137話 惨劇の跡
ジスを後にして、南下すること数日……
特に問題なく、パゴスについた。
途中、魔物に遭遇することはあったけれど、Aランクのアクスとセルもいる中、俺達の敵ではない。
おおよそ、考えられる最短の時間でパゴスに辿り着くことができた。
「……ひどいな」
村に足を踏み入れて、俺は眉をしかめた。
他のみんなも同じような感じだ。
家屋の半分は燃えた跡があり、炭になっている。
残り半分は、巨人がいたずらに拳を振り下ろしたかのように、粉々に破砕されていた。
他にも、小さなクレーターができていたり、大地に深い亀裂が走っていたり……
いったい、どれだけのことをすれば、こんな風になるのか?
想像もできないけれど……
ここで、常識を覆すような破壊の嵐が吹き荒れたことは間違いない。
「まるで、とんでもない嵐に巻き込まれたみたいね」
タニアが、そんな感想を漏らした。
ソラとルナが、それに同意する。
「そうですね……レイン達から話を聞いて、ひどいとは思っていましたが……まさか、ここまでとは。想像以上ですね」
「うむ。我も、ここまでとは思わなかったぞ。これだけの『力』に晒されながら、村人達は、よく半分も生き残ることができたな……あ、いや。生き残ったことは喜ばしいことで、悪いと言うつもりはないぞ?」
「ちょっと不謹慎だけど、あたしも似たようなことを思ったわ」
「そうだな……」
ルナとタニアに同意する。
村人達が半数とはいえ、生き残ったことは、不幸中の幸いとして喜ぶべきことだ。
ただ、これだけの破壊の跡を見せつけられると、どうして生き延びることができたのか、不思議になってしまう。
何が起きていたのか、わからないけれど……
村をこんな風にしてしまう力が振るわれていたのなら、普通は巻き込まれてしまい、すぐに命を落としてしまうと思う。
そうでないということは……
……もしかして、故意に見逃された?
ふと、そんなことを思った。
ただ、何の根拠もないただの勘だ。
今はどんな小さな手がかりも欲しい状況とはいえ、ただの憶測を口にするわけにはいかない。
余計にみんなを混乱させてしまうだけだ。
なにより、俺自身、なぜそう思ったのかよくわからない。
一応、頭の片隅に置いておくことにして……
今は、黙っておくことにしよう。
「にゃー……これだけのことができるなんて、やっぱり、最強種なのかな?」
カナデが村を見回りながら、そんなことを口にした。
「可能性は高いだろうな」
「どう、して……?」
断じた理由がわからないらしく、ニーナが小首を傾げた。
「こんなことをしようと思うとなると、大規模な軍隊が動く必要がある。あるいは、最強種というような強大な力を持つ者。それはわかるか?」
「う、ん」
「軍隊が動くとなると、それなりの足跡が残されるはずだ」
「足跡なら……ある、よ?」
ニーナが、そこらに見える足跡を指差した。
でも、それは浅い。
鎧を着ている者が踏み込めば、もっと深い足跡ができるはずだ。
そんなことを説明する。
「なる、ほど……」
「まあ、軽装で動いていた、って可能性もあるんだけどな。それでも、人が暴れたとしても、こんな風にはならない。……ここまでひどい有様にはならない」
「ん……」
「それと、生き残りの人から、たった一人でやった、って聞いているからな。一人でこんなことができるのは、最強種以外には考えづらいよ」
「あ、そっか」
「にゃー……私達の看板に泥が塗られちゃう」
カナデが不満そうにつぶやいた。
それから、ちょっと怯えたような感じで、こちらを見る。
「……レインは、最強種が怖くなった?」
「うん?」
「こんなことをして……私達のことが怖くなった?」
カナデは、犯人と自分を重ねてみているみたいだ。
「そんなことないさ」
「にゃ」
ぽふっ、と頭を撫でてやる。
カナデが、気持ちよさそうに目を細くした。
「カナデは……それに、みんなも……こんなことをした犯人とは違う」
「レイン……」
「怖がる理由なんてないさ。カナデはカナデだ」
「うん、ありがと♪」
うれしそうに、カナデの尻尾がひょこひょこと揺れた。
「……」
カナデは、なにげなく不安に思っていたみたいだけど……
他の人も、同じようなことを思わないとは限らないんだよな。
今回のことがきっかけで、最強種が迫害されることになるかもしれない。
そんなことにならないように、俺にできることを全力でやらないと。
なんとしても犯人を捕まえないといけない。
そのための情報が欲しい。
引き続き、パゴスを散策する。
「それにしても、変な話やなあ」
カナデが頭の上に乗せているヤカンから声が聞こえた。
ティナのものだ。
地力で歩くことはできないから……魔力を使えば飛べるらしいが、疲れるので長続きはしないらしい……こうしてカナデが、ティナが宿っているヤカンを頭の上に乗っけて運んでいるというわけだ。
……どうでもいいんだけど、ヤカンを頭の上に乗せて歩いているのに、まるで落とす気配がない。
絶妙なバランス感覚を、どうやって身につけたんだろう?
