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うた姫。  作者: ミーレさん
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*プロローグ

 バッと布団をはねのけて立ち上がる。櫛で長い髪をとくと、いつも通り、ポニーテールにして鏡の前で確認。


「…よし。」


 特に不満な点もなかったので、昨日の夜に準備しておいた服にパパッと着替えて、一階のリビングに行く。


「…ああ、日曜なのに早いと思ったら、今日は友達と遊ぶんだっけ?」

「うん、おはよう、お母さん。」

「はいはい、おはよう。」


「ねえお母さん、私の格好、変じゃない?」

「最近の流行なんて、もうわかんないわよ。…でも変だとは思わないよ。」

「…よかった。」


 台所に行って、自分の朝ご飯を用意すると、いつもの席に座る。


「友達と遊ぶって…………まさか男!デートか!?」


 まるでタイミングを見計らっていたかのように、隣の席でスマホをいじっていたお兄ちゃんが話しかけてきた。


「…………そうだったら良いんだけどねー、普通に、女の子。」


 朝食のパンにイチゴジャムを塗りながら答える。

 …………そう、今日は真美と映画に行く予定。小学校卒業以来、会ってなかったんだけど、昨日駅で、3年ぶりくらいに再会した。お互いに高校進学も出来ていて、でも部活には入ってなかったから。今度の日曜空いてる?って話になって、一緒に遊ぶ約束をした。


 朝ご飯を食べ終わると、お母さんとお兄ちゃんに「行ってきます」と言って玄関に向かう。


 この前買ったばかりの厚底ブーツを履いて、玄関に用意しておいたカバンを取ろうとした瞬間、だった。


「え?」


 突如、目の前が真っ白になった………。私は、目を開けてられなくて、固く目を閉じたのだった。



***


 目を開けると、そこは我が家の玄関ではなく、少し薄暗い部屋だった。目の前には私よりも少しだけ背の高い男の人がいて、私の周りにも、老若男女問わず、たくさんの人がいる。

 目の前の男の人は、とても綺麗な容姿をしていて、金に近い茶色の髪を1つにくくっている。服装は、とても豪華で、まるで、何かのコスプレでもしているみたいだった。


「……………成功、だな。」


 目の前の綺麗な男の人が安心したように呟くと、周りにいた人たちも、一様に嬉しそうな声を出す。


「これで、当面の間は大丈夫でしょうな。」

「無事に成功して何よりです。」

「ただ、男性と言うのが残念じゃ。」


 え?なんだろう、どういうこと?


 すると、目の前の綺麗な男の人が口を開いた。


「………?なぜだ?男でも女でも、我が国の救世主になるなら、構わないではないか。」



「いえいえ、もしも女性であったら、王子の婚約の問題も見事解決いたしましたので。」

「そうですよ、そろそろ17になられるのですから、そちらの方も考えていただかなくては。」



「……………なるほど。では、そちらの方から考えたのなら、この召喚は失敗だな。こんなにも美しい男は初めて見る。私の隣に立たれたら、女は皆、この者を見るだろうよ。」


 話の流れからして、おそらく王子であるだろう、綺麗な男の人は、ちらり、と私の顔を見て、そう言った。……………何を言っているの?私は、私は、女の子よ。見たらわかるでしょう、そんなこと。私が抗議のために声をあげようとした時、聞こえてきた言葉は信じられないものだった。


