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第三話 一.ゲーム大会、開催!

 晴れやかな日曜日がやってきた。秋の中休みのようなこの陽気に、アパートに住まう住人たちも心が躍る。

 丁度午後3時になろうかという時刻。これからいよいよ、アパートの住人たちの恒例行事であるお楽しみ会が催されようとしていた。

 開催場所となるのは、大型商業店舗が軒を連ねる大通り沿い、その一角につい最近オープンしたばかりのゲームセンター「アミューズメントエリア・キンモクセイ」である。

 ここは複合型のアミューズメント施設となっており、ビデオゲーム機はもちろんのこと、通信対戦ができるゲームや、商品をキャッチするクレーンゲームも目白押し。しかも大人向けとして、ダーツやビリヤードといった飲酒もできる遊戯スペースも設けられていた。

 本日のお楽しみ会の幹事である真人は、住人たちの到着をエントランスロビーで待ちわびていた。

「あ、来た来た。こっちですよー!」

 広いエントランスロビーを寄り添い合って歩いてくる住人たち。開放的な空間に派手な装飾が目に眩しく、住人たちは呆気に取られながら、キョロキョロと興味深そうに周囲を見渡していた。

「へー、こんなゲームセンターができたんだね。」

「ほら見て。ここ地上3階まであるみたいヨ。」

 麗那とジュリーは興奮気味に、エントランスロビーに貼り付けてある案内図を見つめていた。

「あー、奈都美ほら、クレーンゲームの商品、すっごくかわいいよぉ!」

「本当だー。潤の好きそうなキャラクターいっぱいあるんじゃない?」

 潤と奈都美は声を弾ませて、クレーンゲームで横たわるキャラクターをガラス越しに眺めていた。

「ちょっとみなさん。ゲーム大会はこっちですよ・・・って、ぜんぜん聞いてないし。」

 みんながみんな、胸を高鳴らせながらあっちこっちへ足を進めてしまい、これではいつまでたってもゲーム大会を開催することができない。

 真人は致し方なく、こういう場所でも落ち着いているあかりと由依に協力してもらい、住人たち一同を誘導しながら、大会の開催場所となる通信ゲームコーナーへと足を運ぶのであった。

「あら、このゲームってもしかして・・・?」

「そうです。最新鋭の通信対戦カーチェイスゲームです。」

 住人たちの前にズラリと並ぶ大型のゲーム筐体が6台。本日のお楽しみ会とは、この通信対戦カーチェイスゲームによるゲーム大会だったのだ。

 自動車の免許を持っていない住人たちが、カーアクションなどできるはずがないと、一様に苦言をこぼし始めると、その心配は無用とばかりに、真人が今回の大会ルールを事細かく説明していく。

「このゲームはアクションを重視するゲームじゃなく、いかにポイントを残したままゴールできるかが重要で、いわゆる駆け引きを楽しむゲームなんです。」

 ゲーム大会について詳細を説明しよう。

 参加者はお好みのカーを選択し、架空の都市高速道路を3周疾走、最終的にゴールするまでの時間と、ポイント残高の評価で順位が決定する。参加者には予めポイントが与えられていて、ゴールするまでの間に、接触事故やトラブルに巻き込まれると減少していくシステムである。

 ポイントの増減だが、参加者同士の接触事故にペナルティーはないものの、都市高速道路だけに、一般車両を事故に巻き込んでしまうとポイントが減少してしまう。さらに、スピード違反といった警察車両による摘発も、ポイントを大幅に失ってしまう要素だ。

 もう一つ、このポイントの使い方として、参加者一人につき一回だけ、”ジャマー”なる攻撃を繰り出すことができる。ポイントを消費することになるが、特定の参加者を邪魔することができる機能だ。

「なるほどね。つまり、ポイント減少覚悟でスピード重視で行くか、はたまた、安全運転でポイント重視で行くか、そういう駆け引きがおもしろいのね。」

「そういうわけです。ハンドル操作も簡単だし、アクセルとブレーキを踏み分けるだけですから、みなさんでも楽しめるはずですよ。」

 いち早くこのゲームの醍醐味を理解した麗那。彼女はやる気満々で、ブラウスの袖を腕まくりしていた。そんな彼女に触発されたのか、潤にジュリー、そしてあかりまでもが、目を輝かせながら気合を入れ始めていた。

 その盛り上がりの中、ゲーム大会に一人参加できない奈都美は、とても悔しそうに地団駄を踏んでいた。もちろん、本気で地団駄を踏んだら、治りかけの右足首がまた悲鳴を上げてしまうだろうが。

「奈都美には悪いんだけど、由依さんのアドバイザーとして参加してくれないか。由依さんは、ゲームそのものの経験も浅いと思うから。」

 真人の提案に、由依は一瞬だけキョトンとした顔をしたが、すぐさま奈都美に、アドバイスよろしくお願いしますと笑顔でオファーした。奈都美は奈都美で、任せなさいと言わんばかりに、微笑みを返してアドバイザーを買って出るのだった。

「それではみなさん、いよいよゲーム大会を始めますよ!」

 6台のゲーム筐体、いわゆる自動車の運転席に腰掛ける参加者たち。1コースには真人、2コースには麗那、3コースにはジュリー、4コースには潤、5コースにはあかり、そして、最後の6コースに奈都美と由依のコンビが配置についた。

 参加者たちはそれぞれ、自らの足となってくれるマイカーを選択する。

 このマイカーにもいろいろあり、スポーツカータイプもあれば、オープンカーといったもの、大型トラックもあれば、軽自動車まで揃っていて、まさに十人十色のカーチェイスが楽しめるのだ。

