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129話 出会い。あるいは、再会。

 以前のようにトラブルが起きるわけでもなく、俺達はストライドブリッジを無事に渡ることができた。

 そのまま南下。

 しばらくしたところで、南大陸最初の街『リバーエンド』にたどり着いた。


 小さな街だけど、冒険者や商人が行き交う拠点になっており、宿には困らない。

 移動で大半の時間を使い、すでに日が暮れかけていた。

 今日はここで休むことにしよう……そう決まり、俺達は宿をとった。


「にゃー……」


 宿を取り終えると、なぜかカナデが不満そうにしていた。


「どうしたんだ?」

「どうして、私達、バラバラなの? 家買う前みたいに、みんな一緒の部屋がいいな」

「仕方ないだろう。部屋がないんだから」


 大部屋を一つ、借りてもよかったのだけど、あいにくと全て埋まっていた。

 残りは、二人用の小さな小部屋のみ。

 なので、小部屋を四部屋借りた。

 ちなみに、部屋割りは俺とアクス、カナデとタニア、ソラとルナ、ニーナとセルだ。

 ティナはヤカンがベッド代わりのようなものなので、ニーナと一緒にいることになった。


「タニアと二人きりだと落ち着かない、とか?」

「ううん、そんなことはないよ。ただ……せっかくなら、レインと一緒がよかったなあ……なんて」

「うん? なんで、俺と一緒の方がいいんだ?」

「にゃ、にゃんでもないよ!? な、ななな、なんとなくそう思っただけだから……深い意味はないの! にゃいんだからね!?」

「あ、ああ?」


 やたらと焦るカナデ。

 俺、そんなに変なことを言っただろうか?

 スズさんがやってきてから、どうも、カナデの様子がおかしくなっているような気がするんだけど……

 うーん、心当たりがない。


「ほら、ごはんを食べに行こう」

「にゃあ、ごはん♪」


 とにかくも、今は体を休めないと。

 少し遅れて、宿の一階にある食堂に移動した。

 すでにみんなは席についていて、俺達が最後だ。


「よしっ、全員そろったな! じゃあ、乾杯といこうぜ! しばらくの間だけだが、俺達は一緒に旅をするパーティーだ。仲良くやっていこうぜ。今日は、飲んで食べて、楽しい時間をぐぉう!?」


 乾杯の音頭を取るアクスを、セルが無言で殴りつけた。


「な、なにを……するんだよぉ……?」

「親睦会を開いてどうするの? ごはんはついで。メインは、これからどう動くのか、どういう方針にするのか、について話し合う……でしょう?」

「そ、そうだな……でも、殴らなくてもいいんじゃないか……?」

「アクスは、これくらいしないとわからないでしょう」

「ごもっとも……」


 この二人、仲が良いのやら悪いのやら。

 判断に迷うな。


「にゃー……二人は仲が良いんだね。息がぴったり」


 カナデはそんな答えを導き出していた。


「……やめてちょうだい。心外よ」


 対するセルは、心底、という感じでうんざりした顔を作っていた。

 本当に、関係性がよくわからない二人だ。


「ま、まあ……仕切り直して、これからのことについて話すとするか」


 アクスが真面目な顔を作り、話を引っ張っていく。


「俺達の目的は、村を壊滅させたという『悪魔』についての調査だ。だから、まずは壊滅したという村へ行ってみようと思うが、問題ねえな?」

「それはどうかと思うぞ」

「あるわ」


 俺とセル、同時に反対されて、アクスが『えぇ』というような顔になった。


「ど、どうしてダメなんだ?」

「え? いや……そんなところに行けば、悪魔と遭遇するかもしれないだろう? 犯人は現場に戻る、っていうし……そういう可能性がある以上は、避けて通るべきだと思うが……」

「レインの言う通りね。付け加えるのならば、調査をするならば、村の生き残りに話を聞くべきでしょう? 村の調査をするのは、もっと後で問題ないわ」

「むぅ……そう言われてみれば、そんな気もしてきたな」

「……アクスは、猪突猛進な性格なのか? こんなこと、我ではなくて、子供でも思いつくと思うぞ」

「……しっ。ルナ、そういうことは気がついても口にしてはいけませんよ」


 後ろの方で、ソラとルナが言ってはいけない本音をぶちまけていた。

 幸いというべきか、アクスには聞こえていないみたいだ。


「生き残りの村人に話を聞くとなると……目的地は、ジスの村かな?」

「ええ、そうね。今、あそこには、一番大きな避難所が作られているらしいから、生き残りの村人が全員集められていると思うわ」

「ただ……少し遠いな。歩いていくとなると、一週間はかかりそうだ」

「馬車を使うことができれば、もっと短縮できると思うのだけど……ジスまでの道は荒れていて、まともに馬車を使うことができないらしいわ。使えたとしても、荒れた道でガタガタで、かえって疲労が溜まってしまうかもしれない」

