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4、返 事

 芽衣の49日が済んで、私たちはまた旅に出た。

 自分たちの気持ちに区切りをつけるために思い出の地に行くことにしたのだ。5人で初めて行き、5人で最後の旅行となった仙台・松島へ、今度は4人で向かった。

 行く先々で、芽衣が言ったことやしたことを思い出して話しながら、私たちはまた同じように旅をした。夜のおしゃべり大会では、芽衣の話ばかりだった。時には笑い、時には泣きながら、私たちは語り合った。

 最後の日、福浦島に渡った私たちは、また見晴台で足を止めた。

 何も言わず、みんなで海を眺めていると、佐智子が言った。

「私ね、会社辞めたんだ」

「え!? どうして?」

 私たちは驚いて聞き返した。

「卒業旅行の時、私『研究者になりたい』ってここから叫んだじゃない? でも今は、普通のOL。夢なんて、自分の心から追い出して生活してた。でもそれでいいのかなって思ったの。だからね、もう1度大学に入りなおそうと思って。大学でもう1度勉強して、今度こそ本当に研究者を目指したいの」

「そうなんだ。すごいじゃない」

「ほんとになれるか分かんないんだもん、すごくなんかないよ」

「ううん、そう思ったことがすごいんだよ」

 春菜はそう言って、「実は私も……」と続けた。

「実は私もね、ちょっと考えてることがあるんだ」

「考えてること?」

「今度ね、新プロジェクトの企画案を、社員全員から募るんだって。今まではそんなの大変そうって避けてたんだけど、今回はやってみようと思うの」

「プロジェクトの企画案か。やりがいありそうだね」

「うん。今まで何もしてこなかった私がどれだけできるのか分かんないけど、やれるだけやってみるつもり」

 春菜は空を見上げてきっぱり言った。

「私はね、まだはっきり分かんないんだけど、映画に携わる仕事をしたいなって思ってて、今いろいろ調べてるとこなんだ」

「そうなんだ。貴子、映画好きだもんね」

「せっかくこれだけ好きなんだったら、それを生かしたいなって思ってね」

 すると萌が「私!」と手を上げた。

「どうしたの?」

「私、今までずっとフリーターだったけど、ちゃんと就職しようと思うんだ」

「萌が就職!?」

 私たちは声を揃えて言った。

「なによ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「どうしたの、一体」

「もう少し、しっかりしなきゃなって。いつまでも甘えてばっかじゃだめだなって思ったんだ。それに宝くじもなかなか当たらないし」

 萌が肩をすくめて言い、私たちは笑った。

 久しぶりに心から笑ったような気がした。

 芽衣の告白を聞いて以来、笑っていても心のどこかがチクチクと痛んでいた。今はもうない。今は本当に笑っている。

 「芽衣は私たちにいろんなことを教えてくれたね」

 私が呟くと、みんなが頷いた。

「いつも前向きでいること」

「いつも一生懸命であること」

「自分の意思を大切にすること」

「笑顔を忘れないこと」

 私たちはそれぞれに芽衣のことを考えていた。

 すると春菜が海に向かって大声で叫んだ。

「芽衣! 今までありがとう!」

 佐智子が叫んだ。

「芽衣のこと、絶対忘れないよ!」

 萌が叫んだ。

「私たちのこと、見守っててね!」

 私も叫んだ。

「芽衣の分まで、4人で笑って生きてくからね!」

 そして私たちは、声を揃えて叫んだ。

「バイバーイ!!」

 私たちは何度も叫んだ。大きく手を振りながら、何度も何度も叫んだ。

 やがてだれからともなく叫ぶのをやめ、顔を見合わせて頷きあい、私たちは歩き出した。不確かだけれど自分だけの未来に向かって。


(完 結)


読んでくださってありがとうございました。

大切な人を失うのは本当に辛いものですが、いつも強くあろうとした芽衣から何かを学び取った貴子たちは、新しい1歩を踏み出しました。これからも4人は、芽衣を心に大切にしまって歩き続けていくことでしょう。

このお話は悲しいお話ですが、悲しいだけではなく、「よし、頑張ろう」という爽快感のようなものも感じて頂けたら嬉しいです。

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