125話 緊急依頼
翌朝。
里に帰るというスズさんを、みんなで見送る。
「ではでは、みなさん。お世話になりました」
「いいえ。ソラ達の方こそお世話になりました」
「またいつでも来るがよいぞ! その時は、我の料理でたっぷりともてなしてやるのだ!」
「いいですね。ソラ達姉妹で料理を作りましょう」
「あ、いや……ソラは遠慮してほしいのだぞ……?」
「ウチもがんばるで」
ソラとルナが元気に見送り、ティナも笑顔を見せる。
「まぁ、あなたのおかげで色々と助かったわ。強くなることもできたし……一応、お礼を言っておいてあげる」
「タニア……つんでれ?」
「誰!? ニーナにこんな言葉を教えたのは誰よ!?」
タニアとニーナは、おもしろおかしく見送りをしていた。
「お母さん……」
「どうしたの、カナデちゃん?」
カナデがスズさんと向き合う。
久しぶりの親子の再会は終わり、別れが訪れる。
そのことを特に意識しているらしく、カナデはしょぼんとしていた。
色々とあったけれど……
やっぱり、スズさんと離れ離れになることは寂しいらしい。
「カナデちゃん、元気でね」
「うん……お母さんも元気でね?」
「風邪を引かないように注意をするんですよ? 布団はちゃんとかけて寝るように。あと、裸で寝たりしないように」
「し、しないよぉ」
「どうでしょうか? 里にいた頃のカナデちゃんは、暑いからと言って……」
「わーっ、わーわーわーーー!!!? レインがいるのに、な、なんてこと言うのさ!?」
「これくらいで慌てていたら、この先、苦労しますよ? レインさん、相当、鈍そうですから」
「うっ……も、もしかして、お母さん……」
「ふふっ、応援していますよ」
「……にゃあ」
よくわからない会話が繰り広げられて、カナデが耳をぺたんとさせた。
いったい、どういう意味なのだろうか?
「さて……これ以上は、名残惜しくなってしまいますね」
スズさんが一歩を踏み出す。
そこで、くるっと反転。
俺達を見て、ぺこりと頭を下げた。
「色々とお世話になりました」
「こちらこそ」
俺も礼を以って返す。
続けて、みんなも頭を下げた。
「では、またどこかで」
スズさんは笑顔で手を振り、俺達に背中を向けた。
そのまま歩き出して……その背中がどんどん小さくなっていく。
「お母さんっ!」
カナデが一歩前に出て、大きな声を出した。
「またねっ!!!」
スズさんが振り返り、にっこりと手を振るのが見えた。
――――――――――
スズさんの姿が完全に見えなくなる。
見送りが終わり、なんともいえない空気が流れた。
「……ふぅ」
その中で、カナデはどこかすっきりとした顔をしていた。
寂しい気持ちはあるのだろうが……
それでも、きちんとお別れをすることができた。
だから、引きずるような気持ちはないのだろう。
「レインっ」
「うん?」
「なんか今、私、すっごく体を動かしたい気分! ねえねえ、ギルドに行こう!」
「……そうだな。ここ最近、訓練ばかりしていたし……久しぶりに依頼を請けるか」
特に反対する必要もない。
カナデの意見を採用した。
「では、ソラとルナは家で待っていますね。掃除やごはんの準備をしなければいけないので」
「いや、ソラは料理はしなくていいのだ。それは、我がやるぞ?」
「ウチも、昼は外に出られへんから、留守番しとくわ」
ソラとルナが家に戻り……
家の中から、ティナがそんな風に声をかけてきた。
「ニーナはどうする?」
「え、っと……一緒、しても……いい?」
「もちろん」
「んっ」
ニーナが笑顔になり、俺の手を取る。
手をつなぎたいみたいだ。
寂しいのかな?
「むぅ……あれは意味があるのかな? それとも、無意識なのかな……? ニーナも、けっこう要注意だよね。気をつけないと」
なぜか、手を繋ぐ俺とニーナを見て、カナデがよくわからないことをぶつぶつとつぶやいていた。
その後……
カナデとニーナと一緒に、冒険者ギルドを訪ねた。
いつものように依頼を探そうとするが……
「……なんだ?」
ギルド内はやけに慌ただしかった。
職員達が左に移動して右に移動して……
冒険者達も、やけに険しい顔をして、何やら打ち合わせをしている。
今までにない雰囲気だ。
いったい、どうしたんだろう?
