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142話 災厄、再び

 山を降りて、パゴスの村跡へ。

 念のために、山で得た情報を元に調査をしてみたものの、新しい手がかりを得ることはできなかった。

 やはり、鍵はアリオスが握っているみたいだ。


 ソラとルナが教えてくれた、冒険者の死の記憶……

 アリオスは、いったい、なにをしでかしたのか?

 直接、問い詰めないといけない。


 アクスとセルは、まさかあの勇者が……と半信半疑の様子だったが、ソラとルナの言葉を否定するだけの材料もなく、ひとまずは納得したらしい。


 こうして、俺達はアリオスに会うために、再びジスの村に戻った。


「にゃー……なんか、久しぶりな気分」


 ジスの村に到着すると、カナデがそんなことを言った。


 パゴスの村までの往復に、数日をかけているからな。

 久しぶり、という気分になってもおかしくない。


「でも……なんか、雰囲気がおかしくない?」


 タニアが小首を傾げた。

 ソラとルナも、それに同意する。


「そうですね。妙な雰囲気というか……以前、訪れた時とは違っていますね」

「なんというか、ピリピリしているのだ」

「なにか……あった、のかな?」


 村に流れる刺々しい空気に怯えるように、ニーナが体を小さくした。

 そんなニーナの頭を撫でて、安心させてやる。


「ん……レイン。あり、がと……」

「大丈夫。俺がいるし、みんなもいるから」

「……うん」

「それにしても……ソラとルナの言う通り、様子がおかしいな? どうしたんだろう?」

「おーい」


 先に、村の様子を見て回っていたアクスとセルが戻ってきた。

 慌てていて、いつも冷静沈着なセルも顔色を変えていた。


「なにかあったのか?」

「大変だ! 悪魔が出たらしいっ」

「なっ……」


 俺達が村を離れている間に……?


「アクス、言葉が足りないわ」

「おっと、そうだな。すまん」

「うん?」

「あー、つまりだ。ここから先の、なんつったっけな……?」

「……リバーエンドよ」

「ああ、そうそう、それだ。そこに悪魔が現れたらしい」

「リバーエンドに? どうして、そんなところに……」

「さあな。それはわからねえが……最近、不可解な殺人事件が頻発してたらしいぜ。それで調べてみたら……」

「悪魔にたどり着いたらしいわ」

「あっ、俺のセリフ!?」


 アクスが拗ねたような顔になるが、セルは構わずに話を続ける。


「偶然、その場に居合わせた討伐組の一部が交戦したらしいわ」

「……結果は?」

「全滅よ」


 セルが苦い顔をして言う。


 今回の緊急依頼は、それなりのランクがないと受けることができないと聞いている。

 それなのに、誰一人生き残ることなく、全滅するなんて……


 どうやら、敵は、思っていた以上に手強いのかもしれない。


「ただ、不幸中の幸いというべきか……悪魔について、ある程度の情報が得られたわ。悪魔はリバーエンドを離れて、このジスに向かっているらしいわ」

「この村に……」

「情報統制がしっかりとできていなくて、村人も知ることになってしまったの」

「そういうことか」


 道理で、村全体がピリピリとしているわけだ。


 パゴスの村を壊滅させて、リバーエンドで殺戮を繰り広げた悪魔が近づいてきている。

 そんなことを知れば、誰もが怯えてしまうだろう。

 むしろ、パニックになっていないのが不思議だった。


「今後の流れは?」

「ギルドに確認したら、このジスの周辺で悪魔を迎え撃つ方針らしいわ。今、討伐組がこちらへ向かっている」

「それは間に合うのか?」

「わからないわ……悪魔についての新しい情報はなし。どれだけの移動力があるのか不明ね。もしかしたら、討伐組よりも早く、ここに到着するかもしれないわ」

「その時は、俺達がやるしかないか」

「ええ、そうね」


 討伐組がいないのは痛いけれど……

 でも、俺達だって負けてはいない。

 みんながいるし、悪魔が相手だとしても、ある程度のところまでは食い下がれるはずだ。


 ただ……

 相手は、正体不明の存在だ。

 どれだけの力を持っているのか……そこが不安の種だ。

 できることなら、みんなを危険な目に遭わせたくないんだけど……


「レイン」

「うん?」


 ちょんちょん、とタニアに肩を叩かれた。

 タニアと一緒に、ルナが真面目な顔をしてこちらを見ている。


「今、くだらないことを考えてなかった?」

「我らを危険な目に遭わせたくないとか、そんなことを考えていたに違いないのだ」


 すごいな。二人は心を読むことができるのか?


