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「で、何の用なんだい?」
「ちょっと付き合って欲しいの」
「…どこへ?」
まさか、男女交際の‘付き合い’のことではないだろう、と予想をつけて鹿嶋は尋ねる。
「お店」
「お店? …って何の?」
「プレゼントを選びたいの」
「ああ、お父さんとか…彼氏とか?」
「ううん」と梓は首を傾げた。「黒猫」
黒猫、と彼女が発音したとき、鹿嶋はなんだか奇妙な気分になった。
「誰のこと?」
「名前なんて知らないよ」
鹿嶋はゆっくりと立ち上がった。
「どこで会ったの?」
何故、そんな質問をしたのだろうか? 鹿嶋が歩き出すと、彼女も彼の横をゆっくりとついて来る。
「あの―」と梓は鹿嶋が向かっている先を指差して言った。「神社で」
へえ、と答えながら、何故か喉がカラカラに渇いた気がして、小さく咳払いをする。鹿嶋の家に向かう方角には確かに小さな神社があって、そこだけ緑がこんもりとした公園のようになった場所がある。
「あそこに猫がいたこと、知ってたんだね」
梓は黙って鹿嶋を見上げた。真っ黒な瞳。さらさらと肩の線で揺れる細い髪の毛。丸い輪郭に小さく整った顔立ち。
「君、猫みたいだね」
「そうね」
梓は笑わなかった。




