115話 最強の中の最強・3
快進撃を続けていたスズさんの動きがピタリと止まる。
石像のように動かず、瞳から光が消えた。
「やったーーーっ!!!」
カナデが喜びを表現するように、ぴょんっと飛び跳ねた。
そのままの勢いで、こちらに抱きついてくる。
「うわっ!?」
「レイン、やったね! お母さんに勝ったんだよ!」
「ま、待て。まだそう判断するのは早い。もう少し、様子を見てから……」
「そんな必要ないって。猫霊族は、幽霊に弱いんだから。勝ちだよ、勝ち♪」
カナデはその場でぴょんぴょんとジャンプする。
その度に、体のあちこちが押し付けられて……
ちょっと自重してほしい。
それはともかく。
「タニアはどう思う?」
タニアは、固まったままのスズさんの顔を覗き込んでいた。
「んー……猫霊族が、こういう攻撃にやたら弱い、っていう意見には賛成なんだけど……」
「けど?」
「取り憑いた、っていうわりに、ティナの意識が表に出てこないのはおかしくない?」
「あ」
言われてみればそうだ。
取り憑くことに成功したのなら、ティナの意識が表に出てくるはずだ。
それなのに、誰の意識が出てくることもなく、スズさんは固まったまま……
イヤな予感がするな。
そして、その予感は的中する。
ピクリ、とスズさんの指先が動くのが見えた。
「タニアっ、離れろ!」
「っ!」
タニアもスズさんの動きを察知したらしい。
慌てた様子で後ろに跳んだ。
そして……
「ひゃあああっ!?」
ポーン、という感じで、スズさんの体からティナが飛び出した。
いや。
飛び出したというよりは、弾き飛ばされた、という方が正しいだろう。
ティナはくるくると回転しながら吹き飛ばされて……
キキーッ、と空中で器用にブレーキをかけて止まる。
「ティナっ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫やで」
ふらふらとしている様子ではあったが、ちゃんと受け答えができているので、意識はハッキリしているのだろう。
よかった。
安堵するものの……
チラリとスズさんを見る。
こちらの視線に気がついて、にこりと笑う。
……最大の脅威が取り除かれた、っていうわけじゃないか。
「す、すまん……ウチ、がんばったんやけど、失敗してもうた……」
「えっ……な、なんで? いくらお母さんでも、幽霊に抵抗できるなんて……」
「それが、できるんですよねー」
スズさんが笑顔で言う。
「言ったでしょう? 猫霊族の弱点をそのままになんてしておきませんよ、って。幽霊に対する対策もバッチリですよ」
「そ、そんなぁ……」
「とはいえ、ティナさんの力がなかなか強く、憑依を打ち消すのに、少し時間がかかってしまいましたが……」
「くっ」
「今のが切り札でしたか? だとしたら、勝機を逃してしまいましたね。私が動けない間に、ぐるぐる巻きにするなり、何か行動を起こしておくべきだったかと」
その通りなので、返す言葉がない。
憑依ならば大丈夫だろうと、慢心すべきじゃなかった。
相手は、最強の中の最強であるスズさんなのだ。
もっと徹底的に詰めておくべきだった。
「さて、どうしますか? 切り札を失っても、まだ続けますか?」
「もちろんですよ」
みんなが束になっても敵わない。
ティナの憑依もはねのけられてしまった。
それでも、降参するなんていう選択肢はない。
ここで退いてしまうと、カナデがいなくなってしまう。
それだけは認められない。
とはいえ、どうしたものか……
どうにかしてスズさんに勝たないといけない。
そのための方法は?
なんでもいい。
スズさんに勝つために、ここでとるべき行動は……
「……」
一つ、思いついた。
成功確率を頭の中で試算する。
……たぶん、5%もあればいい方だろう。
でも、今のまま、闇雲にぶつかっても勝てる確率はゼロだ。
ならば、少しでも確率が高い方に賭けてみたい。
自爆同然の特攻みたいなものだから、一度きりしか使うことができない。
慎重に……それでいて大胆にいかないと。
「カナデは、合図で力を貸してくれ。カムイを使う」
「うんっ」
「みんなは、援護と撹乱を頼む」
「了解」
タニアを始め、みんなが頷いた。
「いくぞっ!」
合図で駆けた。
「気合たっぷりですね。でも、それだけではどうしようもならないということを教えてあげますね」
スズさんは、あくまでも余裕の笑みを浮かべて、俺達を迎え撃つ。
「これでも、食らいなさいっ!」
「「ドラグーンハウリング!!」」
タニアが連続して火球を放つ。
それに合わせて、ソラとルナが魔法を放つ。
二つの攻撃が重なり、爆炎の嵐となってスズさんを襲う。
しかし、スズさんは逃げることなく、拳圧で爆炎の嵐を切り裂いた。
あいかわらず、とんでもない身体能力だ。
拳一つで、竜族と精霊族の攻撃を退けるなんて、聞いたことがない。
でも、視界を塞ぐ役割は果たせた。
爆炎でスズさんの視界が塞がれている間に接近する。
カナデと並んで駆けて、左右から襲撃。
「甘いですよ」
側面にも目がついているような動きで、スズさんは、俺とカナデの攻撃を正確に受け止めた。
そのまま乱打に移行するものの、どれも有効打には至らない。
「では、そろそろ反撃を……っ!?」
スズさんの動きが一瞬、鈍くなる。
見ると、ティナが手をかざしていた。
憑依の応用で、相手の体をコントロールしているのだろう。
ただ、長くは続かない。
すぐに束縛が解けて、スズさんが自由になる。
「えいっ!」
今度は、ニーナが飛び出した。
転移でスズさんの真上に移動。
そのまま、全身を使っての体当たり。
ダメージがあるわけではないけれど、ニーナの大胆な行動に驚いたらしく、スズさんの動きが再び鈍くなる。
その間に、ニーナは再び転移をして、遠くに逃げた。
「ブースト!」
ここで、能力強化魔法を使用した。
対象は……俺だ。
すでに一度使用している。
その上で、重ねて使用した。
能力強化魔法の重ねがけ。
それが、思いついた新しい切り札だ。
「ぐっ……!?」
一瞬、視界がブレる。
体の内側に生き物が潜んでいるような、そんな歪な感覚。
体が弾けてしまいそうになるけれど、それを無理矢理抑え込み……
奥底から勢いよくあふれだしてくる力を己のものにする。
「おおおおおぉっ!!!」
「くっ!?」
二重に強化された力で、スズさんに乱打を見舞う。
ここで初めて、スズさんの顔に焦りの色が見えた。
俺の攻撃に追いついていない様子で、いくつか、クリーンヒットが決まる。
通じている!
ならば……
「ブースト!!!」
三重使用。
さらに能力を強化した状態で、腰の後ろのカムイを引き抜いた。
「カナデ!」
「うんっ!」
手を伸ばして……
カナデが、しっかりと俺の手を握る。
カムイの刀身が、これ以上ないくらいに光り輝いた。
「これで……どうだあああああぁっ!!!」
全力の一撃を振り下ろした。
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