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01. ないわー、絶対ないわー

 その日、私は十六歳の誕生日を迎え、心がこれまでになく浮き立っていた。


 ところがお兄様に贈られたドレスを身にまとい、鏡の前に立った瞬間、前触れもなく数十年分の人生を思い出した。同時にとんでもない事実に気付いてしまったのだ。


 ここはマイナーな十八禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」の世界であり、私はゲームのヒロイン・ルクレツィアとして転生してしまったことに……。


 ん? 私の前世? とうのたったアラサーOLで、二次元と薄い本が生き甲斐だった……まあ、これだけ言っておけば、もう語ることはないのではないだろうか。


 ん? なんで死んだ? まあ、しこたま飲んで酔っ払い、道で寝てる間に凍死したとか、説明するほどのことでもないだろう……。


 ところでイタリア史にハマった経験があるならご存知だと思う。ボルジア家とはルネッサンス期のイタリアの貴族である。一族からカトリックの元締めとなる教皇を排出し、その絶大な権力を盾にみるみるのし上がり、この時代我が世の春を謳歌していた。


 「愛欲のボルジア」はそのイタリア最盛期のボルジア家を……正確にはなんちゃってルネッサンスな時代を舞台としている。なんちゃってと言うかなんだそりゃなルネッサンス期か。


 だって屋敷にはエアコンもあるし水洗トイレもあるし、料理にはカレーもあるし唐揚げ(!!)もあるし、世間には錬金術なる魔法もある。史実のルネッサンスとは似ても似つかぬ異世界だと言っていいだろう。


 攻略対象の五人は歴史上の人物をモデルとしているのだが、やはり全員年齢から性癖までなんだそりゃ的な解釈、または改変をされている。私はそんなワケワカメなエロい世界にヒロインとして転生してしまったのだ。


 ちなみにヒロインのルクレツィアはボルジア家のお姫様で、金髪にハシバミ色の瞳、ワガママボディの絶世の美少女だ。男たちの愛欲に翻弄される哀れなヒロインでもある。


 ついでに言えば一番人気のルートは実兄・チェーザレとのトゥルーエンド「禁断の恋~ともに闇に堕ちて~」だった……。


 父も母も同じのガチの兄妹でありながら、チェーザレはルクレツィアに熱烈に求愛し、強引に純潔を奪った挙句に監禁。その後はドロッドロの性愛にまみれるのだ。


 これはボルジア家の有名な歴史の一説というか、根も葉もない噂話をもとにしている。美男であった兄チェーザレと、美少女であったルクレツィアは、近親相姦の大罪を犯していたというのだ。


 ところがそのスキャンダラスなトンデモ説は、お兄様&貴族&美形という三大萌え要素によって、女オタのお姐様がたの格好の餌食となってしまった。うちひとりがこのゲームの脚本家だったのだらふ……。


 ……。


 ギャー、冗談じゃない! いくらイケメンでも実の兄とくんずほぐれつとか考えられない!! 前世でニートの兄貴がいただけに考えられない!!!


 が、チェーザレはこのゲームのメインヒーローでもあるのだ。ヤンデレ兄さんをメインヒーローに据えるあたり、製作者の萌え所がわかるってものよ……。だからマイナーだったのさ……。


 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。そう、十六歳の誕生日の今日がゲームの始まりなのだ。チェーザレからもらったドレスを着るのだが、これからさっそくヤツがやってくる。その後の会話が分岐点の一つとなっているのだ。


 こんこん、と部屋のドアがノックされた。


「ルクレツィア……入ってもいいかい?」


 いくない!!


「お、お、お、お待ちになってお兄様!!」


 裏返った声で止めたにも関わらず、チェーザレはお構いなくドアを開けた。


「ははっ、我が妹は相変わらず照れ屋だな。同じ母の腹から生まれたとは思えない」


 おい、てめえ、どっちにしろ入ってくるんじゃねえか!!


 誰か!! 誰か、プレイヤーがいるなら止めて!!

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