999話 真なる力
「なんだ……?」
ラインハルトがまとう雰囲気が変わった。
今までは、冷たく落ち着いていたのだけど……
熱く力強いものに変わっていく。
心構えの違いによるもの?
それとも……
「誇れ。俺にこの力を使わせたのは、お前達が初めてだ」
まだ切り札を持っているのか……!?
ここまで使っていない……
というか、今、初めてと言ったな?
試しはしているだろうが、実戦で使うのは初ということ。
そんな切り札を持っているなんて……
さすがに、これで最後であってほしい。
そう願いつつ、なにが起きてもいいように身構える。
「光よ」
一言、そう呟いただけ。
それなのに、極大の閃熱が解き放たれた。
「くっ!?」
まるで、イリスが得意とする魔法……
いや、それ以上の威力だ。
俺達は、各々判断で散開。
ラインハルトの攻撃を回避した。
「ふんっ、この程度の攻撃で私をどうにかできると思ったか、愚か者め!」
エーデルワイスは回避をしつつ、魔法の詠唱を完了させていた。
「ダークアポカリプス!」
闇が広がる。
それは獣のように獰猛で、触れるものを全て喰らい尽くすのだけど……
「消えろ」
「なっ!?」
再び、たった一言、ラインハルトが呟いただけでエーデルワイスの魔法が消失した。
さすがに予想外だったらしく、エーデルワイスが驚く。
それでも、すぐに立て直して、さらなる追撃を……
「穿て」
「がっ……!?」
なにか……見えないものが超高速で射出されて、エーデルワイスを貫いた。
「エーデルワイス!?」
「ぐぅ……」
慌てて駆け寄り、吹き飛ばされたエーデルワイスをキャッチ。
急いでヒールを唱えた。
「大丈夫か!?」
「直撃は……避けた。しかし……ぐぅ……なんだ、今の攻撃は?」
エーデルワイスが困惑するのも無理はない。
通常、魔法を唱える時、魔力をパズルのように組み立てる作業が必要だ。
構造式ともいう。
しかし、ラインハルトは構造式を構築している様子がない。
たった一言。
ただ単につぶやいているだけのように見えた。
「レイン、今の彼は底が知れない」
「慎重に……って言いたいところだけど、ここで怯んだら、一気に押し込まれるかも」
「……よし。なら、タイミングを合わせて全力の一撃を叩き込もう。それで……」
なにかがわかるかもしれない。
「砕けろ」
ラインハルトの一言。
それに応じて、床に亀裂が入り、こちらに迫る。
目に見えない衝撃波が飛ばされているようだ。
俺達は四方に跳んで散開して……
「極・雷鳴剣っ!」
「雪月花っ!」
「イクシオンブラスト!」
「イグニション!」
互いの目を見て、それだけで意思を通じさせて……
ぴたりとタイミングを重ねて、四方から包み込むかのように、ほぼほぼ同時に攻撃を叩き込む。
みんなが、それぞれ得意とする技。
それでいて、物理と魔力の両方を兼ね備えている。
これで倒せるなんて甘い考えは持っていないものの……
防ぐことは難しいはず。
それなりのダメージを与えることができるはずだ。
……そう思っていたのだけど。
「消えろ」
ラインハルトが、そう一言、つぶやいた。
たった、それだけで。
たった、それだけなのに。
俺達の放った攻撃、全てが消失してしまう。
「なっ……」
「この……ルナティックボルト!」
驚くユウキ。
驚きながらも、さらに追撃を叩き込むシフォン。
しかし……
「消えろ」
再び同じ言葉。
その内容の通りに、シフォンの放つ雷撃は消えてしまう。
まるで、最初からこの世界に存在しなかったかのように。
存在することを許されないように。
跡形もなく。
唐突に消えてしまう。
「どういうことだ……?」
エーデルワイスもわからないらしく、唖然としていた。
彼女のこんな表情、滅多に見られないだろう。
そして俺は……
「まさか……」
とある可能性に思い至る。
ラインハルトがつぶやいた瞬間、わずかにだけど、とある魔力の波を感じることができた。
それは、俺にとってとても親しみやすいもので、覚えのあるもので……
「あなたのそれは……契約で得た力か?」