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139話 陰謀

 みんなが言葉を失う。


 アリオスがこの人を殺した?

 いったい、どうして?


 突然のことに頭が混乱して、うまく言葉を紡ぐことができない。

 他のみんなも同様で……特に、アクスは大きな動揺を見せていた。


「……詳しいことを教えてくれないか?」


 努めて冷静になりながら、ソラとルナに尋ねた。

 とにかく、今は情報が欲しい。


「詳しいことと言われても……難しいですね」

「時間が経っているせいで、魂の欠片しか残っていなくてな。全ての記憶を覗くことができた、というわけではないのだ」

「それでもいい。見えたこと、全部、教えてくれ」

「うむ、わかったのだ」


 ソラとルナは、己が見た光景を語り始めた。


 男は冒険者で、アリオスに雇われて一緒に行動していたこと。

 そのアリオスと一緒に、この山に登ったこと。

 祠を壊したのが……アリオスであること。

 その後、なにかしら問題が発生して……アリオスに斬られたこと。


「……以上が、ソラ達が見たこの人の記憶です」

「嘘偽りはない、真実なのだ」

「……」


 言葉が出てこない。


 仲間を疑うような真似はしたくないんだけど……

 それでも、本当なのだろうか? と思ってしまう。


 いくらなんでも、アリオスが人を斬るなんて……

 勇者とあろうものが、そんなことをするだろうか?

 盗賊などならいざしらず、相手は自分が雇ったはずの冒険者だ。


 それとも……冒険者が、なにかとんでもない問題行動を起こしたのだろうか?

 斬られても仕方ないだけの理由があったのだろうか?


 その理由に、祠は関係しているのだろうか?

 ソラとルナによれば、祠はアリオスが壊したらしい。

 なぜ、そんなことをしたのかわからないが……

 冒険者がそのことを咎めて、トラブルになったとか?

 それで、カッとなったアリオスが剣を……って、ダメだ。


 こんなのはただの邪推であって、推理ですらない。

 予想外の事実を示されて、混乱しているみたいだ。

 頭を冷やそう。


「そ、そんなことあるわけねえだろ!?」


 ややあって、我を取り戻した様子でアクスが大きな声をあげた。


 尊敬する勇者が人殺しをしていたなんて、認めたくないらしい。

 ソラとルナに掴みかかるような勢いで、声を荒げる。


「なにかの間違いだ! そんなこと、あるわけねえよ!」

「ソラ達は、この人の記憶を見たんですよ? 断片的なので、全容はわかりませんが……でも、この人が勇者に斬られたことは事実です」

「アクスは勇者を尊敬しているのだったな? 奇特な者だ。まあ、それはいいとして……受け入れがたいかもしれぬが、これは事実だぞ。我らは、このようなことでウソはつかないのだ」

