157話 イリスの過去・1
「普通の人間とは違う、って言われてもな……俺は普通の」
そこまで言いかけて、カナデやみんなからいつも言われていることを思い出した。
「……ちょっと変わったビーストテイマーにすぎないぞ?」
そんな風に言い直しておいた。
あまり自覚はないんだけど……
俺みたいなビーストテイマーは、ほとんどいないらしいからな。
「ふぅん?」
イリスがなおもじっと俺の顔を見る。
「レインさまが普通、ですか。そんなことを言われたら、普通の定義を疑ってしまいたくなりますが」
「そんなことを言われてもな……ビーストテイマーとしては特殊かもしれないが、その他は何もないぞ?」
「本当に?」
「何を疑っているのか知らないが、ウソはついていないぞ」
「なるほど、なるほど。わたくしの勘が鈍ってしまったのか、それとも……レインさまが知らないだけなのか」
イリスがさらに顔を近づけてきた。
綺麗な顔が目の前に……
不思議とドキドキすることはなくて、なぜか落ち着いた。
「これは、わたくしの感覚の話なのですが……レインさまは、あの勇者と似ていますわね」
「えぇ……」
たぶん、今の俺は、おもいきりイヤそうな顔をしているだろう。
「あら、イヤそうな顔をしていますわね」
「アリオスと一緒にされてもな……」
「性格、雰囲気などが同じ、というわけではありませんわ。そうですね、なんといえばいいのでしょうか……魂が似ている、とでもいえばいいのでしょうか」
「魂が……? それって、結局似た者同士、っていうことにならないか?」
「いえ、いえ。ぜんぜん違いますわ。魂はその者の根源を指すもの。性格や雰囲気などはまったく関係ありませんわ。その者の霊的資質を表すものですから、表面上の問題などではなくて、もっと根源的な……」
「悪い。難しい話はわからない」
「くすっ、時間はたくさんあるのですから、ゆっくりと講義いたしましょうか?」
「勘弁してくれ……」
イリスがいらずらっ子のように笑い、俺は降参とばかりに手をあげた。
ホント……こうしていると、普通の子と変わらないんだよな。
なにがここまで、イリスを歪めてしまったのだろう?
「まあ、簡単に言うと『血』でしょうか」
「血?」
「レインさまの体に流れている血と、あの勇者に流れている血……それはひどく似ていますわ」
「そんなこと……」
アリオスは勇者だ。
そして、勇者は血筋によって選ばれる。
そんなアリオスと似ていると言われたら、それは……
「まあ、確たる証拠があるわけではなく、わたくしの勘ですので。あまり深く考えないよう」
「……そうか」
と言われても、簡単に忘れることはできない。
イリスはつまらないウソをつくような性格はしていないと思う。
こんなウソをついても、イリスにメリットがまるでないし……
本当のこと、なのだろうか……?
あとで真面目に考えてみる必要があるかもな。
……それよりも。
今はイリスのことだ。
せっかく、こうして話ができるんだ。
もっともっと、色々な話をしたい。
イリスのことを知りたい。
「聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「どうして、人を殺そうとするんだ? いや……どうして、人が憎いんだ?」
「……」
「何か理由があるんだろ?」
「あら。わたくしにそのようなことを聞きますか? わたくしのことだから、理由なんてないかもしれませんわよ? ただ単に、暇つぶしにしているだけなのかも。そう……子供が意味もなくアリをつぶすように」
「イリスはそんな子じゃないよ」
「出会ったばかりなのに、どうしてそう言い切れるのでしょうか?」
「勘かな」
イリスの言葉を借りてみた。
「あと、俺の願望も混じっているかもしれない」
「……」
「やっぱり、イリスとは戦いたくない。というか、このまま戦っていいのか迷っている。ただ単純に、魔族のような人類の敵、って断言することができないんだ。以前、魔族と戦ったことがあるんだけど……連中は意味もなく人を殺し、そうすることが当たり前のように破壊を撒き散らした」
「それが普通ですわね。魔族とは、己以外の生き物を認めませんから」
「でも、イリスは違う。なにかしら理由があって、人と戦うことを選んだように見える。何か強い理由があって……それで、敵対することを選んだ」