「にゃー……なんか、ものものしいね」
「……ちょっと、怖い」
二人が俺の服の端を掴んできた。
ちょっと動きにくいのだけど……まあ、これくらいならいいか。
「あっ、シュラウドさん!」
ナタリーさんがこちらに気がついて、歩み寄ってきた。
「ちょうどよかった。今、シュラウドさんのところにも連絡をいれようとして……」
ふと、ナタリーさんの視線がカナデとニーナに向かう。
それぞれ、俺の服を掴んでいるところを見て、なぜか半眼になる。
「……今日はどうされたんですか? もしかして、見せつけに来たんですか?」
「え? 見せつけるって……ん? どういう意味だ?」
「……いえ、なんでもありません。はぁ……そうですよね。シュラウドさんは、そういう人ですよね。まったくもう……こんな風にヤキモキさせられるなんて」
「えっと……?」
「って、そんな場合じゃないんです!」
「ぴゃっ」
突然、ナタリーさんが大きな声をあげて、それに驚いたニーナが尻尾をぴーんと立てた。
「大変なんですよ! 一大事で大変なんですよっ」
「お、落ち着いてくれ。言葉がおかしい」
「あ、あら。これは失礼しました」
冷静さを取り戻したらしく、ナタリーさんはちょっと恥ずかしそうな顔をした。
それから、気持ちを切り替えるように、コホンと咳払いをする。
「実は、緊急依頼が発行されまして」
「緊急依頼?」
「にゃん? それ、なに? 初めて聞くよね」
「緊急依頼というのは、一種の非常事態のことですね。全ての通常依頼が停止されて、対応できる冒険者は、全て緊急依頼に駆り出されることになります。ありったけの冒険者を集めて、さらに騎士団と連携して事に対処をする。それが、緊急依頼ですね。簡単にまとめると、全ての冒険者と騎士団が一丸となって挑まなければならない、重要度の高い案件が舞い込んできた、と思っていただければ」
「ということは……今は、通常の依頼を引き請けることはできないのか?」
「はい、申し訳ありませんが……」
「そのきんきゅー依頼? に、私達は駆り出されるの?」
「いえ。そちらは任意となっております。できることならば、全ての冒険者に参加してほしいのですけどね」
「なんか……大変そう、だね……」
ニーナの言う通りだ。
今まで見たこともないくらい、ギルドは騒然としている。
こんな風になってしまう緊急依頼……いったい、何が起きたのだろう?
「というわけですので、現在、通常の依頼を請けることはできません。すみません。でも、緊急依頼を請けることができるというのならば、あちらで話をさせていただきますが……シュラウドさん、力を貸していただけませんか?」
すがりつくような目を向けられてしまう。
緊急事態というのを放っておくわけにもいかないし……
大規模な災害でも起きているとしたら、俺達も無関係でいられないかもしれない。
できることはやっておいた方がいいよな。
とはいえ、俺の一存で勝手に決めるわけにはいかない。
「まず、話を聞くだけなら」
「はい、はい。それだけでも構いません。ぜひぜひ!」
ナタリーさんの勢いに押されるまま、談話スペースに案内された。
「これからする話は、私達関係者以外には内密でお願いします。まあ、内容が内容なので、街のみなさんが知るのも時間の問題だと思いますが……一応、騎士団の公式発表を待つ身となっていますので」
「了解。それで、いったい何が起きたんだ?」
「南大陸にある、リバーエンドの街を知っていますか?」
「にゃん? りばーえんど?」
カナデは小首を傾げるが、俺は知っていた。
「知っているよ。ストライドブリッジを渡ると、最初に到着する街だよな? 小さいけど、宿場街になっていて、そこそこの盛り上がりがあるとか」
「では、さらにその先にある村はご存知ですか? パゴスという小さな村なのですが」
「いや、それは知らないな」
「そのパゴスが……壊滅しました」
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