123話 穏やかな一時
「ふにゃあああああ~~~」
肩までお湯に浸かり、カナデはとろけきった声をこぼした。
だらしなくまぶたが垂れていて、恍惚めいた表情を浮かべている。
頬はほんのりと桜色に染まっていた。
ただ、それはカナデだけではない。
他の女子メンバーも、気持ちよさそうにお湯に浸かっている。
……ティナは幽霊なので、厳密に言うと、お湯に浸かっているフリ、ということになるが。
それは口にするだけ野暮ということは皆理解しているらしく、誰も何も言わない。
みんなで一緒のお風呂の時間。
穏やかな一時を笑顔で共有していた。
「なあなあ、カナデ」
「なぁに、ティナ?」
「こんなこと聞くのもなんやけど、カナデって風呂は苦手やないの?」
「うん? 大好きだよ? なんでそんなこと聞くの?」
「ほら。大体の猫は風呂が苦手やろ? だから、カナデも苦手ちゃうんかなあ、って思ったんよ」
「ああ、なるほど」
「それは我も気になっていたぞ。というか、以前は苦手と言っていたではないか」
ティナの質問に、ルナが追従した。
そんな二人に、カナデは苦笑してみせる。
「確かに、お風呂苦手な猫は多いけどねー。猫霊族もあまりお風呂は好きな人いなくて、私も微妙だったかなあ。でも、みんなと一緒に入ると楽しくて、苦手意識なんて消えちゃった。今は、お風呂大好きだよ♪ 温かくて、ぽかぽかして、のぼせることがなければずっと入っていたいくらい」
「あぁ、それはわかるで。ウチも、こんな体じゃなきゃ、毎日風呂に入りたいくらいや」
「うむ。風呂は人生の潤いと言うからな」
「そのような話は、初めて聞きましたが」
ルナの言葉に、ソラが、はて? と小首を傾げる。
「知らないのも無理はないぞ。何しろ、我が今作った言葉なのだからな!」
「ルナのその、何も考えずにまっすぐ突き進むような性格、なんとかなりませんか?」
「ならん!」
平らな胸を張って言われてしまい、さすがのソラも、妹の説得を諦めた。
どうして、こんな風に育ってしまったのか?
姉の背中を見て育ったのではないと、そう信じたい。
「……」
ふと、ニーナがじっとタニアを見ていた。
正確に言うと、タニアの胸を見ていた。
その視線に気がついたタニアが、問いかける。
「どうしたの?」
「……わぁ」
ニーナは、どこか感動するような感じで、驚いてみせるだけだ。
「うん?」
「タニア……おっぱい、大きい、ね……」
「そうかしら?」
「お湯に浮いてる、の……触ってみても、いい……?」
「え? まあ、別にいいけど……」
許可を得たことで、ニーナはそっとタニアの胸に手を伸ばす。
そのまま、ふにゅっと柔らかい膨らみに指を沈めた。
「わぁ……柔らかい」
「んっ」
「それに……やっぱり、大きい……」
「ちょ、ちょっとニーナ? そんな風に触られると、ちょっと変な気分に……はぅ」
「あ……ご、ごめんね。痛かった……?」
「痛くはないんだけど、えっと……そ、それよりも、ニーナは大きい胸に興味があるの?」
「……ん」
ニーナがこくりと頷いた。
「おっぱい、大きい方が……レイン、喜ぶかなあ……って」
「ごほっ!?」
小さいニーナから飛び出した爆弾発言に、タニアがむせた。
その話を聞いていたカナデ達もむせた。
そんな皆を見て、ニーナが不思議そうにきょとんとする。
「どう、したの……?」
「胸が大きい方がいいとか……そんな話、どこで覚えたわけ?」
「この前、冒険者ギルドに行った、時……冒険者の人が、そういう話を……していたよ? 男は、大きければ大きい方がいいんだ……って」
今度、冒険者共を焼き払っておこう。
固く決意するタニアだった。
「えっとね、ニーナ。そういうことは個人の主観によるものだから、あまり気にしなくてもいいんだよ」
「というか、真に受けたらアカンで」
カナデとティナがニーナを諭す。
みんなで楽しくお風呂、の会場が、子供に対する性教育の場と化す。
「そう、なの?」
「そうだよ」
「……なんだ」
ちょっとだけ、残念そうにするニーナだった。
そんなニーナを見て、カナデが不思議に思う。
「ニーナは、レインに喜んでほしいの?」
「……うん。レインの笑顔、見たいな」
「それは、そのぉ……どんな感じで? どういう意図で?」
「?」
