1170話 裏工作が止まらない
「では、ここからが本番だ」
グローヴェインは、すっと片手を上げた。
なにかしらの攻撃の予兆?
いや……
あれは違う。
合図だ。
瞬間、
「っ……!?」
体が急激に重くなる。
水の中にいるかのような。
巨人に押さえつけられているかのような。
そんな感覚で、ちゃんと体を動かすことが難しい。
「これ、は……!?」
「さあ、いくぞ!」
「くっ……!」
グローヴェインが突撃してきた。
策なんてなにもない。
真正面からの突撃。
ただ、竜族がそんなことをすれば脅威以外のなにものでもなくて……
俺は自由に動かない体を必死に動かして、横に跳んでかろうじて避けた。
しかしグローヴェインは止まらない。
速度を保ったまま弧を描いてカーブ。
再びの突撃を繰り出してくる。
「重力操作!」
すでに体勢が崩れているため、自力での回避は間に合わない。
能力を使い、自身にかかる重力を横方向に変更。
ぐいっと体が引っ張られるような感覚。
ニ度目の攻撃も回避。
「曲芸師のように器用であるな! だが、それがいつまで続くか観物だ!」
グローヴェインは空に飛ぶ。
翼を大きく広げると、その周囲に無数の火球が浮かぶ。
俺のファイアーボールと似ているが……
たぶん、威力は桁違いだろうな。
あの火球一発一発が上級魔法に匹敵するだろう。
「ひれ伏すがいい」
火球が降り注ぐ。
嵐のような攻撃は激しく、全てを飲み込むかのような勢い。
通常時なら問題はない。
ミルアさんの攻撃の方が何十倍も苛烈なので怯える必要はない。
ただ、今はなぜか体が重く、自由に動かすことができない。
「たぶん……これか?」
タニアが決闘で負けた理由。
突然の不調以外、理由が思い浮かばない。
相手が普通の竜族なら、それでもタニアが勝ってしまいそうだけど……
グローヴェインは、なんだかんだ強敵だ。
こうして拳を交わして、それがハッキリと理解できた。
体が自由に動かなければ、タニアでも勝利は難しいだろう。
「正々堂々とはよく言ったものだな」
ちょっとした怒り。
それと呆れ。
でも、それらは今はどうでもよくて。
まずは勝つことを考える。
「主さま!」
コハネの声が届いてきた。
軽く視線をやると、わたくしに任せてください、というような自信に満ちた笑み。
軽く頷いた。
すると、コハネの目が淡い光を放つ。
よく見ると、コハネの瞳になにか数字や文字の羅列のようなものが浮かび、高速で流れていく。
けっこうな距離があるけど、俺は目がいいので見えた。
ハッキング? クラッキング?
自身の魔力を媒介に、特定の対象の術式に介入。
その効果を書き換える。
あるいは強引に打ち消す。
……というような説明を受けたが、けっこう高度なものらしく、今もまだよく理解していない。
とにかく。
コハネに任せておけば安心、ということだ。
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