「となると、歩いていくしかないか。このリバーエンドで、旅の支度をしてから出発した方がいいな」

「ええ、それが一番ね」

「……」


 俺とセルが今後についての話をして……それを見たアクスが、ぽかんとしていた。


「お、お前ら……なんで、色々と具体的なことを知ってるんだ? 俺、何も知らねえのに……」

「はぁ」


 アクスの問いかけに、セルがため息をこぼした。


「あなたは、事前に配布された資料を見ていなかったの?」

「え? し、資料?」

「今回の依頼を請けるにあたり、ギルドから色々と資料が配布されたでしょう? 今の話は、その中に書かれていたことよ」

「そ、そうだったのか……俺、書類とか文字とか苦手だからなあ……そういうのって、ついつい敬遠しちまうんだよな」

「するんじゃないの。情報は大事なのよ」

「ごめんなさい……謝るから、頭を踏まないでくれ……ぐあ!?」

「まったく……まあ、あなたの何も考えずに突き進むところは、今に始まったことじゃないからいいけど……いえ、よくないわね。今回は、レインのパーティーと合同で依頼を請けているのだから。迷惑をかけないように、きっちりと勉強しなさい」


 なんとなく、二人の力関係が見えてきた。

 あと、二人が良いコンビであることも理解した。


 猪突猛進なところのあるアクスだけど、セルがきっちりとサポートしている。

 文句を言いながらもアクスを支えることをやめないのは、信頼している証なのだろう。


 良いパーティーだ。

 俺も、二人のような関係をみんなと築いていきたい。


「せ、セル……いいぞ、もっと踏んでくれ……」

「ホント、仕方のない駄犬ね……ほらっ、ほらっ」


 ……全部じゃなくて、一部、見習わなくていいところはあるみたいだ。


「ねえ……タニア。あれ……二人は、何をして、いるの……?」

「しっ……見ちゃダメよ。ニーナには、まだ早いわ」

「???」


 ニーナの教育に悪いと、タニアが目隠しをしていた。

 事情をさっぱり理解できないニーナは、とにかく不思議そうにするだけだ。

 そのまま、純粋さを保ってほしい。


「ごめんなさいね。このバカ、頭が足りないのに仕切りたいクセがあって。このようなことはもうさせないから、許してくれないかしら?」

「いや、それはいいんだけど……アクスは踏んだままなのか? それ、けっこう痛そうに見えるんだけど……」

「これは躾よ。必要なことなの」

「そ、そうか」


 やっぱり、二人の関係はよくわからなかった。


「じゃあ、俺が話を引き継ぐが……最初の目的地は、ジスの村。そこで悪魔についての情報を集めて……その後の行動は、収集した情報による」

「ええ、それで問題ないわ」

「で……ジスは遠いから、そうだな……明日一日かけて、準備をしよう。それで、明後日に出発する、ということで問題ないか?」

「それも賛成よ」

「ぐっ……セルの意見に、任せるぜ」


 踏まれながら、アクスがうめくように言った。

 痛いはずなのに、ちょっと喜んでいるように見えるのは気のせいだろうか?


「ねえねえ……あれは、なに……?」

「だから、見ちゃダメよ」


 後ろで、ニーナが再びタニアに目隠しされていた。


 なんというか、ちょっとカオスな会議になったのだけど……

 まあ、話は進んだ。

 今後の方針を決めることができた。

 とりあえず、それでよしとしよう。




――――――――――




 外に出てみると、完全に日が暮れていた。

 空は黒一色に染まり、宝石を散りばめたように、星が輝いている。


 一人、宿を後にした俺は、特に目的地もなく、ぶらぶらと街を歩いた。


「……南大陸に戻ってきたんだよな」


 今回の依頼は、おそらく、俺の過去となんの関わりもない。

 それでも、故郷のことを考えずにはいられなかった。

 故郷のある南大陸に足を踏み入れたことで、昔のことを思い浮かべてしまう。


 そのせいで、なかなか眠ることができなくて……

 気がついたら外に出て、夜の空気で体を冷やしていた。


「ふぅ……もう、吹っ切ったつもりだったんだけど……やっぱり、そう簡単にはいかないか」


 過去のことを思い返すと、今でも胸がざわついてしまう。

 心の中で嵐が吹き荒れて、冷静ではいられなくなってしまう。


「こんなんじゃいけないんだけど……なかなか、割り切ることはできない……か」


 少し街を散歩しよう。

 それで、頭を冷やしておかないと。

 今は、大事な冒険の最中だからな……ミスをするようなことは避けたい。


「……ん?」


 夜の街を散歩していると、険を含む声が聞こえてきた。

 そちらに足を運ぶと……


「よぅ、嬢ちゃん。良い夜だと思わないか?」

「一人でどうしたんだ? こんな時間に一人でいたら、悪い連中に絡まれたりするぜ?」

「例えば、俺達とかな」


 ガラの悪い連中と……


「ふふふ……ねぇ、今宵の月は、とても綺麗だと思わないかしら?」


 漆黒のドレスを身にまとう少女が、そこにいた。

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