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今日は和泉高等学校の文化祭当日。
今まで苦労して準備してきたことが報われる日。
斉藤琴子のクラスはメイドカフェだ。
可愛いメイド服を着たいがために女子が決めた。
男子は裏方専門だ。
ミニの可愛いスカートに誰も文句を言えるはずもなく、スムーズに準備は進んだ。
もうすぐ文化祭が始まる。
女子は着替え始めた。
琴子はメイド服を片手に思わずため息をついた。
昨日、許婚の章一郎にメイド服を見せたら怒られた。
そのまま喧嘩して今日に至る。
可愛いと思うのになぁ。
どうして分かってくれないのかな?
「どうしたの?元気ないね」
琴子はにこりと笑って首を横に振る。
「なんでもないよ。大丈夫」
「そう?あ、もう時間だよ!
早く着替えないと間に合わないよ!」
紅子にせきたてられて慌てて着替えた。
メイドカフェは盛況で大忙しだ。
やはりこのミニの服は大当たりだったね、とクラスメイトが話している。
最初は抵抗があった女子も今では堂々とした態度で接客している。
皆で同じのを着ているから慣れたのだろう。
ふと廊下に目をやると見知った顔が見えた。
し、章一郎さん…
ヤバイ、きっと章一郎さんは怒るだろう。
しかし逃げるわけにはいかない。
琴子は章一郎に向かって手を振った。
「どうしたの?来てくれるとは思わなかった」
琴子が笑って言うと章一郎はため息をついて答えた。
「来るつもりはなかった。
でも友人が来たいって言ったんだよ」
章一郎の後ろには琴子の知らない人がいた。
男が二人に女が三人。
男の一人が琴子を見てにっこりと笑う。
「君が琴子ちゃん?おお、可愛いねぇ。
章一郎が隠したくなるものもわかるなぁ」
男の発言に章一郎は眉をひそめて、バカ言うな!と言った。
「…ふぅん、貴女がねぇ」
一人の女が琴子を見て鼻を鳴らす。
どうやら値踏みに来たようだった。
所詮はお子様よね、と女は見下げて笑う。
琴子はむっとした。
「特に用事がないなら行くね。忙しいから!」
一体なんなのだ、と怒りながら琴子は章一郎から離れた。
あれが章一郎さん?と紅子が近づいて聞いた。
「そう!女を侍らして鼻の下伸ばしちゃって最低!」
ぷりぷりと怒って言う琴子に紅子は笑った。
「無理しちゃって~気になって仕方ないくせに」
気になる。
とても気になるよ。
でも…
「仕方ない。紅子さんが協力してあげましょう」
どうする?と紅子が首をかしげた。
「…いいの?」
琴子の返事に紅子は喜んで頷いた。
「もちろん!協力させて」
「じゃあ、店番交代してもらっても良い?」
紅子に甘えて琴子は言った。
「ありがと。じゃあ、ちょっと探してくるね!」
紅子にお礼を言うと琴子は教室を後にした。