101話 新しい誓いを
気絶しているジペックを縛り上げて、そのままギルドに連行した。
あらかじめ捕まえておいた密猟者からの証言で、ギルドは先行して動いていたらしく、騎士団と連携していた。
密猟者の証言を元に、調査を開始。
物証を得て、ジペックの退路を塞いでいた。
目を覚ましたジペックは、覚えていろよ、なんてテンプレな台詞を口にしていたものの……
ステラの話によると、裏取引以外の黒い証拠が多数見つかったらしく、有罪は確定。
数十年の懲役刑を食らうことはほぼ確実で、生きているうちに外の光を拝むことはできないだろう、とのこと。
獄中では、贅の限りを尽くしてきた商人などは、かわいがられる傾向にある。
たっぷりと堪能してもらうことにしよう。
ジペックがしてきたことを思えば、同情することなんてないし……
ティナを殺した相手だ。
ざまあみろ、と言いたい。
……ちなみに、忘れかけていたけれど、もう一組の問題児であるオーグとクロイツはというと。
「ふざけるな!?」
改めてギルドに立ち寄ると、ちょうど、オーグとクロイツに対する尋問が行われていた。
ギルド内にオーグの叫び声が響く。
拘束されているのに元気なものだ。
対するナタリーさんは冷たい表情で、慈悲なく告げる。
「ふざけてなんかいませんよ。オーグさん、クロイツさんの冒険者資格は剥奪となります。ダブルブッキングの件は、私達ギルドに責任がありますが……だからといって、手柄を横取りしようとするなんて……ギルドへの信頼を揺るがす問題行動です。その上、開き直り、シュラウドさん達に怪我を負わせようとするなんて……その罪は、決して軽くありません」
「そのようなデタラメを信じるのですか? 私達は、この者に罠にハメられたのですよ」
「そうだ! この俺達が、そんなことをするわけないだろう! 全部、このガキ共がでっちあげたものだ!」
「ふぅ」
ナタリーさんは呆れるようなため息をこぼして、周囲を見やる。
「今の話を信じる方は?」
周囲の冒険者に問いかけるが、誰も手を上げない。
皆、呆れたような視線をオーグとクロイツに送っていた。
「な、なんだよ、その目は……!?」
「街の英雄にケンカを売るとは、つまらないことをしてくれたな」
「お前らの居場所はもうどこにもねえよ」
「さっさと消えろ」
「ぐっ……こ、このようなこと……」
周囲の冒険者達から辛辣な言葉を浴びせられて、オーグとクロイツは顔を青くしたり赤くしたりした。
「ナタリーさん、あとは任せるよ」
「はい、お任せください」
後始末を任せて、ギルドを後にしようとした。
そんな俺の背中に、オーグとクロイツが声をかける。
「ま、待て! 悪かった、俺が謝るから……!」
「くっ……金なら払いますから、今回のことは水に流して……」
「悪いけど」
二人の言葉を遮り、背中越しに告げる。
「もう一つ、俺は怒っているんだ」
「え……?」
「みんなに刃を向けたこと、忘れていないからな」
追い詰められて、逆上して、カナデ達を傷つけようとして……
許せるものではない。
「自業自得だ。自分達がしでかしたことの結末、素直に受け入れるんだな」
オーグとクロイツが言葉なく膝をつくのが、ちらりと見えた。
そんな二人から視線を外して、今度こそ、俺はギルドを後にした。
こうして、一つの依頼が終わり、一つの事件が終わる。
――――――――――
「にゃふぅ♪」
家に帰ると、カナデがソファーにダイブした。
にへら、というような顔をして、尻尾をぱたぱたと振る。
それを見て、タニアが呆れたような顔をする。
「行儀悪いわねえ」
「だって、色々あって疲れたし……やっぱり、家が一番だねぇ」
「その意見には、ソラも賛成ですね。拠点があるとなると、色々と安心できます。リラックスできます」
「うむ。大きな声を出しても怒られることはないのだ」
「ま、家に帰って落ち着くのはいいけどね。そんなに足をぱたぱたさせていると、見えちゃうわよ?」
「見える? ……にゃっ!?」
