1148話 竜族の里
結論から言うと、山頂まで登る必要はなかった。
山を登り、雲を超えた辺り。
山頂のやや手前。
そこに竜族の里があった。
「ここが……」
険しい山脈。
その一部を平らに均して。
さらに、穴を掘り洞窟を作って。
山を利用する形で家が造られていた。
いや。
家と言っていいのだろうか?
俺から見たら巨大な穴。
ひたすらに巨大な穴。
奥を見ると、水を貯めている巨大な風呂のようなものがあった。
さらにその奥には、枯れ草を敷き詰めたベッドのようなもの。
この辺りは、ワイバーンなどとあまり生態は変わらないようだ。
巣の作りはワイバーンと同じようなもの。
「なんだ、貴様は?」
ふと、一匹の竜がこちらに気づいて、翼を羽ばたかせつつ降りてきた。
っと、いけないいけない。
ついつい好奇心から巣を覗き込んでしまったものの、ちゃんと挨拶をしないと。
「なぜ、人間がこのようなところに……」
「突然、すみません。俺は、レイン・シュラウドっていいます。こちらは、俺の仲間達。今日は、里の長であるミルアさんに招かれてやってきました」
「なに? 長の?」
「これがその手紙です」
手紙を差し出すと、ふわっと浮いた。
そのまま竜のところまで運ばれていく。
魔法を使っているのだろう。
「……ふむ」
透明な人間が開いているかのように、手紙がパラパラと自動で開かれた。
それを確認した竜は警戒の色を消す。
「なるほど、確かに本物のようだ」
「じゃあ……」
「来い。客間に案内しよう」
軽く地面を揺らしつつ、竜は巣の奥に向かう。
俺達はその後をついていった。
……というか、走っていった。
竜は歩いている。
でも、その一歩は俺達と比較にならないほど大きく、のんびり歩いていたらあっという間に引き離されてしまう。
「……ん? あぁ、すまないな。配慮が足りなかった」
途中で竜が俺達のことに気づいて、歩幅をできる限り短くしてくれた。
けっこういい人……いい竜みたいだ。
「アニキ、なんか意外っすね」
ライハが小声で話しかけてきた。
「なにが?」
「自分、竜はもっと乱暴かと思っていたっす。がははは、人間が我が里に足を踏み入れられると思うな! 我が牙にて噛み砕いて、その血肉を大地の肥やしにしてくれるわー! ……とか」
「……俺もイメージと違っていたところはあるけど、さすがに、そこまでは思っていないぞ?」
というか、なんだその凶悪なイメージは?
……タニアのせいなのか?
「なんや、思っていたよりもそっけないところやなー」
「広い……ね」
ティナとニーナの感想に同意。
巣の奥に進んでいるものの、最初に見えた光景とあまり変わらない。
無数に部屋が分岐しているくらいだろうか?
巨大なアリの巣と考えた方がいいかもしれない。
「しばしここで待て」
ある程度歩いたところで、一つの……部屋? に通された。
岩の中にある巨大な空間。
特になにもない。
ここが客間なのだろう。
人間がやってくる想定なんてしていないため、椅子やテーブルなんてない。
まあ、そんなことを求めるのは贅沢か。
「ひとまず休憩しようか」
竜が去った後、荷物からレジャーシートを取り出して、地面に敷いた。
一枚だとゴツゴツしたままだったので、間に毛布を挟んで、さらに重ねる。
その上に簡単に組み立てられる椅子とテーブルを設置して、
「ほい、お茶やでー」
ティナがささっとお茶を淹れてくれる。
ありがたい。
湯気が出るくらい熱いお茶。
ただ、けっこうなところまで登っているため寒く、熱いお茶がとても美味しい。
「にゃー……タニアって、こんななにもないところで暮らしているのかな?」
「我なら、半日で飽きてしまうぞ」
「忘れがちですが、タニアは竜の方が本来の姿ですからね。こういうところの方が合っているのかと」
「本来の……?」
よくわからない様子でルリが小首を傾げていた。
軽く頭を撫でる。
「もうすぐ会えるよ。その時に説明しようか」
「うん」
変わらず無表情だけど……
でも、ちょっと楽しみにしているように見えた。




