表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/1168

121話 天族

「なんだ……?」


 突然、響いた笑い声にアリオスは怪訝そうに周囲を見た。

 しかし、何も見当たらない。

 仲間の姿と冒険者。それと、冒険者がテイムする魔物だけだ。

 他に何もいない。


「くすくすっ」


 それなのに、笑い声だけは聞こえていた。

 途切れることなく、その場に響き続ける。


「ひぃっ」


 突然の怪奇現象に、冒険者は腰を抜かしそうになっていた。


 情けない。

 アリオスは舌打ちしながら、再び剣を抜いた。


「アッガス! リーン! ミナ! こっちへ」

「ああっ」


 仲間達も異常事態を察したのだろう。

 周囲を警戒しながら、アリオスのところへ戻り、円陣を組む。


 アッガスがアリオスに問いかける。


「これは、どういうことだ? 何が起きている?」

「わからない……ただ、嫌な予感はするな」


 気温が急激に下がったように、肌寒い。

 それでいて、チリチリとした感覚に襲われる。

 アリオスの中で、本能が警告を発している。

 この場は危険だ、すぐに逃げなければいけない……と。


 しかし、勇者のプライドがそれを邪魔した。

 何かが起きていることは間違いない。

 でも、だからといって、一目散に逃げ出すような真似はできない。


 自分は勇者なのだ。

 選ばれた者なのだ。

 それなのに、そんな醜態を晒せるわけがない。


 そんなプライド故に、アリオスはその場に留まるけれど……

 すぐに、それが間違いであることを思い知らされる。


「……なんだ?」


 いつからそこにいたのだろうか?

 いつの間にか、少女がアリオス達から少し離れたところに、姿を見せていた。


 歳は15くらいだろうか?

 宝石のように輝く銀髪は、真紅のリボンで束ねられている。

 陶器のように白い肌。

 ルビーのような紅い瞳。

 黒いドレスのような服は、たくさんのフリルがついていた。


 一見すると、人形のような少女だ。

 それくらいに綺麗で、完成された美があった。


「くすくすっ」


 笑い声は少女のものだった。

 アリオス達を見ることはなく。

 ただただ、うれしそうに楽しそうに、笑い続けている。


 異様な雰囲気をまとっていた。

 見ているだけで心が震えて、恐怖に囚われてしまいそうになる。

 現に、冒険者は声も出せないくらいに怯えていた。


 ミナが杖を構えながら、アリオスに声をかける。


「アリオス、気をつけてください。あの子は……」

「わかっている」


 いつでも斬りかかれるように、アリオスは剣の柄を握りしめた。


 見た目は少女だけど、その気配は人のものではない。

 人に化けた魔物かもしれない。

 あるいは、魔族か。


 先制攻撃をした方がいいだろうか?

 しかし、見た目は少女なのだ。

 そのことがアリオスの判断を狂わせるが……


 今更、どんなことを考えようと無駄だった。


「ねぇ」

「なっ!?」


 気がつけば、少女が目の前にいた。

 いつ、どうやって、どのようにして移動したのか。

 アリオスにはまったく理解できなかった。


「少し、お聞きしたいのですが、よろしくて?」

「……なんだ?」


 内心の動揺を抑え込みながら、アリオスは努めて冷静に返した。

 嫌な汗が流れる。

 猛禽類と素手で相対しているような、とんでもないプレッシャーを覚えた。


「あなた達が、祠を壊してくれたのかしら?」


 外見に似合わず、少女は大人びた口調だった。


「祠を壊して、わたくしを解放してくれたのはあなた達なのかしら?」

「解放とか、意味がわからないが……祠を壊したのは僕で間違いないな。それがどうした?」

「まあまあまあ……ふふっ……あはははっ!」


 少女は喜ぶような顔をして……

 次いで、狂ったように笑う。


「わたくしを封印したのが人間ならば、解放するのも人間だなんて……ああ、なんておもしろいのでしょう。解放されてすぐに、このようなおもしろいことに出会えるなんて……ふふふっ、わたくし、運が良いのかもしれませんね」

