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四章 二、ウ・ィオルカ

 


  虎の入り江(ルーオ・バニャン)へ行くことが決定したので、荷造りのし直しをすることにした。雪解けが始まっているとは言え、未だに雪深い所は多い。持っている荷物でいけるかどうかを確認しておかないと、痛い目どころか命に関わる。


  で、確認してみれば、案の定と言うかなんと言うか。到底山脈を越えるには無理があった。

  イザークの履いている靴からも窺えるように、防寒具の類いが圧倒的に足りていないのだ。装備品も十分ではなかった上、食料も油分やカロリーが足りていない。あと糖分も。今ならまだ即席のもので何とかなるが、これから先に進もうと思えば、無理が生じるだろう。それこそ、あっさりと死んでもおかしくないくらいに。


  それを二人に包み隠さずに告げ、どうするか尋ねる。


「いっそ完全に春になるまで待った方が良いと思うぞ。ジーヴァ山脈には、(ウッタ)も幾らかある。そこで世話になるのも、悪くはないんじゃないか?」


  難しい顔で悩むイザーク達にそう言葉をかける。

  心許ない装備品で強行するより、時期を待った方が余程安全だ。まぁ、到着まで少し時間はかかるだろうが、悪いことではないだろう。それに、虎の入り江(ルーオ・バニャン)は逃げない。


  俺がそんな感じのことを付け加えれば、イザークは少し戸惑う素振りを見せた。


「あの、ウッタとはなんのことでしょうか?」


  あ。そこからか。言葉の壁は手強い。通じている分、通じない部分が特に。

  どこまで通じているか分からんところが怖いよな。


「あぁ。お前らの言葉で言えば、限った季節にのみ点在する村、になるのか? この時期には、ジーヴァ山脈には幾つかそう言う村が点在しているんだ。南部の民が暮らす村だが、北部の者の出入りもある。そこで雪が完全に溶けるまで世話になろうと思うんだが、どうだ?」


「当てはあるのですか?」


  あるわけが無い。俺の知り合いはこの世界に鈴鹿しかいないのだから。しかし、そんなことを正直に伝える必要も無い。


「さぁな。俺達だけならともかく、お前らもいるから分からん。だが、三日も歩けば一箇所くらいは置いてくれるウッタはあるだろう」


  これは本当だ。この時期、(ウッタ)へ出入りする北の人間は決して少なくはないのだ。まぁ、多くもないが。

  俺の言葉に、イザークの表情は少々固い。しかし、すぐに考えをつけたのか、また違う表情を見せる。


「少し相談しても?」

「納得するまでしておけ。ごねられても困る」


  そうして、再び相談タイムが始まった。今度はセイヤもしっかりと交えての相談だ。想定外のことでも、柔軟に対応していこうとするその姿勢、おじさん嫌いじゃないよ。


  その間に、俺と鈴鹿は自身の装備品の手入れをしておく。俺達も一応アイテムボックスは持っているが、リュックサックを専ら活用している。と言うのも、南部の民はアイテムボックスをイザーク達のように荷物入れとして扱わず、本当に大事なものを取っておくための金庫? のような使い方をするのが普通らしいから。

  なので、陽子さんから貰った精霊殺しのセットを入れてある。あれはあまり人目につけない方が良さそうだし、実際、この世界に二つとない、大事なものだからな。


「ねぇ、ウッタってどんな所だと思う?」


  小声で、鈴鹿が尋ねてきた。


「悪い所では無いと思う。陽子さんから貰った記憶を見る限りじゃ。それに、本物と言ったら何か変な感じになるけど、現地の南部の民とも会えるし」


  同じく小声で返せば、「会いたいの?」と尋ねられた。


「私達、この世で二つっきりの、最高の偽物よ。だけど、本物に混じれるかしら?」


  不安からくる質問ではなく、純粋な疑問からくる質問に、思わず小さな笑みが浮かぶ。


  偽物か。

  確かにそうだ。俺達は陽子さんに手を加えられて生まれた、本物との見分けなんてつけようがない、最高峰の偽物だろう。


「混じれるさ。偽物だろうが何だろうか混じることが出来るからこそ、本物なんだから。それに、俺達は偽物であっても、贋作ではないしな」

「そう言うものなの?」

「そう言うものだろう。きっと。違ったら、その時はその時だ」


  俺の言葉に、鈴鹿は頷くような、それでいて何かを考えるような仕草をしながら、どこか遠くを見た。その視線の先に、何があるのかは分からなかったが、きっと良いものであろう。


