表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

02.ヤンデレはこれだから

 ところがゲーム世界とは非情の世界でもある。何せ問答無用でシナリオが進められて行くのだ。


 チェーザレはドレス姿の私を見つけ、その美貌に微笑みを浮かべた。肩まで伸びた黒い髪が色っぽい。


「ルクレツィア……美しい。私の見立てに間違いはなかったな」


 髪と同じ色の目には情欲の炎が早くも燃え立っている。そりゃそうだろうよと内心ツッコんでしまった。このドレスは胸元と背中が大きく開き、クレバスも真っ青の谷間が丸見えなのだ。


 どうして私はこのあからさまな下心に気づかなかった!――というか、なんで私が前世を思い出したのか、今になってよく分かった。

 

 これまでの十五年の私は例え監禁&調教されようと、プレイヤーですらよくわからないうちに、なぜか攻略対象にメロメロになって、「ああ、お兄様……私もお兄様を愛しています」――などと抜かすような脳内お花畑のチョロインタイプだったのだ。


 絶対に本能的な部分で危険を感じていたんだって! けれどもゲーム補正でどうにもならなかったから、前世の記憶を引っ張り出したに違いない。アラサー行き遅れ独身ほどこの手の対策に優れたものはいない。


「ルクレツィア……」


 チェーザレが背後から近付き、私の両肩に手を置いた。


 ヒイイッ!


 むき出しの背筋がぞくぞくと震える。耳元にバリトンボイスと吐息がかかった。ときめく以前にもはやホラーである。


「ルクレツィア、お前はこのイタリアで一番……いや、世界で最も美しい。私は花一輪ですら、お前の他に美しいものがこの世にあるなど許せないのだ。ああ……そうだ。明日にでもフィレンツェに、ヴェネツィアに、ジェノヴァに攻め込み、イタリア全土を焦土にして見せよう。お前以外の者が決して光り輝かぬように……」


「」


 正直舐めてた。チェーザレのヤンデレ度を舐めてた。大昔一回プレイしただけだったから、セリフの一つ一つなんかすっかり忘れていた。こんなん三十年物の干物に対処できる案件じゃねえ! 無理無理無理!


 元干物アラサーができることはただひとつ。


 ……三十六計逃げるに如かず!


 私は脱兎のごとくその場から逃げ出した。


「ルクレツィア!?」


 廊下を駆け抜け玄関へと向かう。ところが途中で誰かにぶつかり、その胸に飛び込む形になってしまったのだ。


「どうしたんだい、ルクレツィア。そろそろお転婆は卒業しなくちゃいけないよ」


 こ、この声優の声は……!


 私はおそるおそる顔を上げた。

 

「ほ、ホアンお兄様!?」


 ホアンは金髪にハシバミ色の目の、ルクレツィアによく似たもう一人の兄だ。ホアンはモブキャラだけど、チェーザレに次いでファンが多かった。果たしてそれはなぜだったのか。


 解答。


 このゲームでは唯一の正統派の王子様キャラだからである。イケメンで、さわやかで、まじめなのだ。天と地がひっくり返っても実の妹にハァハァなんてしないのである。


 だがしかし、ホアンはまともであるがゆえに、このゲームでは攻略対象にならなかった。


 ……。


 製作者がどんな意図でこのゲームを企画したのか、おわかりいただけただろうか。


 うん、死ねばいいのに。


「ルクレツィア……」


 ハッ。


 私はもしやと振り返り、背後に幽鬼のごとくたたずむ、スーパーヤンデレ人の姿を見た。


 あ、そう言えばヤンデレとチェーザレってなんとなく語感が似てるね。


 チェーザレはホアンに抱かれた私をねっちりと見つめる。


「……お前達は仲がよいのだな」 


 ヒイイッ! なんかドス黒いオーラが立ち上っているんですけど!!


 ホアンは私の頭をよしよしと撫でた。


「ははっ、ルクレツィアは昔から甘えん坊さんだからなあ」


 ああっ、そんな燃料を投下しないで!


 私が心の中で絶叫を上げたとたん、ピコーンと画面が目の前に浮かんだ。

  

 え、何これ。 


 私が目を丸くする間に、三つの選択肢が表示される。


A:まあ、そんなことはございませんわ。

B:ふふっ、だって兄妹ですもの。ねえ、ホアンお兄様?

C:チェーザレお兄様には敵いませんわ。


 あああ、そうだ。ホアンと話すここが第一の選択肢だった。


 ちなみにBを選んでしまうと、ホアンは嫉妬したチェーザレに暗殺され、コンクリ詰めにされたあげくに、ティヴェレ川に沈められるハメになる。


 史実のホアンも何者かに暗殺され、ティヴェレ川で発見されている。犯人はわからず終いだったそうだが、愛欲のボルジアのチェーザレなら十分ありうる。


 嫌だ、こんなチェーザレは嫌だ。

 

 だからと言ってAを選べばグッドエンド「死の彼方~二人だけの牢獄~」に繋がり、チェーザレに「あの世で結ばれよう」と無理心中を図られ失敗。私は心が幼児にまで退化して、チェーザレに犯されながら、「おにいちゃまだけがだぁいすきよ」、などと笑い続けることになる。


 グッドエンドでこれだよ! 何がグッドなんだよ!!


 せいさくしゃ、あたま、わいてる。


 で、Cを選べばあのトゥルーエンドへ繋がる。


「……」


 私は呆然と画面を見つめた。


 ハハッ、詰んだ。私の人生詰んだ。

 

 ここでルクレツィア心の一句。


 ヤンデレは 二次元だから 許される

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