「君は……何者だ?」


 アリオスは、かろうじて問いかけることができた。

 喉がヒリヒリとして、焼け付くようだ。

 それは、この少女の放つ圧倒的なプレッシャーに押されているせいだった。


「わたくし? わたくしは……こういう者ですわ」


 少女がにっこりと笑う。

 そして……変化が起きた。


 少女の背に翼が生える。

 身の丈ほどもある大きな翼が8枚。

 少女の体を覆うように、宙に広がった。


「……天族、だというのか……?」


 ……かつて、天族という最強種が存在した。


 名前の由来は天使から。

 背に天使のような翼を持つ人型の種族なので、そのように名付けられた。


 猫霊族に匹敵する身体能力。

 精霊族に匹敵する魔力。

 ありとあらゆる能力に優れていて、最強の中の最強と言われた存在だ。


 翼の枚数が多ければ多いほど、強い力を持っていると言われている。

 記録では、最大で10枚の翼を持った天族がいたという。

 その力は常識を疑うようなもので、たった一人で天災を引き起こすことができたとか。


 そんな強大な力を持つ天族ではあるが、ある日を境に、ぱったりと姿を消した。

 滅びたわけでもなく、精霊族のように奥地に身を潜めたわけでもなく。

 その存在が幻であったように、忽然と姿を消した。


 その原因は、今でも解明されていない。

 曰く、環境変化に適応できず滅びた。

 曰く、本物の神の使いで、役目を果たしたから天に帰った。

 色々な仮説が立てられている。


「本当に、天族なのか……?」


 信じられないという様子でアリオスがつぶやく。

 それに天族の少女が反応して、にこりと笑う。


「ええ、その通りですわ」

「バカな。どうして、天族がこのようなところに……」

「それをあなたが言うのですか? わたくしを解放してくださったのは、あなたではありませんか」

「僕、だと……?」

「ええ、ええ。わたくし、あの祠に封印されていたので」

「……村の人が言っていた災厄というのは、お前のことか」

「ふふっ、ひどいですわ。わたくしのような者をつかまえて、災厄だなんて。でも……人間からしたら、間違ってはいないかもしれませんね」


 少女が笑う。

 その笑みは嗜虐的なもので、例えるなら、虫を殺して遊ぶ子供のようなものだ。


 少女の笑みを見て、アリオスは寒気を覚えた。


「ふふっ、うふふ……あぁ、久しぶりの世界はすばらしいですね。この感覚……自由になるということ。とてもすばらしいですわ。これで、また人間と遊ぶことができますわ。今度こそ、たくさんたくさん遊んで……ふふふっ、たっぷりと楽しまないと」


 言葉だけを捉えるのならば、無邪気な子供が発するものと変わりない。

 しかし、天族の少女の言葉には、たっぷりの悪意が込められていた。

 世界中の悪意を凝縮したほどにどす黒いもので、アリオス達でなければ正気を保っていられないほどだ。

 冒険者はとっくに失神していた。


「本来ならば、あなた達で遊びたいところなのですが……」

「……僕達と戦うつもりかい?」

「いいえ、やめておきますわ。わたくし、こう見えても、恩義はキッチリと返す方なのですよ? あなた達は、わたくしを解放してくれた……なので、あなた達で遊ぶのはやめておくことにしましょう」

「それは助かるな」

「それに……人間なら、他にたくさんいるみたいですからね。ふふふっ、遊びがいがありそうですわ。とても楽しみ、ふふっ、うふふふ」


 天族の少女は壊れた笑みを浮かべた。

 狂気に満ちた笑みを浮かべた。


 一人、楽しそうに、無邪気に笑い……


 それから、優雅な仕草でアリオス達に一礼する。


「では、わたくしはこれで失礼いたしますね」

「……待ってくれないか?」

「あら、なんですの?」

「話をしたい。時間はとらせないし、君にとっても楽しい話になると思うんだけど……どうかな?」

「あら。あらあら。人間にそのような話をされるなんて……ふふふ、とてもおもしろそう。いいですわ。話を聞きましょう。それで、あなたの名前は?」

「僕はアリオスだ」

「私は、イリス。最凶の最強種、と名乗っておきましょうか。ふふふ♪」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告 誤:ある日を堺に 正:ある日を境に
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