193話 新しい体
「こんにちは」
「おお、レインじゃないか」
店に入ると、本を読んでいたガンツがこちらを見て、親しみのある笑顔を浮かべた。
久しぶりにガンツの店を尋ねたけど……
以前と比べると、色々と変わっているな。
まず、店の品揃えが変わっている。
以前は見た目だけの武器が並んでいたのだけど、今は一目で業物とわかるものだけが並べられている。
それに、ガンツの雰囲気も、心なしか柔らかくなっていた。
以前よりも接しやすい。
以前あった事件のおかげで、色々と変わることができたのだろう。
「どうしたんじゃ、今日は? また何か入り用なのか?」
「いや。ナルカミとカムイの整備を頼みたいんだ。思えば、一度も整備をしてもらっていないし……けっこう酷使しているからな。ここらで一つ、見てもらいたくて」
「なるほど。ちと、見せてくれんか?」
ガンツにナルカミとカムイを渡した。
「ふむ、ほうほう……これはまた」
ガンツが苦い顔をした。
「えっと……なにか問題が?」
「大アリじゃ。ちっとやそっとじゃ壊れんように作っておったのじゃが……どちらも、ひどく消耗しておる。いったい、どのような使い方をすれば、こうなるんじゃ?」
「えっと……」
そんなに乱暴に扱った覚えはないんだけどな?
ただ、魔族と戦い、スズさんと戦い、イリスと戦い……
……十分に乱暴に扱っていたことに気がついた。
「一週間ほどかかるが、問題ないか?」
「ああ、大丈夫だ。頼むよ」
「任された。新品同様に、しっかりとメンテナンスしてやるぞ。ところで……」
ガンツの視線が俺の脇に向けられる。
正確に言うと、俺が手に持つヤカンに向けられている。
「なんじゃ、そのヤカンは?」
「ああ、これは……」
説明しようとしたら、ぼんっ、と煙が吹き出して、それと同時にティナが現れた。
「これはウチのマイホームやで」
「なっ……ゆ、幽霊じゃと?」
「おっちゃん、はじめましてやろ? ウチは、ティナ・ホーリ。レインの旦那のところでお世話になってるもんや。よろしゅうなー」
「……お前さん、最強種だけじゃなくて、幽霊も従えるようになったのか?」
「まあ、色々とあって」
呆れるようなガンツの視線に、苦笑で応じた。
ティナと出会い、契約するに至った経緯を軽く説明して……
それから本題に入る。
「本題なんだけど……なにかこう、ティナの体になるようなもの、ないかな?」
「うん? 幽霊の嬢ちゃんの体じゃと?」
「ティナって幽霊だから、昼は外に出ることができないんだよ。外に出るためには、こうして物に取り憑くしかないんだ。で、今まではヤカンに取り憑いてもらってたんだけど……いつまでもヤカンっていうのも、どうかと思うだろ?」
「なるほどな。まあ、もっともな話じゃな」
「というわけで、なにかないかな?」
「うーむ……とはいえ、儂は武具職人じゃからな。武具以外のものは……」
「そこはガンツの腕を見込んで」
「まったく……そう言われたら、断れんじゃろうが」
あごのヒゲを撫でるようにしながら、しばらくの間、ガンツは考えるような仕草をとる。
ややあって、口を開いた。
「ふむ、そうじゃな……一週間後にまた来てくれんか? それまでになんとかしておこう」
「ありがとう、助かるよ」
「なに、ホライズンの英雄様のためなら、これくらいのことはしてやるさ」
「英雄はやめてくれ……」
わざと言っているであろうガンツに、俺は苦い顔をした。
そんな俺達を、ティナは楽しそうに見ていた。
――――――――――
……そして、一週間後。
「こんにちは」
「邪魔するでー」
ティナと一緒に、再びガンツの店を尋ねた。
店内にガンツの姿はない。
ただ、すぐに俺達に気がついたらしく、奥から姿を見せた。
「おう、レイン達か。ちょうどよかった」
俺達の姿を認めると、ガンツはナルカミとカムイを取り出した。
「まずは、これらの返却じゃな。新品同様、バッチリメンテナンスしておいたぞ」
「ありがとう、助かるよ」
「なに。これからも、なにかあればすぐに持ってくるといい。儂の作った武具をたくさん使ってくれるのは、職人としてはうれしい限りじゃからな」
ガンツは気持ちのいい笑みを浮かべる。
職人としての魂が刺激されているのだろう。
「それと、これは幽霊の嬢ちゃんにだ」
続けて、ガンツはとあるものを取り出した。
「人形……?」
それは、小さな人形のようなものだった。
サイズは、手の平よりも大きいくらいだろうか?
