1話 ビーストテイマー、クビを宣告される
「キミはクビだ」
それは、魔王軍の四天王の一人、『大地のギガブランド』を倒した後の出来事だった。
街に戻った後、宿に泊まり……
食事の後に、勇者アリオスの部屋に呼ばれた。
アリオスの部屋には、他の三人の仲間もいた。
敵の攻撃を一手に引き受けて、仲間の盾となる戦士のアッガス。
千を超える魔法を使い、歩く戦略兵器と呼ばれる魔法使いのリーン。
どんな傷も癒やし、死者すら蘇生することができる神官のミナ。
仲間たちは、俺とアリオスの会話に耳を傾けながら……
それぞれ、厳しい視線をこちらに向けていた。
「えっと……ちょっとまってくれ。いきなりの話で、状況が理解できない……どういうことなんだ? もしかして、ドッキリとか……」
「そんなわけがないだろう!」
苛立ちを表現するように、アリオスがテーブルを叩いた。
それに続いて、アッガスもこれみよがしに舌打ちする。
「本気……なのか?」
「ああ、本気だ」
冗談を言っているようには見えない。
「……理由を教えてくれないか?」
「あんた、そんなこともわからないの?」
リーンが口を出してきた。
「理由なんて一つしかないでしょ。あんたがお荷物だからよ。ううん、訂正するわ。あんたを荷物と一緒にしたら、荷物に申し訳ないからね。ゴミ、って言った方が正しいわね」
「リーン、言い過ぎですよ。いくら、彼が何の役にも立っていないとはいえ、一応、プライドはあるのでしょうから」
ミナも厳しいことを口にする。
なんだ、これは……?
俺は、今まで、仲間にこんな風に思われていたのか……?
「なんで、こんな……俺たち、仲間だろう? それなのに、どうして……」
誰も答えない。
ただただ、ゴミを見るような目を向けてくる。
つまり……そういうことだ。
仲間と思っていたのは俺一人で、彼ら、彼女たちは、なんとも思っていなかった。
「わかりやすく言ってあげよう」
アリオスが再び口を開いた。
「リーンが言ったように、キミは僕たちパーティーの荷物なんだ。まるで役に立っていない。いや……役に立っていないだけなら、まだマシだ。キミの場合は、みんなの足を引っ張っていて、存在そのものがマイナスになっているんだよ」
「マイナスに……」
「心当たりはあるだろう? ないとは言わせないよ。敵にまともにダメージを与えることができず、逆に、敵に狙われて仲間の手を煩わせる始末。できることといえば、動物を使役して周囲の探索をしたり、荷物を運ばせるくらい」
「……」
「これを役立たずと言わず、なんて言えばいいんだい? 他に適当な言葉があるのなら、逆に教えてほしいな」
言葉がなかった。
全て、アリオスの言う通りだから。
俺の職業は、ビーストテイマー……動物と契約を結ぶことで使い魔にして、その力を使役するというものだ。
アリオスが言ったように、鳥を使役して上空から偵察を行ったり、熊と契約して荷物を運ばせたり……
そういうサポートには向いている。
しかし、戦闘には不向きだ。
動物を使役するだけで、俺自身は、大した力はない。
四天王との戦いでは、力を持っていないことによる弊害が如実に現れた。
何もできず。
逃げることしかできず。
仲間の足を引っ張るだけ……悔しいが、アリオスの言う通りだった。
「僕たちは、魔王を倒すという崇高な使命を持った、選ばれた者のみが参加できるパーティーなんだ。しかし、キミは、ただの気まぐれで採用したにすぎない。それでも、最初は、一応期待したんだよ? ひょっとしたら、ゴミのようなキミでも何かの役に立つかもしれない、ってね。でも結果は……期待外れだ」
「そう……か」
「これ以上、ボクを……ボクたちを失望させないでくれるかな?」
「……おとなしく身を退け。何もできない子供についてこられても迷惑だ」
「あんたみたいなのが一緒だと、ホント困るのよね。いい加減、自覚してくれる?」
「最初から無理があった話なのです。双方のためにも、私は反対したのですが……まあ、当然の結果といえるでしょう」
次々に仲間たちから辛辣な言葉を浴びせられて、情けないことに涙がこぼれそうになった。
悔しい。
悲しい。
俺なりにがんばっていたつもりだったが……そんな努力は、仲間たちは認めてくれなかった。
俺の全てを否定されたような気分になって、心が張り裂けるような思いだった。
今は、こんなことになっているが……
俺は、みんなのことを大事な仲間だと思っていた。
その結果が……コレか。
でも、仕方ないことだ。
俺の力が足りず、迷惑をかけていたことは事実だ。
今は、そのことを素直に受け止めよう。
「……わかった。今日で、俺はパーティーを抜けるよ」
「賢明な判断だ」
「最後の最後で良いことしたわね。褒めてあげる、きゃはははっ」
「リーン、言い過ぎですよ」
「これくらい、別にいいじゃん。この役立たずのせいで、どれだけあたしたちが苦労させられたか。ミナだって、ホントはほっとしてるでしょ?」
「それは、まあ……否定できませんね」
「でしょ? ま、最後にまともな仕事ができてよかったんじゃない? 辞める、っていう仕事だけどね。あはははっ」
「……っ……」
拳を握りしめる。
でも、俺にできることは『辞める』ということ以外になくて、リーンの言う通りで……
何も言い返すことはできない。
「……レイン、装備を置いていけ」
「え?」
アッガスの言葉に、ついつい呆然としてしまう。
「その装備は、俺たちが集めたものだ。覚悟のない子供に与えるおもちゃじゃない」
「……わかったよ」
確かに、この装備は仲間たちからもらったものだ。
俺が持っているなんて、仲間たちは許さないだろう。
「……これでいいか?」
『クリスダガー』
『光のローブ』
『空の指輪』
どれも、一つ売るだけで一生遊んで暮らしていけるような、最上級の装備だ。
それらをアリオスに渡して……
その時、仲間との縁が完全に切れた気がした。
いや……元々、仲間でもなんでもなかったのかもしれない。
本当の仲間なら、こんなことはしない。
パーティーを抜けることはあっても、こんな言葉はかけられないはずだ。
そう思うと、急激に心が冷めていくのがわかった。
「ここまで一緒に旅をした情けだ。ここの宿代はボクたちが払おう」
「……助かるよ。じゃあな」
俺は、勇者さま一行に背を向けて……
二度と振り返ることなく、部屋を後にした。
21時頃にもう1話、更新します