190話 風邪
太陽が顔を出して、少しした頃。
目を覚ました俺はキッチンへ移動して、朝食の準備を始める。
今日の食事当番は俺なのだ。
「さて、どんなメニューにするかな?」
ごはんにしようか? それともパンにしようか?
朝から重いものは食べられないから、大抵、その二択になるんだよな。
たまには、この二択以外のものにチャレンジしてみたいけど……
下手にチャレンジをすると、ソラみたいになってしまうからな。
さすがに、それはまずい。
……などと失礼なことを考えながら、朝食の準備をしていると。
「……おはよう」
「おはよう、タニア」
タニアが顔を見せた。
寝起きらしく、どことなくふらふらしている。
「あれ? ……今日、レインが当番だっけ?」
「そうだよ。まだ時間かかるから、部屋で待っててもいいぞ」
「ううん……ここにいるわ」
「そうか?」
「うん……はぁ……ふぅ……」
タニアは、妙な吐息をこぼした。
なんだか熱っぽいというか……
よくよく見てみれば、頬が赤い。
それに、だるそうにしていて、テーブルに寄りかかるようにしている。
なんか気になるな……
調理の手を止めて、タニアのところへ移動する。
「どうかしたのか? なんか顔色が悪いぞ?」
「別に……何もないけど……」
「そうは見えないんだけど……ちょっと、じっとしててくれ」
「ふぁ!?」
タニアのおでこに手を当てる。
俺の手が冷たかったからなのか、タニアが変な声をあげた。
「ちょっ……れ、レイン? いきなり何してるのよっ」
「いいからじっとしてる……んー、熱いな」
「そんなわけないじゃない……竜族のあたしが、風邪を引いたとでも?」
「最強種でも、風邪を引く時は引くだろう。部屋でおとなしくしていた方がいい。歩けるか?」
「子供扱いしないでよぉ……歩くくらい、なんてこと……あ、あら?」
タニアが立ち上がり……ふらりとよろめいてしまう。
思っている以上に熱があるのかもしれない。
一人にするのは心配だ。
「タニア、そのまま」
「え? ちょっ……!?」
タニアの背中と膝裏に手を回して、そのまま抱きかかえた。
「な、なにしてんのよ!? こ、こんなのっ……」
「おとなしくしていること。タニアは病人なんだから」
「だ、だからって……これは、その……うぅ、は、恥ずかしい……」
ジタバタと暴れるものの……
そんな体力も残っていないのか、タニアはすぐにおとなしくなった。
そのままタニアを部屋に連れていき、ベッドに寝かせた。
「はふぅ……」
強がるようなことを言っていたけれど、やっぱり辛かったらしく、ベッドに横になると、タニアは大きな吐息をこぼした。
「ちょっと待っててくれ」
俺は一度、部屋を後にして……
冷たい水とタオルを用意して、タニアの部屋へ戻る。
タオルを水につけて絞り……
それから、タニアの額に乗せた。
「ん……」
「どうだ?」
「……少し、楽になったかも」
「そっか、よかった。ごはんは食べられそうか?」
「……軽いものなら」
「了解。おかゆでも作るよ。それで、薬を飲もう」
「……薬、苦いからイヤ……」
「子供みたいなことを言うな」
これだけの元気があるなら大丈夫だろう。
おかゆとみんなのごはんを作るために、部屋を出ようとすると……
「あ……」
どこか寂しそうな、俺を引き止めるような……そんな声が聞こえた。
「うん? どうかした?」
「えっと……その……」
「なにかほしいものがある、とか?」
「そ、そうよ……えっと、その……りんごが食べたいわ。すりおろしたやつ」
「了解。じゃあ、それもセットにしておくよ。他には?」
「……なにもないわ」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ」
「……ん」
――――――――――
「なに? タニアが風邪を引いたのか?」
「それは心配ですね……」
おかゆとごはんを作っている途中……
ソラとルナが顔を出したので、事情を説明した。
「そういうことなら、ソラに任せてください。栄養たっぷりの病人食を作り、見事にタニアの風邪を治してみせましょう」
「や、やめておくといいぞ……そんなことをしたら、タニアにトドメを刺してしまうのだ」
内心でルナに同意しておく。
「えっと……悪いんだけど、みんなのごはんの準備を頼めないか? 早くタニアに温かいものを食べさせてやりたいから……」
「うむっ、そういうことなら任せるがいい! みんなのごはんは、我が作ることにしよう」
「ソラに任せてください。なんなら、おかゆも作りましょうか?」
「い、いや。おかゆはもう作ったから……みんなのごはんを担当してもらえるだけで、十分にありがたいよ」
……というわけで。
後のことはソラとルナに任せて、俺は、ごはんと薬を手に、再びタニアの部屋を訪れた。
「おまたせ」
「ん……遅いわ……」
俺の姿を見つけると、タニアは体を起こした。
「はい」
レンゲでおかゆをすくい、タニアの口元へ寄せる。
「えっ……ちょ、ちょっと……な、なにしてるのよ……?」
「え? ……ああ、そっか。悪い悪い」
「そ、そうよ。あたしをそんな風に子供扱いするなんて……」
「冷ますのを忘れていたよな。これじゃあ熱いよな」
「ぜんぜんわかっていない!?」
「ふーっ、ふーっ……よし、こんなもんだろう。ほら、あーん」
「うっ……」
再びレンゲを差し出すと、タニアの顔が真っ赤になる。
熱でも上がったんだろうか?
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ……うぅ、これくらいのことで動揺するなんて……というか、平然とこんなことをしてのけるなんて……レインってば、ちょっと色々と抜けているんじゃないの……?」
なにやら、ぶつぶつとつぶやいている。
ひどいことを言われているような気がするが……
まあ、今は気にしないでおこう。
それよりも、タニアの看病を優先しないと。
「ほら、あーん」
「う、うぅ……」
「早く食べないと冷めるぞ?」
「わ、わかってるわよ……そ、その……あむっ」
なぜか、おどおどとした様子で、タニアはレンゲをぱくりと咥えた。
そのまま、もごもごとおかゆを食べる。
「どうだ?」
「そ、その……まあまあね」
「まだ食べられるか?」
「一応……」
「じゃあ、あーん」
「うぅ……また、それ……」
「ん?」
「わ、わかったよ、食べればいいんでしょう食べれば……! あーんっ」
なぜかヤケ気味に、タニアはおかゆを食べた。
それなりに空腹だったらしく、ぱくぱくとおかゆを食べた。
すりおろしたりんごも一緒に食べた。
それから薬を飲んで……
再び横になる。
「おとなしく寝てるんだぞ? こっそりと抜け出したりしないように」
「子供じゃないんだから……おとなしくしてるわよ、もうっ」
「なにかあれば、すぐに呼んでくれ」
「……つまらない用事で呼びつけてもいいの?」
「いいさ。タニアは病人なんだから、こういう時くらい、甘えてほしいよ」
「……そ」
「じゃあ、また後で。おやすみ」
部屋を後にしようとして……
「……ま、待って」
そっと、タニアに手を掴まれた。
「うん? どうしたんだ?」
「その……つ、つまらない用事をぶつけてもいいんでしょ?」
「ああ、いいぞ。なにかあるのか?」
「えっと……その……」
タニアは視線をさまよわせて、風邪とは違う意味で頬を染めて……
「……寝るまで一緒にいて。こういう時、一人は寂しいから……」
「了解」
「……ん……」
そっと頬を撫でると、タニアはうれしそうに微笑むのだった。
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