  そうしてつらつらと取り留めのない会話をしつつ、武器や防具、それから鍋などと言った荷物の手入れを一通り終えた頃。イザーク達も結論を出したようで、雪が完全に溶けるまでウッタで世話になるそうだ。


  そうと決まれば早速移動、と言いたいところではあるが、その日は移動はせずに、そのまま野宿をすることにした。

  荷物の点検などで大分時間を食っており、既に日も傾き始めていたから。今から移動をしたとしても、野宿のための場所探しもせねばならないので、殆ど進めないのだろう。無理をして道を急ぐほどでもないので、今日はここでそのまま野宿をし、朝一で移動を開始をすることにした。


  移動しない代わりに、晩飯の席でウッタについて軽く話しておいた。


ウッタは山を狩場とする猟師達が、秋の終わりから雪解けが終わる頃までの間にだけ形成する、仮暮らしのための村のことだ。

  だから、ウッタにはウッタごとの決まりごとがある。世話になる俺達は、必ずそれを守らなければならない。それを破れば、殺されても文句は言えん。


  また、お前達が客人として扱われることはない。無論、俺達もだ。

  使えるのなら重宝されるだろうし、使えないのなら、ぞんざいに扱われる。稼ぎどきに邪魔をしているようなものだからな。その程度の扱いだ。

  だから、俺達はあくまで冬越えをする間、ウッタを間借りさせてもらっている冬越えの訪人(ウ・ィオルカ)に過ぎない。そこを肝に命じておけ」


  仕留めた大鹿の肉を使った鹿鍋を食べながら、そう二人に伝えておく。そして、自身や鈴鹿にも暗に言い聞かせる。でないと、何かをやらかしそうで。


「村ごとでの決まりごとと言うのは、どうやって知るのですか?」


  イザークは鹿肉を食すことにはまだ抵抗が少ないようで、朝の狸鍋よりも食が進んでいる。


「最初にウッタの代表者に挨拶をせねばならん。その時に、受け入れる際の大体の決まりごとを伝えられるから、そこで判断する。約束を守れないと思えばそこを去るし、守れるのなら世話になる。それだけだ」


  何杯目になるか分からないお代わりを自身のお椀によそいながら、そう告げる。この体はとても燃費が悪いらしく、かなりの量を食わねば到底やっていけないのだ。日本にいた頃の二〜三倍は軽く食べていることだろう。食べ盛りの成長期にも勝るとも劣らない食欲だ。


  他にもイザーク達の質問に答えたりしながら、夕食を切り上げ、早めに就寝した。無論野宿であるので、見張りを兼ねた火の番はいつも通りに置いておくが。

  そうして、翌日。天候も問題無かったので、ウッタを目指して進んだ。また、道中村ウッタへの手土産とすべく、獣を仕留めて毛皮と肉を用意した。手ぶらでは挨拶一つさせてもらえないからな。


  そうして歩くこと、一日と少し。

  ようやく最初のウッタに到達出来た。しかし、俺と鈴鹿はともかくとして、北部の人間であるイザーク達を受け入れることに難色を示されてしまった。縁起が悪いから嫌だそうだ。仕方ないので、手土産用に拵えておいた干し肉を渡してそのウッタを後にした。


  その日の内に七件ほどウッタを見つけては受け入れを頼んでみたが、やはり断られてしまった。理由は様々だ。既に受け入れ人数を満たしてしまっていると言うウッタもあれば、北部の人間を嫌うゆえに断るウッタ、稼ぎ期で忙しく、余所者を置いておく暇が無いウッタ

