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三章 五 逃走ーイザーク視点②ー

 

  さて、追手との対峙を見越してー南部の民《彼ら》と道中を共にすることを選んだのですが、追手の方がやはり数段上の様です。


  よりにもよって、彼らと離れている時を狙われました。流石は本職。本当に嫌な時を見計らってくれるものです。

  まぁ、休憩を挟んだ後であっただけ、まだマシだった思う他ありません。

  これで寒さと嵐によって体力をギリギリまで削がれている時だったら、目も当てられませんから。


  あぁ、本当、忌々しい!


  休んでいたのが無駄だったとは思いませんし、思いたくもありませんが、それでも、多少の焦りを禁じえません。事前に追われていると理解していましたし、心算もそれなりにしていました。それでも、実際にその姿を見ただけで、こんなにも不安に駆られるなんて。


  嫌な誤算です。


  あと、この森では霧雨程度にまで雨の勢いは削がれていますが、少し森から踏み出せば、まだ外は嵐の只中の筈。

  そんな中で、雨や湿気が大敵の銃をつつがなく用意してくるなんて。小銃あれって、雨の日には使えない代物だと聞いた気がしたのですが、どうやら勘違いだったようです。


  行商の途中でその威力を何度か目の当たりにしましたが、エグいです。今回も見えない距離から狙ってくるし、弩より威力は強いしで最悪です。

  あり得ないとは分かりきっていますが、もっと手軽で殺傷能力の低い物にして欲しかったです。


  しかも、腕が良いのか、こんな枝や樹木が密集している森の中で、かなり正確に撃ち込まれました。

  あの時は本当にパニックになるかと思いましたよ。耳元を掠めましたし。

  最初の一発を撃ってから、再度こちらに撃ち込んではいませんが、気が抜けません。


  遠距離の攻撃手段に対抗する術なんて、僕らは持っていませんから、勘弁して欲しいところです。

  一応、王都で引き入れた南部の民《彼ら》は弓が使えるので、多少はあてにしていたのですが、この場にいないのでは、仕方ありません。


  また、更に厄介なことに、王都を離れ、まだ一日と経っていない内に追いつかれてしまっています。

  まだこちらとは距離が離れていますが、見えるだけでも、四人はこちらに向かっているが見えました。


  何と言うか、走っている感じではないのです。走っている動きをしていないように見えるです。何と言いますか、雪の上を滑っているような動きをしていました。


  雪の上で滑ったりしたら、見当違いの方向にしか進めない筈です。

  それなのに、走っているより速い速度でこちらに向かっているのです。

  セイヤほどの動体視力があれば、より詳しく観察出来るのでしょうけれど、僕には無理でした。


  靴に何かしらの細工を施してあるのでしょうか? それとも、魔法でも使っているのでしょうか?

  見えた感じで、そんなあやふやな推測を立てるのが精一杯です。僕もセイヤも魔法は使えないので、詠唱だとか、分かりやすい仕草でもなければ、判断の仕様がありません。


  とりあえず分かっていることは、僕達が不利であると言うことくらいです。

  充実した追手の構成や装備に、何度目か分からない溜息を堪えました。




  全く。 どうしてこんな目に。


  セイヤに担がれながら、ギリ、と思わず奥歯を噛み締めてしまいます。すると、それに合わせたようにセイヤが小さな声で笑いました。どうせ思い出し笑いか何かでしょう。


  セイヤはこんな状況下でも、いつの間にか全然関係無いことを考えていますから。普段からそんな感じですし。上の空ではないのでしょうけれど、かなりマイペースと言うかなんと言うか。


  まぁ、現実逃避などはしないタイプです。思考があっちこっちに行って、壮大な旅に出たり、思い出と言う大海に漕ぎ出したかと思えば、ちゃんと解決策などを考えていますから。


  並行で思考しているのですかね? 本人に聞いても、よく分かっていないみたいなので、判断の仕様がありませんが。

  とりあえず確かなことは、今回も思い出と言う大海に漕ぎ出しつつ、解決策を考えていると言うことでしょう。ですが、思想の旅に出るのはやめて下さい。

  お願いですから、戻ってきてください。そして集中して下さい。やばいですから。本当にやばいですから!