とても精巧につくられていて、子供が遊びで使うようなものとは違う。
それに、この人形、どこかで見たような……?
「ん? これ、もしかしてウチ?」
「あっ」
ティナがそう言って、そのことに気がついた。
ティナが言うように、この人形はティナに似ていた。
メイド服を着ているし、顔もそっくりだし……ミニマムサイズのティナだ。
「コイツを嬢ちゃんの新しい体に、と思ったんじゃが……どうじゃ?」
「おーっ、コレがウチの新しい体なん?」
「儂のもてる技術をありったけつぎ込んだ、最新の戦闘人形じゃ。見た目がいいだけではなくて、色々なギミックが仕込まれてて、戦うこともできるぞ」
「おー♪」
ティナが目をキラキラと輝かせていた。
そういうの好きそうだもんなあ……
「こんなものを作ってくれるなんて……悪いな。手間じゃなかったか?」
「なーに。たまには、こういうものを作るのも悪くないぞ。それに、職人として試されているみたいで、燃えたからのう」
「ははは」
実にガンツらしい意見だ。
「なあなあ、さっそくこの体に移ってみてもええ?」
「うむ。嬢ちゃんのために作ったものじゃからな。ぜひ、使ってくれ」
「おおきに」
ティナの姿が揺らいで……
霧のようになって、人形に吸い込まれていく。
そして……
「……お? お? おおおーーー」
机の上に置かれている人形が、すくっと立ち上がる。
体の感覚を確かめるように手足を動かして……
その場でジャンプをしたり、パンチをしたり、声を出したり……ティナがうれしそうにはしゃぐ。
「これ、めっちゃええな! いつもと大して変わらんし、思うように手足が動かせるし……あー、めっちゃええわ。ほんまええわ」
ええわ、を連発するティナ。
よほど気に入ったのだろう。
そんなティナを見て、俺はちょっと反省していた。
他になかったとはいえ、今まで、ヤカンに取り憑いてもらっていたからなあ……
もう少しまともなものはなかったのか?
今更ながら反省である。
「おっちゃん、おおきに!」
「なーに、いいってことよ。レインは上客だからな」
「ってことは、それなりに値が……?」
「これくらいでどうだ?」
「……もうちょっとまからないか?」
「おいおい。嬢ちゃんのためじゃぞ? それなのにケチってどうするんじゃ」
「はあ……そう言われたら、どうしようもないな。わかった、それでいいよ」
ガンツが提示した金額は、決して安いものではなかったのだけど……
ティナのためと言われたら、反論することはできなかった。
まあ、ガンツのことだ。
ぼったくるようなことはしていないし、むしろ、安くしてくれているのだろう。
それに、ティナのためにこんな素敵な体を作ってもらったんだ。
感謝する以外になにもない。
「おー、おー。ほんまええな、この体。なあなあ、レインの旦那。ウチのこと、どう思う?」
「どう、って言われてもなあ……」
「ダメやなー。そこは、かわいいって言わんと」
そう言いたいところではあるが、見た目人形のティナにかわいいというのは、なんていうか、絵面的にまずいような……?
「なあなあ、レインの旦那」
「うん?」
「ウチのためにいろいろしてくれて、ありがとな♪」
そんなティナの笑顔に癒やされるのだった。
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