1171話 なにをおかしなことを
さらにコハネは魔道具を取り出した。
起動。
ほぼ同時に、体にかかる妙な負荷が消えた。
対策は完璧。
そう言っていたコハネ。
その言葉に嘘偽りはないし、俺も、欠片も疑ってなんかいない。
絶対になんとかしてくれる、って信じていた。
そして今、それが現実になり……
さあ。
ここからが反撃の時間だ。
「なに?」
俺が普通に駆けて炎弾を回避すると、グローヴェインが怪訝そうな声をこぼすのが聞こえた。
俺が普通に動けることを疑問に思っている様子。
これで確定だ。
決闘の最中、イカサマを仕掛けてきたのはグローヴェインの意思であり。
確信犯だ。
正々堂々と言っていたが……
笑わせてくれる。
「貴様、どうして……」
「俺が……いや。俺達がお前のつまらない、くだらない罠に気づかないとでも?」
「なんだと?」
「仕組みはよくわからないけど、相手の力、能力を減衰させる……そんな罠を仕掛けていたんだろう?」
「……」
「だから俺達は、それに対抗する手段を用意しておいた。これが竜族の正々堂々っていうのなら、なかなか笑えるな」
「……」
軽い嫌味をぶつけてやると、グローヴェインはきょとんとした顔に。
なにを言っているんだろう? という感じ。
予想外の反応にこちらが戸惑う。
なんだろう?
もしかして……グローヴェインは、罠に関してはなにも知らないのだろうか?
彼を慕う人は多いようだから、その中の誰かが勝手に罠を仕掛けたのだろうか?
だとしたら、グローヴェインに非はない。
ある意味で彼も被害者というわけで……
「なにを当たり前のことを言っている? 一生に関わるような決闘なのだ。どのような手を使ってでも勝つのは当然のことだろう?」
「……」
今度は俺がきょとんとした。
……今、こいつはなんて言った?
「ふむ。罠を仕掛けることが卑怯と言いたい、ということかな? だとしたら、それは甘いと言わざるをえないな。敗者はなにも語ることができない。勝者のみが可能となる。なればこそ、勝利に全てを賭けるのは当たり前だろう?」
「お前は……」
煽っているわけではなくて。
嫌味でもなくて。
本心からの言葉らしい。
グローヴェインの目を見ればわかる。
決闘で罠を仕掛けたことを恥じることはなく。
なにをしても勝利することが正しいと信じて疑っていない。
それが『当たり前』のことすぎて、なにも疑問を抱いていない。
……歪んでいる。
人間と竜族の間で価値観は違う。
俺が悪いと思うことを、竜族が正しいと思うことはあるだろう。
しかし、今回は話は別だ。
ミルアさんが決闘の不正に憤っているし……
全ての竜族がグローヴェインを支持しているわけじゃない。
「それが……正しいことだと?」
「決まっているだろう。論ずるまでもないことだ」
「しかし」と間を挟んで、グローヴェインは続ける。
「嘆かわしいことに、いくらかの同胞も甘い考えを持つ。神聖な決闘を汚すつもりか、と怒りを強く叫ぶ」
「なら、その声を聞くべきじゃないか?」
「必要ないな」
一蹴してみせた。
「声をあげているのは、大抵、年寄りだ。これまでの時代を作ってきた方々には敬意を払うが……しかし、いつまでもしがみついていられては困るな。これからを作っていくのは私達なのだから」
なんというか……
もはや声も出ない。
この男、自分がやることなすこと、全て正しいと信じて疑っていない様子。
根にあるのは正義心。
ただ、さらにその前提にある価値観が大きく歪んでいるため、実際に行われているのは正義からは程遠い。
独善。
あるいは暴君だ。
俺も、俺の全部が正しいなんて思えないし、自覚していないところで色々とやらかしているかもしれないけど……
ここまで、とは思わない。
「私はタニア殿を手に入れて、この里を束ねて、新しい長となる。そうしなければいけない、そうするべきだ。私は、偉大な血を引く、グローヴェインなのだから」
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