10話 ランクアップ
「おめでとうございます、シュラウドさん」
盗賊団に関する色々な後始末を、夕方になるまで処理して……
その後、冒険者ギルドに呼ばれると、笑顔のナタリーさんに、そんなことを言われた。
「おめでとう、って……どういうことだ?」
「この度、シュラウドさんの冒険者のランクアップが決定されました」
「え?」
突然のことに、間の抜けた声をこぼしてしまう。
俺がランクアップ?
「シュラウドさんは、FランクからEランクに昇格となります」
「そう、なのか?」
「おーっ、やったねレイン♪ おめでとう!」
カナデは無邪気に祝福してくれるが、いまいち、実感が湧かない。
冒険者になってからしたことといえば、まだ薬草採取くらいなのだが。
そんな俺の疑問をナタリーさんは理解しているらしく、説明してくれる。
「ランクアップに必要なのは、一定数の依頼をこなすこと。シュラウドさんは、まだ規定の量の依頼をこなしていませんが……特例の措置が下りました」
「どうしてそんなことに?」
「ご自分でされたことなのに、お忘れですか? 漆黒の牙の件ですよ」
「ああ」
なんとなく話が理解できた。
「他の冒険者も手を焼いていた漆黒の牙が壊滅したことは、シュラウドさんの功績によるものが多いです。というか、完全にシュラウドさんのおかげですね」
「いや。俺は、連中を麻痺させただけで、そこまで大したことはしてないぞ」
「ご謙遜を。キングリザードが現れ、皆を逃がすために、カナデさんと一緒に立ち向かったと聞いておりますよ」
「えっと、それは……」
改めて他人から指摘されると、ちょっと恥ずかしい。
同時に、イヤなことを思い出してげんなりとした。
あの時は、無我夢中だったからなあ。
もう一度、同じことをやれと言われたら、断るかもしれない。
それくらいに大変なことだった。
「シュラウドさんは、漆黒の牙の壊滅に大きく貢献されたと、当ギルドは判断いたしました。よって、その功績を讃えて、シュラウドさんのランクアップを決定しました」
「そっか……ありがとう」
「お礼なんて言わないでください。本来ならば、私達は謝罪をしなければいけないのですから」
「どういうことだ?」
「漆黒の牙は、Cランクに相当する依頼です。それを達成したシュラウドさんは、Cランクに匹敵する実力があると判断されます」
「んにゃ? それなら、Eランクに昇格っておかしくない? Cランクに昇格するべきじゃないの?」
疑問を抱いたらしく、カナデが横から口を挟んできた。
俺も似たようなことを考えていたので、特に制止はしない。
「そこが問題でして……」
ナタリーさんが申し訳なさそうな顔をする。
「『冒険者のランクアップは一段階ごとでなければいけない』という決まりがありまして……申し訳ありません。シュラウドさんがCランク相当の活躍をしたことは事実なのですが、規則は規則。そうそう簡単に、何度も例外を作るわけにはいかなくて……ランクアップは例外として認められましたが、こちらは無理でした。申し訳ありません」
「ああ、いや。謝ることはないさ。そういうことなら仕方ない。俺も、不満や文句があるわけじゃないから」
「そう言っていただけると助かります」
「むしろ、簡単にランクアップできただけでもうれしいさ」
「……」
「どうしたんだ?」
「くすっ。シュラウドさんは、優しいのですね。私のことを気にしてくれているのでしょう?」
「……そんなことは」
「違うというのなら、そういうことにしておきましょう」
にこにこと笑うナタリーさんは綺麗で、ついつい見惚れてしまう。
「いてっ!?」
「にゃうー……」
なぜか、カナデに足を踏みつけられた。
――――――――――
色々なことがあったけれど、ランクが上がり、報酬も得ることができた。
「わー、お金、いっぱいだね」
「ランクアップは無理だけど、そのかわりに特別報酬を用意してくれたらしい」
金貨三枚。
それが一連の事件に関する報酬だ。
カナデはごきげんそうな顔をして……
次いで、はっと何かを思い出したような顔をして、尻尾がふにゃふにゃとなる。
「にゃううう……」
「どうしたんだ?」
「お腹へったぁ……」
「ははっ」
カナデらしい言葉に、ついつい笑ってしまう。
「にゃうー、笑うなんてひどいよぉ。私、たくさんがんばったんだからね」
「悪い。そうだよな、カナデはたくさんがんばったよな。飯にするか」
「おーっ、ごはん♪ 食べる食べる! いっぱい食べるー♪」
にっこりと満面の笑顔になるカナデ。
ちょっと、よだれが垂れていた。
現金な子だ。
でも、こういう明るいところがカナデの魅力なのかもしれないな。
「レイン、レイン! 私、魚が食べたい! じゅわーっとしたたる脂に、ほくほくの身……にゃーん♪ 考えただけでよだれが出ちゃいそう♪」
「もう出ているぞ」
「おっと……えへへ、恥ずかしいところを見られちゃった。レイン、早く帰ろう! 今日のごはんはお魚にゃ~♪」
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