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蟋蟀奇譚  作者: 城聖 香
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一章 無惨華 一

ファンタジーと時代劇の無理矢理融合作品です。

ファンタジー系は色々読みますが、時代劇は若干マイナーですが、喧嘩屋右近が好きでした。

それでは転生無し、目指せ剣客ファンタジー、どうぞお楽しみに下さい。

きぃきぃと音が鳴る。

石畳を踏みしめる音に混じり、その男の足からは鉄の軋むような、悲鳴のような音がする。

赤一色で染められた、その男の奇妙な服は、遥か東方の地で着られている物に似ている。

ゆったりとした生地に袖を通し、腰の辺りを細長い布で縛る姿は、その彼の服よりも尚赤い髪と瞳、そしてなにより服からは腕が一本しか出ていない事で、より異様に見える。

また、腰に拵えの若干異なる剣を二振り携え、足にだけ、服や髪と同じく紅い鉄製のグリーブを付けている様は、この広い世界を見回しても彼ぐらいしかいないだろう。

しかし、すれ違う人々はそんな彼と当たり前の様に軽く挨拶を交わしていく。


ーーーと、片袖を風になびかせ歩く男は、軽い衝撃と共に足を止めた。

赤い男の目の前には三人の男が肩をさすりながら立っていた。

それぞれ、筋骨隆々な体つきといい、腰からぶら下がる使い込まれた剣といい、戦場を渡り歩いた傭兵の類だろう。

肩をさすっている先頭の男は、髭面をにやにやさせながら、赤い男に肩がぶつかっただの、骨がどうだのと絡んでいるが、赤い男はつまらなそうに相手の話を聞いている様に見える。

やがて三人組は赤い男を囲みだした。

その不穏な雰囲気に、道行く人々や周りの店からも人が出て来だすと、三人組は少し焦りだし、威嚇する様に腰の剣をかちゃかちゃと鳴らす。

しかし、赤い男は全く意に介さず大きく一つ欠伸をした。

それを見た男達の、忍耐力は限界を迎えたのか、一斉に剣を抜いた。

僅かに刃こぼれが見えるが、いかにも使い込まれた剣が赤い男を包囲する。

が、男は僅かに口の端を吊り上げる。


「抜いちまったなぁ」


言葉はまるで吹雪の様に、男を中心に周囲の温度を下げる。

男の醸し出す雰囲気が明らかに変わった為の錯覚だろう。

三人組は、剣を抜いたまま硬直した。

その様子を見て赤い男はにぃと笑う。

そしてーーー


「何をやってる!」


突如響く鋭い声が、その空気を切り裂いた。

上等な衣服に身を包んだ青年が三人組の輪の外から声を掛ける。

青年は三人組の中にいるのが赤い男であるのを確認すると、腰の長剣に置きかけた手を離した。


「蟋蟀、またお前かよ」


蟋蟀と呼ばれた赤い男は、青年の問いかけに肩をすくめる。


「巻き込まれただけ。いつもの事さぁ」

「そのカッコのせいだろ。目立ちすぎるといつも言ってるだろ」

「コレはオシャレさぁ。いつも言ってるだろぉ」

「絶対悪趣味だぞ、それ」


先程までの、一触即発の空気はすでに無い。

三人の男そっちのけでやり合う二人を前に、髭面の男がプルプルと震えだす。


「て、テメエ!邪魔すんじゃねぇ!大体何者だよ!?」

「助けに来てやったつもりなんだがな」


髭面の叫びを軽くいなし、青年は溜息をついた。


「助けだぁ、んな事より邪魔すんじゃーー」


再度叫ぶ髭面の言葉が止まる。

目の前に長剣の切っ先が突きつけられていた。

いつ抜いたのかも分からない、刹那の間に。


「ライエル国騎士団、第2師団長レオニード。この街、イグニスの領主でもある」


その言葉に三人は絶句し、周りにいた野次馬からは歓声が上がる。

ドヤ顔で野次馬の歓声に答えるレオニードを、蟋蟀がジト目で見つめる。


「で、領主様は止めに参られたのでございましょうかねぇ?」


ジト目の蟋蟀に、レオニードは視線を移し、長剣を納めた。


「面白そうな感じがしたから寄っただけだ」

「面白そうなってなぁ」

「決闘で、いいんだろ?」


レオニードの言葉に、ジト目だった蟋蟀はにぃと、破顔した。


「か、勝手に話をすすめるんじゃねえ!」

「我がライエル国は武を貴ぶ国。よって、私の領土では立会人さえ立てれば、自由に決闘する事が出来る」


髭面の言葉を無視して、まるで演劇の一幕の様に、レオニードは両手を広げ語る。


「今回は私が立会人を務めよう。そして、我が軍は才ある者は経歴、立場、全て不問。この男に勝てれば、我が軍の私兵として招き入れよう。働きによっては、いずれ騎士にもなれようぞ」