  落ちないように気をつけつつ、セイヤの背中を叩いて全力で突っ込みを入れます。


  銃弾を撃ち込まれたと言うのに、思い出し笑いをしてましたからね。その余裕は心の中だけでお願いします。でないと、僕の心が折れてしまいそうです。

  こっちは、パニックになるのを必死に抑えていると言うのに。

  少し多めに殴ってしまうのも、あしからず、と言うものです。


  セイヤのことは信頼していますが、この集中力の無さはどうにかならないんですかね? いえ、ちゃんと逃げているので、集中していないことはないのでしょうけど。はたから見れば不安でいっぱいになります。


  と言うか、「魔法を打ち込まれないよう、追手を注視しろ」と言った指示を出したのはセイヤですよね? 僕の動体視力では何一つ確認出来なかったので何とも言えませんが、それでも、指示を出したのなら、もう少しで良いですから危機感を持っても良いと思いますよ?


  まぁ、本人なりに十分持っているのでしょうけれど。少なくとも、僕より有用な域で、所持していることは確かです。伊達に中級の冒険者ではありませんからね。


  とりあえず、もうこうなってはセイヤに頑張ってもらうしかありません。

  実戦では僕は役に立てませんから。交渉ごとや、商売、目利きとかならまだ役に立てるのですがね。それで飯代を稼いでいますし。ですが、流石に、戦闘こればかりはどうにもなりません。


「ラーヴァさん達が来るまで保つかな、これ」


「そんなに向こうはやり手なのですか?」


  軽い調子で、さらっと不吉なことを言ってくれます。体温と血の気が、一気に引く思いです。


「まぁな。気配だって直前まで気付けなかったし。それに、追うスピードも速い。

  どうにも逃げ切れる気がしないんだよな。多分、途中で嫌でも戦闘に入るだろうから、覚悟しておいて。それにしても、雪道とかえげつないな、本当。雪に足を取られて全然スピード出せない。それにどう頑張っても、足跡が残るし。しかもこんな木が密集している所だと、大剣こいつを振りにくい」


  言われてみると、確かに、いつもより遅いです。普段は馬並みの速度、下手をしたら魔獣並みの速度で走れるセイヤが、馬以下の速さでしか走れていません。まぁ、大の男抱えてそれだけ走れれば十分に速いのですが。


  確認するように視線を下げると、大地に足をつける度、雪に埋もれてしまっているのが見えます。僕を担いでいるせいか、それとも走っている道が悪いせいか、くるぶしを越え、ふくらはぎの辺りまで雪の中に沈み込んでは、雪を蹴り出して、足を前に出していました。


  道理で揺れると思いました。

  これではスピードが殺されるのも、無理はありませんね。

  と言うか、今までその状態で走っていたんですか? その状態で、むしろ良くここまでの速さで走れましたね。そっちの方が驚きです。


「開けた場所に出れば、なんとかなりませんか?」


「無理。狼の群れを、罠も無しに単独で仕留めるようなもんだ。

  開けた場所に出たら、遮蔽物が無い分、全部こっちにくる。多分、全力で。今の状態でもさばき切れないから、出たらダメだ。狙撃手もまだいるかもしれないし」


「そうですか」


  それしか言えませんでした。


「まぁ、それでもどうにかしないといけないから、やるだけやってみるよ。ラーヴァさん達は今頃、別の追手の相手をしているだろうし。

  間に合えば御の字、程度に思っておいた方がいいよ」


  あぁ。そう言えば、もう一組いたんでしたっけ。

  気づいているにも関わらず、僕達に存在を教えなかった、もう一組の追手が。


  お願いですから、出来るだけ早く片をつけて、こちらに来てください。


  しかし、セイヤ曰く「現在追ってくる者達と違い、街道から既に気配を察知されていた雑魚クラス」らしいですが、「タイミングが悪いから、あまり期待しない方が良い」と改めて冷静に言われてしまいました。