「まあ、救世主召喚で喚ばれた者ですから、魔力量は相当なもののハズ。…………本当に、女性だったら、王子との子を無理矢理にでも産ませることもできたのですが、ね。」

「本当に残念じゃ、もしそうであったら、我が国は安泰じゃろうに。」


 え………?何、それ…………。私は開いていた口を慌てて閉じる。


「………はあ。

 …………君は、私たちの言葉が理解できるかい?もしも出来るのなら、名前を教えてくれないか。」


 嫌だし、無理。……………もう、いいじゃない、帰らせて。…………真美と、映画に行くの。


「……………。」


 私が静かに首を横に振ると、王子は驚いた顔をしてから、話しかけてくる。


「…………とりあえず、言葉が理解できているのなら、私について来てくれ。」


 くるり、とドアの方へ向いて歩き出す王子に、私はついて行くしかなかった。ここでずっと立っていても、仕方がないから。


 ドアを出ると、白を基調とした豪華な廊下で、今まで薄暗いところにいた私は、思わず目を細めた。

 後ろを振り返ってみると、私と王子以外は部屋から出るつもりはないらしく、ちょうどドアが閉まるところだった。


 王子と私は無言で歩いてたが、しばらくすると、王子は前を向いたまま私に話しかけてきた。


「右も左もわからずに不安かもしれぬが、どうか我が国のために力を貸してほしい。君の魔力が必要なのだ。」


 そんなこと言われても。運動部に入ったことすらない私に、力があるなんて思えない。

 私は、ただただ、どうやったら帰ることができるのかについて考えたかった。でも、王子は私の返事がないことを良いことに、どんどん話してくる。


「君は少しの間、水晶球に手をかざして祈ってくれれば、それでいい。それだけで、我が国の結界は少なくとも十年はもつだろう。…………とても、簡単だろう?」


「…………………。」


 その簡単な仕事が終われば、我が家に帰らせてもらえるのだろうか。


『女性だったら、王子との子を無理矢理に・・・』


 頭に浮かんだのは、先ほど誰かが言っていた言葉。


 駄目だ。もし仮に私の魔力で結界とやらが維持できたとしても、ここにいるのは自分勝手な人たちばかり。私を留めおいて、利用するだけ利用するに決まっている。


 ……逃げなきゃいけない。逃げて、自分の力で我が家まで帰らなきゃ。


 でも。それには情報が足りない。ここがどこだかもわからない。……情報を、集めるためには。


 私は前を歩いている王子を見る。この人が最高責任者みたいだから、一番情報を持っているのはこの男。この男から逃げるために、側で情報を集める。___ただし私が女だとバレたら、そこに待っているのは終わり……。


「…………………。」


 演じてみせる。男を。私はスッと目を閉じる。……今から私は。いや、僕?ううん、『俺』は。


 _____男、だ。



 俺は静かに、目を開けた。


***


 王子に案内され、入った部屋には小さな子どもが入れそうなほどの大きな水晶玉があった。水晶玉の周りには研究職の人だろうか、ローブを着た多くの人が立っている。水晶玉を守る番人みたいだったが、王子が入ると皆一斉に頭を下げた。男の人しかいなかったが、髪の短い人はいなく、全員が髪を一つにくくっていた。髪を切る暇もないほど、忙しいのかもしれない。


 王子は頭を下げた男たちに一言も話すことはなく、真っすぐに水晶玉へと向かった。


「これは、魔力が保存できる水晶玉だ。保存している魔力を使って、国の結界を維持したり民に魔力供給を行ったりしている。しかし、魔族の進行により結界維持の魔力量が膨大なものとなってしまった。我が国の魔法使いでは到底足りない。…そこで、君の魔力を供給してくれないだろうか。」


 私は。……俺は。この国に何一つ恩義を感じていないのに、なぜこんなことをしなければならないのだろう。けれど、今は王子に協力するしかなかった。ここで断って反感を買ってしまったら、私に戦うすべはない。


「この水晶玉に手を触れて欲しい。それだけで事足りる。」


 王子がじっと私のことを見ているのが伝わってくる。私は綺麗に磨かれている水晶玉をぼんやりと見つつ、そっとため息をついた。


 一歩踏み出し、水晶玉に手をかざす。私の…いいえ、俺の指先が水晶玉に触れた瞬間、まるで何かのアトラクションのように水晶玉は輝きを増した。細かい粒子がキラキラと水晶の中を縦横無尽に動き回り、粒子どうしがぶつかり合うと、さらに輝きを増してゆく。それらはまるで、壮大な星空のようだった。輝き合う星々をずっと眺めていたいと思ったけれど、その景色を最後に、俺の意識は遠のいていった…。


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