「にゃん、変な話って?」
「コレをやったのは最強種、って話やろ?」
「そだね」
「で、その最強種は悪魔って呼ばれてる。ウチ、それなりに長いこと生きてる……うん? 生きてる? それも変な表現やな、とっくに死んでるし……まあ、ええわ。とにかく、長いこと存在しとるけど、そんな最強種、聞いたことがないで。カナデは知っとるか?」
「うーん……女の子で、黒いドレスを着てて、翼が生えているんだよね? それでもって、悪魔……知らないなあ」
そこなんだよな、問題は。
生き残りの人から聞いた話によると、犯人は最強種の可能性が高い。
こうして現場を見ることで、その考えが正しいことを強く思う。
こんな惨劇を引き起こす力を持っている者は、極少数に限られる。
だから、犯人は最強種であるという考えは間違いではないと思うんだけど……
該当する最強種が思い浮かばない。
「一番の特徴は、翼やろな。でも、翼が生えてる最強種なんて、ウチは知らんよ。カナデやレインの旦那は知っとる?」
「ううん、私は知らないかなー」
「俺も……」
知らない、と言おうとして、かすかに違和感を覚えた。
本当に知らないのだろうか?
記憶の片隅で、なにかが引っかかっているのだけど……
なんだったかな。
なにかしら、気になることがあるような……?
「おーいっ」
声をかけられて我に返った。
振り返ると、アクスとセルの姿が見えた。
二人は別行動をとっていた。
俺達は村の探索を。
そして、アクスとセルは、悪魔が封印されていたという祠を調べに行ってもらっていたのだ。
「そっちはどうだ? 何か見つかったか?」
アクスがそう尋ねてきた。
それに対して、首を横に振る。
「いや。これといった手がかりはないな。強いて言うなら……今回の犯人は化け物、っていうことか」
「ああ、それについては同感だな。村のことは、軽くしか見てないが……こんなことができるヤツが世の中にいるなんてな」
「アクス、話が逸れているわ」
アクスをたしなめるように、セルがそう言った。
「おっと、悪い」
「アクス達の方は、どうだったんだ?」
「祠らしきものは見つけたぜ」
……らしきもの?
アクスの言い回しに、引っかかるものを覚えた。
「話をするよりも、実際に見てもらった方がいいわ。村で調査をすることはまだ残っているかしら」
「いや……」
みんなの顔を見る。
みんな、首を横に振った。
「今のところはないな」
「なら、一緒に来てくれる?」
「わかった」
一度、村を離れた。
それから、アクスとセルの案内に山を登る。
途中、獣道などを歩くことになるが、アクスとセルの案内もあり、迷うことはなかった。
そして、山に入って30分ほど……目的地に到着した。
「あれが祠よ」
「これは……」
悪魔という存在が不確かなものであるため、祠が実在するのか、半信半疑なところがあったのだけど……
祠は、ちゃんと存在していた。
……ただし、何者かの手で壊されていた。
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