カナデが、がばっと起き上がり、スカートを押さえた。
赤い顔をこちらに向けてくる。
「レイン……見た?」
「み、見てないから」
「ホント?」
「本当だよ」
「にゃー……それならいいんだけど」
そういう風に恥じらうのならば、もうちょっと注意してほしい。
カナデって、どこか無防備なところがあるからなぁ……
「それじゃあ、ごはんにしようか」
みんな疲れているだろうから、今日は街で弁当を買ってきた。
テーブルの上に弁当を並べると、みんなの目が輝いた。
「とりあえず、適当に選んできたんだけど、好きなものを……」
「私、肉弁当!」
「あっ、それあたしが狙っていたのに!」
「ふふーんっ、早いもの勝ちだよ♪」
「ソラは、こちらの山菜弁当にしましょう」
「我は卵焼き弁当だ!」
「わたし、は……この、かわいい入れ物のお弁当がいいな……」
「ウチは食べられないんやけど……みんなを見ていると、腹の辺りがきゅうってなるわぁ」
残った弁当を手に取り、俺も椅子に座る。
それから、いただきますと唱和をして、食事の時間が始まる。
「はぐはぐはぐはぐはぐっ……んぐっ、ぱくぱくぱくぱくぱくっ!!!」
「わぁ……カナデ……すごい、勢いだね……」
「びっくりするくらいの食欲ですね。ルナに勝っているのでは?」
「待て。なんで、今、我を引き合いに出したのだ?」
「もうちょっと落ち着いて食べればいいのに。焦って食べてもおいしさがわからないし、何より、喉に……」
「ふぐぅ!!!? んっ、んんんぅーーー!!!?」
「……言わんこっちゃない」
「大丈夫か? ほら、水やで」
「んっ、んっ、んくっ……ぷはぁ! あ、危なかったぁ……お弁当にやられるかと思ったよ」
「猫霊族が弁当にやられるって、どんだけシュールな光景なんだ……?」
無事に依頼を終えることができて……
それだけじゃなくて、ティナの過去にも決着をつけることができて……
そのおかげなのだろうか?
みんな、明るい顔をしていて、楽しい食事の時間が続く。
「ふぅ」
「レイン、どうしたの? 疲れた?」
カナデが俺の顔を覗き込んでくる。
心配してくれているらしく、尻尾が落ち着きなく動いていた。
「いや、逆かな」
「逆?」
「みんなと一緒のごはんを食べて、他愛のない話をして……戦うよりも、こっちの方がいいな、って」
依頼を請けて、みんなと冒険をしている時は充実している感がある。
ただ、それで全てが満たされているわけじゃなくて……
こうして、みんなと何気ない時間を過ごしている時が、一番幸せなような気がした。
そんな俺の言葉に、カナデが優しく笑う。
「うん。わかるよ、レインの言っていること」
「そうか?」
「うんっ、私もそう思うもん! やっぱり、のんびりまったりが一番だよねっ」
「ただ単に、カナデは昼寝が好きなだけじゃないの?」
タニアが会話に参加してきた。
ニヤニヤと、ちょっと意地の悪い顔をしている。
「えーっ、そんなことないよ? そりゃあ、私達猫霊族はお昼寝が好きだけど、いつでも寝てるわけじゃないんだからね?」
「昼寝が好きとか、本物の猫みたいだな」
「ある意味、それと同じようなものなのでは?」
「お昼寝……わたしも、好き……」
「ニーナは仲間だよぉ」
「わぷっ」
カナデは、隣の席に座るニーナを抱きしめる。
ニーナはじたばたとするものの、カナデはお構いなしだ。
「……」
ホント、こういう光景がいつまでも続けばいいのになぁ……
そんなことを思う。
「……レイン、レイン」
「うん?」
こっそりと、ティナに声をかけられた。
声を潜めているということは、他のみんなには聞かれたくないことなのだろう。
そう判断して、俺も小声で返す。
「どうかした?」
「後で、ちょっと話があるんやけど……ウチの部屋に来てもらってもええ?」
「了解。いつぐらいがいい?」
「ごはんを食べて、ちょっと時間をおいたくらいで頼むわ」
「じゃあ、1時間後くらいに行くよ」
「頼むで」
内緒の話なのかもしれないが……
いったい、なんだろう?