  やはり、ウッタごとに気風なども大分異なると言うことが僅かなやり取りを通して伺える。


  しかし、それ以上に収穫もあった。

  それは、俺と鈴鹿についてだ。


「ところで、あんたら何処のわたりだ?」


  皆、俺と鈴鹿を見ると、一様に同じことを尋ねるのだ。そして、その言葉に対する返答を考える間も無く、無意識に近い状態で言葉がサラリと口から溢れ落ちた。


「もう何処にも属していない。渡を続けるかも分からん」


  と言う言葉が。そうして、渡に関する知識が記憶となって、この身に自然と根付いていくのを感じたものだ。後で鈴鹿にも確認をしたが、俺と同様のタイミングで、記憶として宿ったらしい。内容も、俺と鈴鹿で然程齟齬は無かった。


  ちなみに、渡と言うのは定住をしない者とでも言えば良いだろうか。北部と南部を行き来する一門ごとに形成される集団で、そう言う点では遊牧民にも近いものがあるかもしれない。ウッタを形成するような、猟師衆ともまた違うものがあるし。彼らも普段は山に篭らず、南部に定住しているらしいからな。


  どうやら、言葉の訛りで渡だと判断されたらしい。また、手袋を外した時に見える、手の甲に彫られた刺青の模様など、案外細かな所で渡の特徴を窺えたそうだ。

  確かに、よくよく聞いてみると、俺と鈴鹿が話す言葉とウッタの者が話す言葉とは、微妙にアクセントが違う気がする。俺達の方が、語尾の下がり方だとか、子音の発音とかが若干強いように思う。


  恐らく、陽子さんから貰った記憶には、特定の言葉を聞かないと反応しないものもあるのだろう。今回の「渡」と言う言葉のように。俺自身が意識しなかったこともあるかもしれないけど。


  でも、どうしてこんな仕掛けのようなものを施したのだろう?

  一度に全ての記憶を渡しても使えないから、こんな風にしたのだろうか?

  とりあえず、陽子さんから与えられた記憶に関して、新たなことが分かっただけでも十分な収穫だ。


「まぁ、今のご時世じゃ渡もやってられんわな。風の精霊の加護があらんことを」


  そんな俺の答えに対し、ウッタの代表者達は特に訝しむ様子もなかった。そのまま旅の安全の祈願を意味する別れの言葉をかけ、俺達との挨拶を終える。なのでこちらも同じく別れの言葉をかけながら、その場を後にした。内心で陽子のくれた記憶は本当に凄いのだな、と感心しながら。


  そうして三日目の夕方近く。

  雪もまだまだ深く、野宿の場所探しもあるので、このウッタとの交渉で今日の分は打ち止めだ。これ以上進む気はない。イザーク達は西の地の出身ゆえか、それともこの三日間の成果なのか、ウッタでの対応には慣れたもので、こちらが呼ばない限り不用意にウッタの入り口付近へと近づこうとはしなかった。かと言って離れ過ぎているわけでもなく、ウッタの者が不快に思わない程度の、丁度良い距離感を保っている。おかげで、こちらも交渉が非常にしやすい。


「すまない。ウッタの長殿は居られるか? 挨拶をしたいのだが」


  ウッタの入り口に警戒のために立たされている少年に声をかければ、まだ声変わりのしていない、少し高めの声で「少し待ってろ」と言う言葉をかけてから、その場で思い切り息を吸い込んだ。


「おーい! レーフラの親爺おやっさん! 挨拶人だよ、挨っ、拶っ、人っ!! 若い渡の兄ちゃんと姉ちゃんに、北部の野郎が二人!!」


  予想していたので耳を塞いではいたが、それにしても凄い声量だ。この決して小さくはないウッタの端から端まで届いているんじゃないだろうか?