「あ、ううんっ、なんでもないよ、にゃんでも。うぅ……私、ニーナの動向まで気になるなんて……ちょっと意識しすぎかも」
一人で勝手に赤くなるカナデのことを、ニーナは不思議そうに見つめた。
「しかし……改めて見ると、やはり、その胸は反則だな」
ルナがジト目で、カナデとタニアの胸に視線をやる。
それに追従するように、ソラもジト目になった。
「どのようにすれば、それだけ育つのでしょうか……謎ですね。人体の神秘です」
「コツがあるのならば、ぜひとも教えてほしいぞ」
「コツ、って言われても……」
「ねぇ?」
カナデとタニアは困惑した様子で顔を見合わせた。
別に、特別意識していることなんてない。
気がついたら、こうなっていたのだ。
「……」
ニーナが自分の胸に手を当てていた。
レインが喜ぶ、喜ばないに関係なく、やはり、一人の女の子として胸の大きさは気になるらしい。
育てー、育てー、というように、自分の胸を触っていた。
「それはウチも気になるな」
「おぉ、新たな貧乳同盟が結成されるのか!」
「ウチは貧乳ちゃうわ!」
ルナのとんでも言葉に、ティナがツッコミを入れた。
「む? そうなのか? 言われてみれば、ティナはそこそこあるな……」
「裏切り者ですね」
「ちゃうで。ウチは、二人の味方やで」
「そこそこ立派なものを身に着けているのに、そのようなことを言うか!」
「知っとるか……? そこそこ、っていうのは中途半端で、一番需要がないんや……それは悲しいことやで? 大きい方が男は喜び、小さくてもそれはそれで需要がある……大変なのは、普通なんや!」
ティナの魂の叫びに、ソラとルナはなにやらショックを受けたような顔をした。
涙を流しながら、その肩に手をやる。
「そうなのですね……ソラは間違っていました。ティナも辛いのですね……」
「我らの同盟に加わるがいいぞ……そして、いつの日か、カナデとタニアを見返してやろう……あ、そうそう。ニーナも我らの同盟に加わっているからな」
「わたし、も……?」
「こらこら、そこ。変な同盟を作ってニーナを巻き込まないの」
タニアが呆れた様子で、熱弁するルナに注意した。
「そもそも、手遅れなのはソラとルナだけでしょ」
「手遅れ言うでない!」
「だって、ソラとルナって、確か14でしょ? 将来性がないとはいえ、その歳でそれくらいなら……まあ、ね」
「哀れまれたぞ!?」
ガーン、とショックを受けるルナ。
その隣で、ソラも落ち込んだような顔をしていた。
「でも、ニーナはまだまだ子供じゃない。これから、って可能性は十分にあると思うわ」
「にゃあ、そうだよねー。ねえねえ、ニーナ。ニーナのお母さんは、胸が大きかった?」
「え、と……うん。すごく」
「なら、きっとニーナも大きくなるよ。これからだから、焦らなくていいよ」
「……ん」
どことなくほっとした様子で、ニーナが笑みを浮かべた。
一方で、ソラとルナはぐぬぬぬ、というような顔をする。
ニーナに将来性があることは否定できない。
だが、それを認めたとなれば、将来性がないのは自分達だけになるではないか。
たった二人きり。
そんなことは認められない。
というか、カナデやタニアが妬ましい。
ただの妬みということは理解しているが、止められないのだった。
胸の大小は、年頃の女の子にとって非常に重要な問題なのだ。
「ええいっ、我にもその豊かさを分けるのだ!」
「どうすれば大きくなれるのですか? そのコツを教えてくれるまで、帰しませんよ!」
ルナとソラがカナデとタニアに詰め寄る。
詰め寄られた二人は、おもいきり困惑する。
「そ、そんなこと言われても……分けることなんてできないよ」
「っていうか、大きいと、それはそれで大変なのよ? 肩こるし……」
「その発言は、我ら貧乳シスターズに対する宣戦布告なのだな!?」
「ルナ、変な同盟を作るのはやめてください」
「よしきた。我ら貧乳シスターズ、その宣戦布告を受けてやるぞ!」
わいわいと盛り上がるルナ。
それにつられるように、皆のテンションも上がっていく。
賑やかで楽しい時間が流れ、穏やかな一時が過ぎた。
……それは、一時の安らぎにすぎないことを、これから先、彼女達は思い知ることになる。
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