「……」
「違うか?」
「……正解ですわ」
イリスは、意外とあっさりと認めた。
「レインさまの言う通りですわ。わたくしは、魔族とは違います。意味もなく人を殺すようなことはしませんわ」
「なら……」
「ですが、意味があるのならば……ためらうことなく殺します」
イリスが笑う。
その笑みは憎悪と狂気で満ちていた。
「……どうして」
「はい?」
「どうして、イリスはそんな風に? なにがイリスを駆り立てているんだ?」
「それを知って、どうするのですか?」
「わからない……ただ、知りたいんだ」
じっとイリスのことを見つめた。
「希望的観測かもしれないけど……原因がわかれば、ひょっとしたら和解できるかもしれない」
「ありえませんわ」
即答された。
断言された。
イリスの強い意思を感じられる。
絶対に人を許してたまるか。
そう言っているように聞こえた。
「ですが……レインさまは、このような答えでは納得しないのでしょうね」
「まあ、できないかもな。できることなら、イリスの口から真実を聞きたい」
迷うような間。
ややあって、イリスが小さな吐息をこぼした。
「ふう……強引な方。そこまで言われたら、仕方ないですわね」
「じゃあ……」
「ですが、勘違いなさらないように。話をするのは、わたくしのことを理解してもらうためでも、和解するためでもありませんわ。私が抱いているものを知り……諦めてもらうため。和解などは決してありえないと知ってもらうため。そのために話をするのですわ」
「それでも、聞かせてくれないか?」
「ふふっ……話をするのはちょっとうんざりしてしまいますが……ですが、強引な殿方は嫌いじゃありませんわ」
くすりと笑い、イリスが俺から離れた。
そのまま村の外れに移動する。
俺もその後をゆっくりと追いかけた。
「レインさまには、家族はいらっしゃいますか?」
俺に背を向けたまま、イリスは静かな声で問いかけてきた。
「いや。けっこう前に、魔物に襲われて死んだよ」
「そうでしたか……失礼しました。嫌なことを聞いてしまいましたね」
「構わないよ。一応、心の整理はついているから」
「そう言ってくださると、助かりますわ」
イリスが微笑んだような気がした。
こちらに背を向けているから、あくまでも『ような気がした』……だ。
「レインさまに抱いている親近感の理由の一つが、わかったような気がしますわ」
「それは……?」
「わたくしも、家族を全て失っていますの」
イリスの声に、わずかな悲しみを感じられた。
とても人間臭い感情に、こんな時になんだけど、イリスに親しみを覚えた。
やっぱり、イリスも家族を失うと悲しむものなんだ。
俺達、人と変わらない。
「……それは、天族に関わる話なのか?」
少し迷ったけれど、踏み込んでみることにした。
絶滅したと言われている最強種。
なぜ絶滅したのか。
なぜ姿を消したのか。
それは明らかにされていない。
ふと思う。
もしも、天族が絶滅した理由に人が関わっているとしたら……?
だとしたら、イリスの憎しみも納得できた。
「わたくしのことを話す前に……まずは、わたくし達天族についてお話しましょうか」
イリスが振り返る。
その顔は、不自然なほどに穏やかなものだった。
「レインさまは、わたくし達天族について、どれほどのことを知っていますか?」
「そうだな……ほとんど知らない、っていうのが本当のところかな。滅んだといわれてけっこう経っているし……滅んだ理由も明らかになっていない。何もわからないのが現状、っていうところだ」
「なるほど、なるほど。そういうことになっているのですか……」
イリスが軽く爪を噛んだ。
「自分達に都合の悪いことは消す……なるほど、なるほど。いかにも人間が考えそうなことですわね」
「それは、どういう意味なんだ?」
「どういうことだと思いますか?」
逆に問いかけられた。
イリスは何を知っている?
何を見てきた?
それらを推察して、考える。
やがて……俺は、一つの答えにたどり着いた。
「……天族が絶滅したのは、人が関わっている?」
「正解ですわ」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