  あと、挨拶人と言うのは、冬越えの訪人(ウ・ィオルカ)になる前の段階の呼び名のことだ。受け入れを容認されて初めて、冬越えの訪人(ウ・ィオルカ)と呼ばれるようになる。


「えぇい! そんなバカでかい声出さんでも聞こえるわい、この大馬鹿もんが! 少しは声を抑えんか! 狩の最中は音を立てるな何度言うたら分かるんじゃ、この大間抜けめが!」


「狩場ではちゃんと大人しくしてるじゃんか!」


「ど阿呆!! お前を連れて行っとるとこなんぞ、狩場の初歩の初歩みたいな所じゃい! 狩場と言うのも烏滸がましいわ! そうでなくとも、ウッタに居る時も狩場に居るのとそう変わらん! 分かったらさっさと黙らんかい!」


  そんな感想を抱いている間に、禿頭頭の恰幅の良い老齢の域に達したであろう髭面の男が近くの幕屋から出てきた。少年に劣らない声量で怒鳴り返しながら。なんだろう。この二人、親子か何か? 凄い雰囲気が似ている。特に怒鳴りあう感じとかが。


  少年と一連のやり取りを終えると、少し息を整えてから、親爺さんと呼ばれた禿頭の男がこちらに向き直る。


「初めまして。貴方が長殿か?」


  そのタイミングに合わせて声をかければ、そうだ、と簡潔な言葉を返された。


「儂がこの水辺の狩場(イーズル・モッラ)を纏めとるもんだ。レーフラと言う。して、あんた達は?」


「俺がラーヴァで、こっちが相棒のファリア。今はあそこにいる二人を虎の入り江(ルーオ・バニャン)にまで届ける仕事を請け負っている。これは手土産だ。納めて貰えると嬉しい」


「おう。有り難く貰っておくさ。で、あんたらは冬越えをうちでしたいのか?」


  大鹿の肉を少年に受け取らせながら、レーフラは尋ねる。


「あぁ。あそこの二人も含めての四人、雪解けまで世話になりたい。可能だろうか?」


「そちら次第じゃな」


  イザーク達の方を指しても、レーフラは特に厭うような表情は見せなかった。今まで訪ねたウッタの中には、この時点で露骨に嫌がる者もいたから、まだ受け入れには心象的な憚りは少ないようだ。


「分かった。二人を呼んでも?」


「おう。構わんよ」


  軽快な雰囲気だ。

  この分なら、案外受け入れてくれるかもしれないな。

  そんなことを思いつつ、イザークとセイヤを呼び、改めて滞在可能かどうかを尋ねる。


「さて。儂らは言うまでもなく南部の人間じゃ。じゃから、儂のように北部の言葉を話せる者は少ない。このウッタに居る殆どが南部の言葉しか話せん。あんたらは話せるかい?」


  俺と鈴鹿ではなく、レーフラはイザークとセイヤを主として交渉を始める。この時点で、俺と鈴鹿の受け入れても問題無い、と判断されたと言うことだ。後は、セイヤ達がウッタに受け入れても問題無いかどうかを見極めるための交渉となる。


「いえ。僕もセイヤも話せません」


  二人も今までの経験と流れからそれを理解しており、問われた内容について偽りなく答えていく。ここで変に偽ろうものなら、後が大変だからな。そうして幾つかの問答を終えた後、レーフラは「ふむ」と自身の顎髭をなぞりながら考える素振りを見せる。


「分かった。あんたらを受け入れよう。雪解けまでの間でいいんじゃな?」


「あぁ。雪解けまでの間、世話になる」


「親爺さ〜ん。肉、言われた所に片付けたよ」


  手土産の肉を持たされた少年が戻ってきた。どうやら、保管所か何かにまで運んでいたらしい。


「おぉ、ご苦労さん。メレーロ。今日から雪解けまで、この四人の世話をすることになった。お前、北部の言葉を話せるじゃろ? 任せたぞ」


「はぁ!? なんで俺がこいつらの面倒見ないといけないんだよ! 渡の二人ならともかく、北部の奴らまで! こいつらの面倒見てたら、明日の狩りに行けないじゃんか! 絶対嫌だ! 死んでもしねぇ!」


「うっさい! 何を生意気な口をきいとるか、このガキは! 誰が! いつ! お前のようなぺーぺーを狩場に連れて行くなんて言った!? 毎度毎度、勝手に付いて来おってからに! お前を狩場に連れて行くなんぞ、十年は早いわ! もう決めたんじゃ! とっととせんか!」


