1160話 よきライバルとして
「……ふぅ」
鋭くなるフローヴェインの瞳。
それだけではなくて、わずかに鋭い気配も放つ。
ただ、それはすぐに収まった。
そして、自分を戒めるように小さな吐息をこぼして頭を振る。
「失礼。思わぬ名前を聞いたもので、ついつい気が高ぶってしまった」
「え?」
「誇り高き竜族がすべき行いではないな。謝罪しよう」
そう言うと、グローヴェインは本当に頭を下げてしまう。
あまりにも予想外。
そして突然の展開に、ついつい思考がフリーズしてしまう。
「……あっ、いや!? 別に気にしていませんから」
我に返り、慌てて頭を上げるように求めた。
グローヴェインがタニアに婚約を迫るやつだとしても……
とはいえ、ここまで丁寧に、素直に接してくる相手を責めることはできない。
「貴殿は寛容なのだな」
「そんなことは……」
「世界を救った英雄」
「……っ……」
やはり俺のことを知っているみたいだ。
英雄ということだけじゃなくて。
たぶん……
「そして、タニア殿のよき相手なのだろう」
「……知っているんですね」
「うむ、すまないな。同じ女性を想う者同士……ライバルのこととなれば調べないわけにはいかないのだ」
あっさりと俺のことを調べていたことを白状する。
うーん?
なんかこう、思っていたイメージと違うな。
もっと陰湿というか、わかりやすい悪人というか、そういうイメージをしていたのだけど、それとはぜんぜん違う。
とてもまっすぐ。
思ったことはそのまま口にするようなところはあるけれど、それはそれで素直という美徳になるような気もした。
演じている、という可能性はあるだろうけど……
そういう感じはしない。
よほどの役者なのか、それとも、本当の姿そのままを見せているのか。
「宣言しておこう」
グローヴェインは力強い目で。
しかし、敵意とか憎悪などではなくて、力強いオーラのようなものをまとう視線をぶつけてくる。
「タニア殿と結ばれるのは、この私だ。貴殿ではない」
「それはなしだ」
「む」
「あなたのことは……なんというか、色々とよくわからなくなった。ただ、どんな事情があれどういう背景があれ、タニアを譲る気はない。渡す気もない。タニアは……俺の大事な人だ」
きっぱりと言い切る。
「はぅ!?」
なにやら後ろの方で悲鳴のような、そんな声が聞こえてきた。
なんだろう?
「うむ。その覚悟は立派なものだ」
「ど、どうも……?」
なぜか褒められた。
あれ?
この人は、本当に悪い人なのか……?
「ならば、私はここに改めて宣言しよう」
グローヴェインが不敵な表情で言う。
「タニア殿は、私が妻に迎える」
「む」
「しかし、そのためには貴殿との問題を解決しなければいけないようだ」
「いつでも受けて立つ」
「いい言葉だ」
グローヴェインは小さく笑う。
そして、手を差し出してきた。
「英雄と呼ばれているだけのことはある。とても強き人間なのだろう……貴殿をライバルと認定して、その壁を乗り越えていこうではないか」
「俺は絶対に負けない」
ひとまず、ここで握手を断るのは失礼なような気がして……
しっかりとグローヴェインの手を握るのだった。