  正直、泣きたくなります。

  同時に、行き場のない怒りも沸々と込み上げてきます。


  僕らを追ってきた追手も、それを差し向けた王家の人間も、濡れ衣を着せた見知らぬ誰かも。何もかもが忌々しくて、腹の中に怒りが溜まっていきます。

  溜まったところで、僕ごときではどうにもならないことが分かりきっているのが、少々癪ですが。


  ですが、だからと言って出来ないことを僻んでもしょうがありません。

  そんな無意味なことをするくらいなら、出来ることを探した方が余程生産的です。


  まぁ、出来ることがあまりに少なくて遣る瀬無く思いますが、だからと言って、何もしないわけにもいきません。そんなことでは死ぬだけです。死ぬのは人間ですから避けられませんが、それでも、濡れ衣なんぞで死ぬのは御免です。


  今は、セイヤに振り落とされないよう、しがみつくつくこと。

  パニックを起こさないこと。


  これくらいのことしか出来ません。あとは、全く関係のない、思想の大海に漕ぎ出そうとするセイヤの思考を、こちらに引き戻すくらいでしょうか?


  我ながらお粗末ですが、ですが、それが現時点の僕の出来る、最大の行為です。だから、精一杯努めようと思います。

  追手との直接の戦闘もあるみたいですからね。


  絶対に死ぬものですか。

  無様だろうが何だろうが、絶対に生き残ってみせますよ。それこそ、南部の民《彼ら》を犠牲にしてでも!

  例え媚びへつらってでも、僕らは生き残ってみせますよ! その後はきっちりと報復おかえしだって忘れませんからね!


「イザーク。なーんか悪い顔してるけど、程々にな?」


  静かに決意を固める僕に、セイヤが珍しく突っ込むように言葉をかけてきます。しかし、その内容は解せませんが。なんなんですか、悪い顔って。


「何を言っているのです? 僕はいつだって誠実ですよ?」


  誠実さと謙虚さを理念としていると言っても過言ではない僕に向かって、ひどい言い草です。一体何を勘違いしているのでしょう。そんな風に疑われるなんて、繊細な僕の心が傷を負いかねない、由々しき事態です。早々に訂正しないと。


「んー? まぁ、そうだったっけ?」


  何故疑問系なのです。

  ずっとそうでしたよ。忘れないでください。


「そうですよ。それよりも、今は追手から逃げ切って、生き残ることを考えないと。向こうはやり手なのでしょう?」


  そう言えば、セイヤは「そうか」とすぐに納得してくれました。

  この子のこうゆう素直なところ、嫌いじゃありません。愛おしく思います。


「そうだな。じゃあ、もう少し頑張って逃げるから、しっかり掴まってってくれよ?」


  勿論、と答える前に、今まで以上の揺れに襲われました。上下だけでなく、左右にも揺られます。


  ちょ、一体どんな走り方をしているんですか!?


  振り落とされないよう、渾身の力で掴まるのが精一杯で、突っ込みを入れる余裕なんてありません。全く。前言撤回です。セイヤに振り落とされないようしがみつくだけでも、今の僕には命懸けです!


  この状態で落ちたら、死ぬんじゃありません!?

  濡れ衣で死ぬのも御免ですが、事故で死ぬのも御免です!


イザーク「何だか僕嫌われてません? 僕至って真面目に生きているのに。僕みたいな誠実な人間、そうそう居ませんよ? それなのに、全然分かって貰えないなんて。アレですか? 作者の描写が下手なせいですか? そうですよね??」

セイヤ「んー。どーなんだろうな? どんまい」

道夫、鈴鹿「「……」」


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