりも固い鱗は、体をびっしりと覆っている。
そして、一つ一つが槍のように鋭い牙が、ずらりと並んでいる。
天空の王者……ドラゴン。
またの名を、最強種、竜族。
「どうして、こんなところに……!?」
俺を含めて、みんなが驚いていた。
ただ、すぐに我に返ることになる。
「あっ、あぁ……」
同じ冒険者なのだろう。
それらしき格好をした男が、ドラゴンに睨みつけられていた。
「まずいっ!」
事情はよくわからないが、あの人を放っておくことはできない。
俺はカムイを抜いて駆け出した。
「こっちだ!」
「グァッ!」
ドラゴンの頭に斬りつけた。
くっ……さすがに固い!
全力で斬りつけたのに、刃が弾かれてしまう。
ただ、ドラゴンの注意を俺に逸らすことはできた。
ドラゴンは低い唸り声をあげながら、俺を睨みつけて……
「レインっ、大丈夫!?」
「っ!?」
タニアが駆けてきて……
気の所為だろうか?
タニアを見て、ドラゴンが動揺したような気がした。
そして……
「あっ!?」
ドラゴンはその巨大な翼を羽ばたかせて、一気に空に飛翔した。
そのまま反転して、飛び去ってしまう。
タニアがこちらの顔を見る。
「レインっ、どうする!? あたしなら追えるわよ!」
「……いや、やめておこう。タニアでも一人は危険だ。それに、事情がよくわかっていないし……なによりも、この人を優先させないと」
「そ……まあ、レインがそういうならいいわ。了解」
タニアとしては、追いかけたい気分だったのかもしれない。
竜族って、縄張り意識が強いんだろうか?
そんなどうでもいいことを考えつつ、冒険者の男に声をかける。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……助かったよ」
尻もちをついていた男は、俺の手に引かれて立ち上がる。
「ホント、危なかった……もう少しで、アイツに食われ……ひっ!?」
冒険者の男がタニアを見て、小さな悲鳴をあげた。
角や尻尾を見て、タニアが竜族であることに気がついたらしい。
「心配しないでくれ。タニアはさっきのヤツとは違う。人を襲ったりしないよ」
「人の顔を見て失礼なヤツね。まあ、いいわ。あたしは寛大だから、許してあげる。ふふんっ」
人がせっかくフォローをしているというのに、タニアは偉そうに胸を張るのだった。
「……タニア、は……いい子、だよ?」
「ウチが言ってもしゃあないかもしれんけど、タニアは悪いことはしないって保証するで」
遅れて追いついてきたニーナとティナも、タニアのフォローに回った。
それを見た冒険者が、不思議そうな顔をする。
「な、なんだ……? もしかして、神族? それに……人形?」
「タニアも含めて、みんな、俺の仲間だよ」
「さ、最強種が仲間……?」
男は少しの間、唖然として……
それから、なにか閃いた様子で目を大きくする。
「あっ!? あんた、もしかしてホライズンの英雄か!?」
「えっと……まあ、一応、そう言われているけど……」
「そっか、あんただったのか! なるほど、それなら納得だ」
英雄と呼ばれることは、むずがゆいのだけど……
どうやら、今はその呼び名が役に立ったらしい。
俺達が怪しいものではないと確信を持てたらしく、男の表情から警戒の色が消えていく。
「いったい、どうしたんだ?」
「俺が聞きたいところだよ。もう、わけがわからなくて……」
話を聞くと……
男はDランクの冒険者らしい。
魔物の討伐ではなくて、薬草や鉱石などの採取を専門としているという。
いつものように森に採取に出かけたところ、魔物達の様子がおかしいという。
なにかに怯えているような、気がたっているような……
男はおかしいと思いながらも、仕事を優先させた。
その結果……
男の元に、どこからともなくドラゴンが飛来したという。
あわや、というところで俺達が駆けつけて、男は命を拾うことになった……というわけだ。
「なるほどな」
一通りの話を聞き終えた俺は、難しい顔をした。
まさか、こんなところにドラゴンが現れるなんて……
まあ、タニアの例もあるから、絶対にくるわけがない、って断言はできないが。
でも、タニアの時とは違い、今度のヤツは人を襲っていた。
腕試しという雰囲気ではなくて、明らかな敵意を持っていた。
ドラゴンが人を襲うとなると、厄介な問題になりそうだな。
大きな事件になりそうだ。
そんなイヤな予感を覚えた。
――――――――――
念のために、俺とタニアで男を街に送り届けた。
またドラゴンが現れないとも限らないし、用心するに越したことはない。
ちなみに、ニーナとティナはカナデ達のところへ行ってもらった。
依頼が完了したことと、今回のことを伝える役目を頼んだのだ。
「ふう……やっと戻ってこれたか」
男が安堵の吐息をこぼした。
ドラゴンに襲撃されたこともあり、街に戻るまでは安心できなかったのだろう。
男が笑顔をこちらに向ける。
「ありがとう、助かったよ」
「同じことが起きるかもしれないから、気をつけて」
「またドラゴンが現れるって? はは、冗談だろう。そんなこと、滅多にあるもんじゃないさ」
「それならいいんだけど……」
「とにかく、本当に助かったよ。命の恩人だ。この礼は……」
「いいさ。同じ冒険者仲間だ。気にすることないって」
「そんなわけにはいかない。とはいえ、大したことはできないからな……まあ、なにかあったら遠慮なく言ってくれ。必ず力になるからな」
男は何度も頭を下げて、その場を後にした。
「あの男、あんなんで大丈夫かしら?」
タニアが疑問顔で言う。
「と、いうと?」
「なんか、楽観的すぎない? ドラゴンに襲われたっていうのに……普通、もっと危機感を持つべきでしょ。まあ、あたしが言うことじゃないかもしれないけど」
「いや、タニアの言う通りだと思う。普通は、ドラゴンに襲われるなんてことないからな……ちょっと聞いておきたいんだけど、この辺に、タニアの同族はいるのか?」
「いない……はずなんだけど、絶対とは言い切れないのよね」
タニアは難しい顔をした。
考えるような仕草をとりながら、ゆっくりと口を開いて、言葉を続ける。
「あたし達、竜族って、猫霊族や精霊族みたいにあまり群れないの。もちろん、里を作ることはあるんだけど、そんなに数がいないっていうか……」
「なら、普段はどうしているんだ?」
「あちこち旅してるヤツが多いわ。半分は、あたしのように修行の旅。もう半分は、気ままな旅をしていたり、力試しだったり、悪党退治だったり……まあ、色々よ」
「なるほどね……人を襲うことは?」
「基本的に、そんなことはしないはずなんだけど……これも絶対とは言い切れないのよね。困ったことに」
やれやれ、という仕草をタニアがとった。
「竜族の中には、『人間は悪! 滅ぼさなければならない』……なんて過激な思想を持ったヤツもいるのよね。もちろん、そんな極端なヤツはごく一部なんだけど……でも、そういうヤツもいるから、なんともいえないのよ」
「それはまた……困ったものだな」
「ホント、困ったものよ」
……そんな話をしていると、見知った顔を見つけた。
ステラだ。
部下らしき騎士を二人連れて、こちらに歩いてくる。
その視線は俺……ではなくて、タニアに向いている。
「あら、ステラじゃない。どうしたの?」
ステラに気がついて、タニアが気さくに声をかけるものの……
それに対して、ステラは剣を抜くという行為に出た。
「タニアよ……すまないが、そなたを逮捕する!」
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