俺は一人、首を傾げるのだった。
――――――――――
1時間後……
ティナの部屋の前に移動して、コンコンと扉をノックする。
「ティナ、俺だけど」
「入ってきてええで」
「おじゃまします」
部屋に入ると、ティナがふわふわと浮いていた。
「すまんなー。ウチ、幽霊やから、扉を開けることできないんや。あっ、正確に言うと、魔力を使えばできないこともないんやけど、ちと疲れるんよね」
「気にすることないって。扉を開けるくらい、なんてことないんだから」
「おおきに。あ、適当にベッドにでも座ってな」
言われた通りベッドに座る。
すると、ティナがふわふわと移動して、俺の前に立つ。
「わざわざすまんな」
「いいさ。何か大事な用があるんだろう?」
「……せやな」
俺の前に立つティナが、真面目な顔を作る。
じっと、こちらを見つめた。
そして、緊張しながら口を開いて……
「う、ウチを……レインのものにしてくれへんか!!!?」
「ごほっ!?」
突拍子のない言葉に、思わず咳き込んでしまう。
そんな俺を見たティナは、まず最初に、きょとんとして……
それから、自分の発言の意味を理解した様子で、顔を赤くして慌てる。
「あっ、いや、ちゃうねん!? ちゃうで!? そういう意味やなくてっ、ウチの言葉が悪かっただけで……ちゃうねんで!?」
「あ、ああ……そっか。そうだよな、うん……驚いた」
「ああもう、こんなポカをやらかすなんて、ウチは……うぅ、穴があったら入りたいって、こういう気分なんやな」
「えっと……どんまい?」
「慰めないでくれん……? 余計、恥ずかしくなるわ……」
「あー……そ、それよりも、大事な話っていうのは?」
このままだと時間が過ぎるだけなので、やや強引にだけど話を先に進めた。
ティナもそれに乗っかることにしたらしく、こほんと咳払いをして、何事もないように口を開く。
……顔は赤いままだったけれど。
「えっとな……ウチと契約してくれへん?」
「契約って……みんなと同じように?」
「せや。話を聞いたけど、レインはそういうことができる、とんでもテイマーなんやろ?」
「その称号には異論を唱えたいけど……まあ、みんなとは契約をしているよ」
「なら、ウチともしてくれんか? ウチ、レインにはたくさん助けてもらったから……少しでも恩を返したいねん。力になりたいんや」
「それは……でも、いいのか? 別にそこまでしなくても……」
「ウチがしたいんや。レインを、新しいご主人様にしたいんや。あっ、今のは、ウチが元メイドだからご主人様って言うてるだけで、変な意味はないで?」
ティナはあたふたと手を振る。
どんな勘違いをしていると思われたのだろうか?
聞きたいけれど、聞いたら聞いたで、妙な答えが返ってきそうなのがイヤだ。
それはともかく。
ティナと契約……か。
そういうことを考えて、助けたわけじゃないんだけど……
でも、ティナが望んでいるのならば。
「……わかったよ。契約しようか」
「おおきにっ!」
「俺の方がお礼を言わないと。ありがとうな、力を貸してくれて」
親指を噛み、流れる血で魔法陣を描く。
「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」
「……ティナ・ホーリ……」
契約が成立した。
ティナの手に、同じ魔法陣が描かれる。
「これで終わりなん?」
「ああ。特に何かが変わる、っていうことはないけど……改めて、よろしくな」
「こちらこそや!」
握手を交わそうとして……
する、っと手がすり抜けてしまう。
俺とティナは、ぽかんとした顔で互いを見て……
くすくすとおかしそうに笑うのだった。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
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