その言葉に三人組の目の色が変わる。

領主登場から放置され気味に話が進んでいたが、私兵として招き入れる、その言葉が彼らを引き付けた。

戦場があればこその傭兵、無ければ食べていく為に法に触れる事もやっていかなければ生きてはいけない。

長い戦乱は、各国の休戦協定により、終わりを告げ、それまで各地を渡り歩いていた傭兵は、急速に職を失っていった。

傭兵の募集が無ければ、強盗に身をやつす、そんな話も珍しく無い。

そして、行き着く先はお尋ね者、一生日陰者だろう。

それが領主様の私兵、働きによっては騎士まで見えるとなれば立身出世に違いない。


「……決闘って事は、相手の生死は問わないって事でいいんですかね?」

「三対一ってのもありですか?」


蟋蟀の後ろに居た男達が、レオニードに問いかける。


「無論、極めし武と武のぶつかり合いの末では、死はよくある事だ。それに、人数の過多は問題ではない。お互いが受けるか受けないかだ。ーーそれで、どうする?」


レオニードの言葉に、三人は剣を抜きつつ、再度蟋蟀を囲む様に動く。


「蟋蟀は?」


二人の視線が交わる。

蟋蟀はその口の両端を歪めたまま、腰の剣に手を乗せる。


「よろしい。では始め!」


掛け声と共に、レオニードは四人から離れる。

腕組みをし、決闘の場を見つめるその顔はとても楽しそうだ。

周りの野次馬達も、突然のショータイムに歓声を上げた。


剣を抜いた男達は、中段に構え、ジリジリと蟋蟀に近づいていく。

対して蟋蟀は、笑顔のまま軽く左足を引き、剣すら抜かず、その場を動かない。

僅かな膠着、髭面が蟋蟀の後ろの男達をちらりと見た。

微かに頷き、次の瞬間男達は蟋蟀に切り掛かった。

それも、左右僅かに時間差をつけて対応し難くしている。

いくら二本の剣を携えていたとしても、片手しかない蟋蟀なら対応は不可能との判断だろう。

対して蟋蟀は、その笑顔を更に深くし、右の手で剣を握る。


ピシッ


空間に音が響いたと錯覚する程の殺気。

蟋蟀が発した殺気は、斬りかからんとする二人と、様子を見ていた髭面を捕らえ、その動きを封じた。


「冥府はぁ、見えたかい」


笑顔のままの蟋蟀。


「あ、あんたは一体、何者……」

「何だっていいじゃねえかぃ。さて、と」


蟋蟀は片方の剣を抜いた。

それは、剣というには異質、5センチ程の太さの円柱の棒で剣先は鋭く尖っている。

例えるなら、剣の長さのランス。

それなりの重さのはずだが、右手のみで軽々と構え、軽く振る。


「『貫』で、いこうかねぇ」

「あ、ああああああぁぁぁ!」


蟋蟀が、『貫』と呼ばれた剣を肩に担いだ瞬間、後ろで硬直していた二人が、剣を大上段に構え直し、絶叫と共に打ち下ろす。

幾つもの戦場で鍛えられた剣、殺気に臆していたとはいえ、タイミングも完全に虚をついている。

上がる鮮血を予期して、野次馬からは悲鳴が上がり、髭面がにやりとする。

だが、鮮血の代わりに上がったのは剣の砕ける音。

振り下ろされた剣は、蟋蟀の『貫』によって折砕かれていた。

振り下ろされた剣を、振り向きざまに円を描く様にして横から打ち砕いたのを見て取れたのはレオニードくらいだろう。

蟋蟀の足元から、きぃ、と音が鳴る。

再度、蟋蟀は回る。

優雅とも言える円運動に似付かわしくない激しい打撃音。

蟋蟀が髭面に向かい合ったと同時に、二人は、首をおかしな具合に捻じ曲げて崩れ落ちた。


「剣と一緒で脆いねぇ」

「ば、バカなぁっ!」


絶叫する髭面。


「お仲間さんの、仇討ちの時間だろぅ」


蟋蟀の言葉に吸い寄せらる様に、髭面も構えていた剣を一気に振り下ろす。

軌道にあるもの全てを両断する勢いの剣。

もう一度、きぃ、と蟋蟀の足元が鳴り、全てが終わった。

振り下ろされた剣に合わせる様に、蟋蟀の突きが放たれ、その切っ先は正確に剣の刃を捉え、砕いた。

そして、その勢いに弾かれた様に両腕を無防備に上げた髭面の喉を『貫』が貫く。

酸素を求め、ぱくぱくと口を開くがそこから血が吹き出し、『貫』が抜かれると同時に髭面は崩れ落ちた。


「また、いずれ」


にやりとした表情を崩さずにそう呟くと、蟋蟀は『貫』を振り、付いていた血を振り落とすと、腰の鞘に戻す。


「そいじゃあ、後片付けはよろしくねぇ」


いつの間にか駆け寄ってきた衛兵に手をひらひらと振って、蟋蟀は振り返りもせず歩いて行った。

時折聞こえる、きぃきぃという音と、野次馬の歓声と悲鳴を残して。

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