「それは……」

「見くびらないでちょうだい」

「我らは、どんなことがあろうとレインと一緒にいるぞ」


 ルナの言葉に、他のみんなが頷いてみせた。


「確かに、危険なことかもしれぬな。話を聞いたところによると、悪魔とやらは、我ら最強種に近い力……あるいは、魔族に匹敵するのかもしれぬ。でも、だからといって、逃げるわけにはいかぬな」

「っていうか、危険なんてことを言い出したらキリがないでしょ? 簡単な依頼だとしても、思わぬ危険に遭遇するかもしれないし……」

「そういうことを気にしていたら、キリがないのだ。というか、気にしてほしくないのだ。我らは仲間なのだろう?」

「心配してくれるのは、その、まあ、うれしくなくもないけど? でもね? そこは、心配するんじゃなくて、信頼してほしいわ」

「我らになら任せることができる。背中を預けて戦うことができる。そう思ってくれた方が、何倍もうれしいぞ」

「……そっか、そうだよな」


 二人の言葉で目が覚めた気分だった。


 ようやくできた俺のパーティー。

 大事な仲間。

 それを失いたくないと思うあまり、とんでもない勘違いをしていたみたいだ。


 危険から遠ざける、なんてことをしていたら、本当の絆を結ぶことはできない。

 どんな時も一緒にいるからこそ、生まれてくるものもあるだろう。

 仲間を失いたくないと臆病になるあまり、そのことを忘れていたみたいだ。


「……わかった。というか、ごめん。二人の言う通り、変なことを考えていたよ」

「まったくもう……しっかりしなさいよね? あたしのご主人様なんだから、もっと、強気にドーンと構えてなさい」

「うむ。主殿は、もっと図々しくなってもいいと思うぞ?」

「はは。図々しくなれるかどうか、それはわからないけど……まあ、やってみるよ」


 時に、道を間違えてしまう俺だけど……

 今は、それを正してくれる仲間がいる。

 それは、とてもうれしいことに思えた。


「話はまとまった?」


 セルがどこか柔らかい表情で問いかけてきた。


「っと……悪い。話を脱線させて」

「いいわ、気にしていないから。直前でごたごたするよりは、今、こうして話し合える方がいいわ」

「えっと……話を戻すけど、いざという時は俺達で悪魔を迎撃しよう。どれくらいの時間があると思う?」

「そうね……リバーエンドの出来事がつい先日のことらしいから、数日くらいの猶予はあると思うわ。仮に、悪魔を最強種と想定しても、人の足で一週間もかかる道を一日以下で踏破できるとは思えないもの」

「そうだな。俺も同意見だ」

「その間に、討伐隊が間に合えばよし。間に合わなかった時は、私達が迎撃にあたりましょう」

「住民の避難に、できれば罠の設置もしておきたいな。忙しくなりそうだ」

「ねえねえ、レイン」


 くいくい、とカナデが俺の服を引っ張る。


「うん?」

「悪魔のことはいいんだけど……勇者の方はどうするの?」

「……そこなんだよな」


 頭の痛い問題だ。


「勇者が、悪魔を封印してた祠を壊したんだよね? で、そこにいた冒険者も殺しちゃったんだよね? 絶対、なにか悪いことを考えているよ! 問い詰めないとっ」

「いや……今は、それはダメだ」

「え? なんで?」


 こちらの答えが予想外だったらしく、カナデが不思議そうな顔をした。

 他のみんなも、なんで? というような顔をしている。


「真偽はわからないが……アリオスは、ここにいる人にとって英雄だ。そんな人が、実は裏で悪いことを企んでいました、ってことがわかったら、どうなると思う?」

「えっと……怒る?」

「大体、正解。普通なら、みんなでアリオスを問い詰める流れになって、大混乱が起きる。それは、今はまずい」


 悪魔の襲来に備えなければいけないのに……

 そのような騒ぎが起きたら、悪魔どころではなくなる。

 迎撃をするどころじゃなくなって、下手をしたら自滅してしまう。


「じゃあじゃあ、勇者は放置しておくの?」

「できれば、それはしたくないんだよな……」


 騒ぎにするつもりはない。

 でも、放置しておくつもりもない。


 仮に、アリオスがなにかしらの証拠を持っていたとして……

 時間が経てば、それを処分してしまうかもしれない。

 他にも、時間が経てば経つほど、手がかりが失われてしまうかもしれない。


 なので、それは避けたい。

 できることなら、周囲にバレることなく……他の人がいないところで、アリオス達と話したいところだけど……

 今や、アリオスは村の英雄だからな……そんなのを相手に、周囲の人を完全に排除する、っていうのは難しいだろう。


「……ひとまず、アリオスのことは後回しだ。今は、悪魔の迎撃を最優先に考えないと」

「にゃー……スッキリしないにゃ」

「我慢してくれ。一段落ついたら、問い詰めるっていうことで……」


 その時、


「うあっ、うわあああああっ、悪魔だ!? 悪魔が出たぞーーーっ!!!」


 村人の悲鳴が聞こえてきた。

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