「だから、それが何かの間違いなんだよ! 魔法に失敗したとか、そういうオチが待ってるんだろっ」

「ソラ達は魔法のエキスパートです。落ち着いて魔法を使うことができるこの状況下で、ミスするなんていうことはありえません」

「万が一にもないな」

「くっ……」


 ソラとルナがきっぱりとアクスの言葉を否定した。

 その態度に、アクスがひるんでしまう。


「そんなバカなことが……」


 なかなか、ソラとルナの言葉を受け入れることができないらしい。

 アクスは混乱した様子で、ぶつぶつとつぶやいていた。


 そんな相方の肩を、セルがそっと叩く。


「アクス」

「セル……」

「落ち着きなさい」

「ぐはぁっ!?」

「「「!!!?」」」


 セルは無表情で、淡々とした口調で、アクスを殴りつけた。


「にゃ、にゃんですと?」

「今、おもいきり殴りつけたわよ……?」

「な、なんで殴りつけたのだ……?」

「冷静さを欠いているみたいだったから。正気に戻ってもらうために、ね」


 恐る恐る問いかけるルナに、セルはいつもの調子で、淡々と返した。


「ですが、なにも、殴らなくてもいいのでは……?」

「このバカには、これくらいがちょうどいいのよ」

「そ、そうですか……」


 きっぱりと言われて、ソラは、それ以上はつっこめない様子だった。

 様子を見ていた俺も、口を挟むことができない。


「なにすんだよっ!?」


 頬を赤くしたアクスが、涙目でセルに抗議した。


「殴ったのよ」

「事実を言えって言ったわけじゃねえよ!?」

「こうでもしないと、あなた、落ち着くことができないでしょう? どう? 少しは冷静になることができた?」

「あ……」

「荒療治になったことは、謝るわ。でも、仕方ないじゃない」

「仕方ないからって、愛する相方を殴るか、普通……」

「愛していないけど?」


 真顔で言われて、アクスが傷ついたような顔をした。


 それから……

 はあ、と大きなため息をこぼす。


「ったく……ちょっと納得はいかねえが……まあ、落ち着いたよ。サンキューな」

「貸し一つね」

「はいはい」


 なんだかんだで、この二人は強い絆で結ばれているみたいだ。

 そのことが見ているだけで、よく伝わってくる。


「……取り乱して悪かったな」

「いえ、ソラは気にしていませんから」

「うむ。アクスは勇者に憧れていたのだろう? ならば、仕方ないことなのだ」


 ソラとルナは、アクスの謝罪を受け入れて、さらっと水に流した。

 なかなかできることじゃない。

 ソラとルナの懐の深いところを、改めて知ったような気がした。


「その……繰り返しになってわりいが、もう一度、確認しておきたくて……二人が言ったこと、本当のことなんだよな?」

「ええ、間違いありません」

「そっか……」

「まあ……全容はわからないので、あの勇者にも、何かしらの事情があったのかもしれません。この人が、実は盗賊だったとか、そういう事情が」

「ま、我はそんな可能性はないと思うけどな。勇者とは少ししか顔を合わせたことがないが、気に食わないヤツだったのだ」

「ルナ!」

「我は本当のことを口にしただけだぞ」


 ソラがフォローをしようとして、でも、それをルナに潰されて……

 ちょっとしたコントのような展開が繰り広げられていた。


 おかげで……というのもおかしいかもしれないが、場の空気が少し和んだ。

 アクスもちょうどいい具合に肩の力が抜けたらしく、がしがしと頭をかいている。


「しかし……どういうことだ? 感情抜きに考えても、勇者様が冒険者を斬るなんて、意味がわからねえぞ」

「それは、祠に関係しているんじゃないかしら?」

「そうだな」


 セルの言葉に同意した。


「一度、情報を整理してみよう」


 周辺を調べたことで得られた情報と、ソラとルナの証言を照らし合わせて、確かなものを並べていく。


「ソラとルナが見た記憶の中には、アリオスが祠を壊す、というものも含まれていた」

「それと、祠は剣のようなもので壊された跡があった」

「ってことは、祠を壊した犯人は勇者で間違いない、ってことね」


 俺のフォローをするように、カナデとタニアがそう続いた。

 二人に頷いてみせながら、言葉を続ける。


「ああ、それは間違いないと思う。問題は、どうしてそんなことをしたのか、だ」

「祠に封印されている悪魔を解放したかった……などでしょうか?」

「あの勇者のことだから、単なる憂さ晴らし、っていう説もあるのではないか?」

「いや……さすがに、それはないと思う」


 ソラとルナがそんなことを言うけれど、それは否定しておいた。


 一時期、アリオス達と一緒に旅をしていたからわかるのだけど……

 アリオスは名声などを欲するタイプで、名前に傷がつくことを極端に嫌うタイプだ。

 悪魔を解放しようとしたり、憂さ晴らしに神聖な祠を壊すようなことはしないだろう。


「ってことは……祠を壊すことこそが目的だった? あるいは、祠の中にあったかもしれない、何かを欲していた?」

「あるいは、悪魔の力を得ようとしていた、かしら?」

「そうだな……少しずつ、真実に近づいているような気はする」


 アクスとセルの推理は、なかなか確信をついているように思えた。

 それでも、根拠がない。証拠もない。


 ここであれこれ話し合っていても、埒が明かないな……


「……よし、決めた」

「にゃん? どうするの?」

「一番、手っ取り早く、確実な方法をとる」

「っていうと……勇者をヤルのね!?」

「違うから」


 どうして、タニアの発想は、いちいち物騒なんだろう……?

 竜族って、みんなこうなのだろうか?


「そんなことはしないさ。まだ、なんともいえない状況だからな……あくまでも穏便に、だ」

「ふむふむ。というと……?」

「基本は、話し合いで……時と場合によっては、強引に。そんな感じで……直接、アリオスを問い詰める」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ふと思いましたが、アリオスとリーンの両親は「アリオスや旧勇者パーティが善良な冒険者を殺した」という話は知っているのでしょうか? 仮にアリオスの両親が高潔な人格者や善良かつ普通の親だった…
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