「ふざけんな! このクソジジイが! あ! この四人受け入れたのって、俺を狩場に行けないようにするためか!? ありえねぇ! どこまで俺をバカにしてやがる!」


  出会い頭の怒鳴り合いよりも激しい攻防が繰り広げられる様は圧巻だ。

  イザークとセイヤも、レーフラとメレーロの言い争いを見ても、特に驚くことも不安がることもなかった。やはり、この三日間で大分慣れたんだろうな。この手の言い合い、どこでもあったし。

  イザークに関しては、地元で今の状況より数段上の言い争いにしか見えない交渉と相談も実際に見ているようなので、非常に余裕のある態度だ。


「賑やかね」

「そうだな。仲が良いんだろう」


  二人の舌戦の様子を眺めていると、ふと鈴鹿がそう零したので、とりとめの無い言葉を返す。事実、この二人は物凄い剣幕で言い争ってはいるが、相手を根底から否定するようなことは互いに一度たりとも言っていない。

  不思議なもので、罵倒にしろ何にしろ、言葉なんて思ってもいないことなんて到底言えないものだ。だから、この二人に関しては、これだけ罵り合っても仲がどうこうなるような間柄では無いのだろう。


「あー!! もう、分かったよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」


  そうして数十分にも渡る、短いような長いような熾烈な争いを経て、ようやく決着が着いたらしい。メレーロと呼ばれた少年が地団駄を踏みながらそう言い切った。


「だけど! おい、お前!」


「なんだ」


  ぎろり、と言う音が聞こえそうなほど鋭い視線で、メレーロが俺を呼びつけた。ウッタにいる限り、この少年は先輩のようなものだ。あまり無下には出来ない。


「俺が世話すんのに相応しいかどうか試させろ! あと、そこの北部の連中はお前が面倒見ろ! いいな!」


  えーと。メレーロが俺と鈴鹿の面倒を見て、俺と鈴鹿がセイヤとイザークの面倒を見るってことになるんだよな。でも、それって結局のところ、俺達四人と行動を共にすることになるんじゃないのだろうか。

  ここでの「面倒を見ろ」とは、「仕事を割振れ。出来も確認入れておけ」と同義だし。


  まぁ、本人がそうしろと言っているのなら、特に何も言わないけれど。

 こう言うのって、気分の問題でもあるからな。言い回しって大事だ。本人が納得する方法であるのなら、無用な軋轢も少なくはなるだろうし。


「分かった。何をすればいい?」


  そうとなれば、とっとと済ませてしまおう。感情に任せた、無理難題を出されなければいいが。


「獲物を仕留めろ! 今! この場で!!」


「分かった」


  その言葉と共に弓に矢をつがえ、頭上を飛んでいた手頃な大きさの鳥を射落す。今は丁度巣に帰る時分なので、獲物に事欠かない。大きさはきじくらいあるので、見栄えも良いと思う。色も白いし。そして、射落した鳥はそのまますぐ近くに落ちたので、それを拾ってメレーロに渡す。


「これでいいか?」


  この程度のことは造作ない。ここに来るまでの間、セイヤやイザーク達の前でも何度かやったこともある。鈴鹿も同様のことが出来るし、セイヤも弓は使えないが、小石をぶん投げて似たようなことが出来るので、この面子においては、この程度のこと然程珍しいことでもない。


  今回に関して言えば、時間帯も良かったので獲物に事欠かなかったから尚更やり易かった。


  泥を払い、手渡そうとするも、メレーロが受け取る様子は見えない。憮然とした表情を浮かべている。どうやら、失敗して欲しかったらしい。


「ほぉ。シーラを撃ち落とすか。いやいや。面白い」


  レーフラが覗き込むようにして撃ち落とした獲物を見て感想を漏らせば、メレーロが一層ムスッとした表情を浮かべ、今まで動かなかったのが嘘のように、俊敏と言うよりも最早奪うようにして俺の手から獲物を受け取った。良かった。取り敢えず受け取って貰えて。


「まぁ、ちょっとは認めてやる。一応歓迎してやるよ、冬越えの訪人(ウ・ィオルカ)


「あぁ。よろしく頼むよ、先輩」


  こうして、俺達はこのウッタで滞在することが無事に決まったのであった。

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