1151話 寝取られなんてものは嫌いなのですよ
タニアとミルアさん曰く……
タニアは里の人気者。
ミルアさんの娘という理由もあったのだけど……
旅を終えて帰ってきてからは、成し遂げた偉業の数々に、里では英雄のような扱いに。
さすがミルアさんの娘。
さすがタニア。
彼女ならなんでもできるだろうし、長になれば竜族の未来は安泰だ。
そうしてタニアの里での名声が高まったのだけど、良いことだけではなかった。
タニアの名声に目をつけた竜族の男が現れたのだ。
タニアを嫁に迎えよう。
そうすれば彼女の名声は自分のものとなる。
あのタニアを嫁にした男として、誰もが自分にも尊敬の目を向けるようになるだろう……と。
当然、タニアはその求婚を拒否。
ミルアさんも「その辺で……」と同情するほどの罵詈雑言を叩きつけたという。
男は激怒。
しかし、それでタニアを諦めるのではなくて、逆に執着を強くしたという。
この生意気な女を屈服させて俺のものにしてやるぞ……と。
そして、タニアに決闘を挑んだ。
竜族は、一人前になるには旅をして己の力を示さなければいけない。
そのような掟がある種族なので決闘も存在しており……
己の誇りと尊厳をかけた戦い。
その決闘に勝利した者は望んだものを手に入れることができる。
――――――――――
「……っていう感じで、あたしはそのバカ野郎と決闘をしたんだけど……ぐぎぎぎ」
途中まで話をしていたタニアだけど、ものすごい表情に。
その顔を見ると、なんとなく結果は想像できた。
「負けたのか……?」
「えっ!? うそ、タニアが!?」
カナデが驚いていた。
他のみんなも驚いていた。
それも当然の反応だ。
タニアは数々の修羅場を潜り抜けて、多くの強敵と戦ってきた。
大きく成長して、ミルアさんに匹敵……あるいは凌駕するほどの実力になっていたと思うのだけど……
「にゃー……タニアが負けるなんて、もう世界は終わりなのかな……」
「というか、腕力でタニアが負けるとか、もういいところなしではないか……?」
「残念ながら否定できませんね」
「タニアの姐御の唯一の取り柄が……」
「がん……ばれ」
「せや! 落ち込むことないで。うちらは、タニアが他にもたくさんの取り柄があることを知っとるからな。えっと、えっと……」
「ない?」
「ルリよ、言ってやるな。私にも、この世にないものを答えることはできない」
「世界は万能ではなく、どうしようもない不可もあるのです」
「あんたらねぇ……!!!」
タニアが目を逆三角形にして、口からちらちらと炎をこぼしていた。
みんな、慌てて俺の背中に隠れる。
いや、まあ。
気持ちはわからないでもないけど、俺を盾にしないでくれないか……?
「がるるる……!」
見ると、ミルアさんも怒り顔になっていた。
今のみんなの反応に、ではなくて。
なにやら思い返して、それに対して強い怒りを覚えている様子。
「……もしかして、なにか不正が?」
でなければタニアが負けるなんて考えられない。
タニアとミルアさんは苦い顔をして、小さく頷いた。
「なにが起きたのか、それはよくわからなくて……ただ、ちゃんと力を出すことができなかったのよ」
「タニアちゃんの力は、なにかしらの方法で封じられていたの。たぶん、本来の力の十分の一も出せなかったと思う」
「で、あたしは負けて……ぐぎぎぎっ、今思い出しても腹が立ってきたわ! 男のくせに正々堂々と戦わないなんて、竜族の恥よ! クズよ!」
タニアは怒りを我慢できず、ダンダンダンと踵で床を叩いた。
「……ふむ」
なんとなく事情は見えてきた。
タニアは不正により決闘で負けてしまい、望まぬ婚約を結ばされた。
もちろん、そのまま受け入れるつもりはない。
とはいえ、二人では対策を立てづらい。
応援を呼ぶために俺達に手紙を出したのだろう。
あのような内容にしたのは、俺達に急いでほしかったのと、他の者に邪魔をされないようにごまかしたのだろう。
とはいえ、わからないところもある。
「ところで……タニアは、なんで小さくなっているんだ?」