「わたしはやっぱりスピード重視。このスポーツカーで、勝利を掴み取るわよー。」

「それなら、わたしはオープンカーにするワ。わたしだって負けないわヨ~。」

 マイカーを素早くチョイスしていく麗那とジュリー。それに引けを取るまいと、潤も派手なパッションピンクのアイスクリーム販売車を選んでいた。彼女の場合、ただ見た目がかわいかったからだけであろう。

 選択に遅れを取ってしまったあかりはというと、残っている車種を目で追いながら真剣に悩んでいた。そこへちょっかいを出すように、隣のコースの潤が、彼女に代わって勝手に車種を選んでしまっていた。

「あ!ちょっと潤。何をしてくれるのよ。どうして、わたしが大型トラックなのよ!」

「えー?怪力持ちのあかりに、ぴったりの車じゃなーい。」

 悪かったわね!と不平を口にしつつ、潤のほっぺたを指でつねっているあかり。わーわー騒いでいる中、由依は奈都美と相談の上、小回りの利く軽自動車をチョイスしていた。

 レディーファーストということで、真人が一番最後に選んだ車種は、どうして残ったのか不明だが、一番オーソドックスなセダンタイプの普通車であった。

「さー、準備はいいですか、みなさん。」

 参加者たちのモニター上に、架空の都市高速道路のコースの全貌が明らかとなる。

 スピードを活かせる直線や、テクニックが左右する120度カーブなど、この多種多様なコースの中で、参加者全員の腕と運が試されるレースの火ぶたが、今まさに切られようとしていた。

 ゲーム筐体のスピーカーから、さまざまな車種のエンジン音が鳴り響く。高解像度のモニターから、光輝くメトロシティの夜景が映し出される。その臨場感に胸を躍らせて、真人は一人ほくそ笑んでいた。

「ついにこの時が来た。この日のために、商店街のゲームセンターで鍛錬を積んだんだ。」

 かつて惨敗に終わった、あの時のボウリング大会の屈辱を果たす。この勝負、意地でも優勝してみせると、真人は心の中で自信たっぷりに豪語した。

 10秒、9秒、8秒と、ゲームのモニターにカウントダウンが表示される。目をギラギラと輝かせて、モニターを凝視する参加者たちは、すでに戦闘モードに突入しているようだ。

 3秒、2秒、1秒!スタートフラッグが大きくはためき、いよいよゲーム大会、カーチェイスバトルが幕を開けた。

「スタートダッシュいただき!」

 レース開始早々、まず先陣を切ったのは、スポーツカーを巧みに操る麗那だった。それに続くは、これ以上離されまいと、麗那の後ろにピッタリと付いていくオープンカーのジュリーだ。

 少しばかり遅れを取ったものの、先頭の2台に喰らいついていく潤のアイスクリーム販売車。そして、真人の操作するセダンタイプの2台。

「もー、マサ、邪魔くさいぃ!」

「うわっ!あからさまにぶつかってくるなよ!」

 スタートしたばかりなのに、もう小競り合いを始めてしまう潤と真人。ペナルティーを課せられないのをいいことに、二人はハンドルを切っては、お互いのマイカーを激しくぶつけ合っていた。

 そこへ現れたのが、パワー重視の大型トラックを操作するあかりだった。彼女は不敵な笑みを浮かべて、前を走る潤と真人のマイカーを後ろから追撃してきた。

「ほらほら、どきなさい、あなたたち。どかないと容赦なくいくわよ!」

「あー、あかりひどい!もうすでに容赦ないじゃーん!」

 自動車3台が激しいバトルを繰り広げる中、それに巻き込まれないよう、安全運転で走行する軽自動車の由依と奈都美のコンビ。

「由依ちゃん、このままのペースを維持しよう。前を走っているみんな、いずれ疲れてボロが出るから、そこを一つ一つ追い越していこうね。」

「はい、奈都美さん。」

 速さで勝負を競い合う麗那とジュリー。潰し合う勝負を展開する潤とあかりと真人。マイペースに勝負の行方を見据える由依と奈都美。大きく順位の変動がないまま、レースは2周目へと突き進んでいく。

 先頭を快調に走っている麗那は、わずかながらに、後ろを追走するジュリーとの差を引き離していた。運転免許を取得していない彼女のこのテクニック、まさに幸運と奇跡と言うべきであろう。

「よーし、このまま優勝はもらったわ。」

 このまま順調にいかないのがこのゲームのおもしろいところ。調子に乗っている麗那のスポーツカーを、意地悪なほど阿漕なトラップが待っていた。

 麗那に追い抜かれた普通車が、突如パトランプを真っ赤に光らせた。これはつまり、彼女は覆面パトカーを追い越してしまい、スピード違反で警察から追われる身となってしまったのだ。

「ええ!?うそー、そんなのあるの!?」

 びっくり仰天で叫び声を上げる麗那。覆面パトカーとカーチェイスできる技術のない彼女は、逃れる術もなく、現行犯逮捕というマイナスポイントの洗礼を受ける運命であった。

 それを大喜びで眺めていたのは、言うまでもなく、二位をひた走っていたジュリーだ。この麗那のトラブルをきっかけに、彼女はあっという間に首位に躍り出たのである。

「悪いわネ、麗那。優勝はわたしのものヨ~!」

 悔しがる麗那を尻目に、ジュリーのオープンカーは軽やかなステアリングで高速道路を滑走していく。ところが、このゲームにはまだまだ落とし穴があるのだ。

 そう簡単に独走させてなるものかと、意地悪大好きの潤が、ポイントを消費して一度きり使用できるジャマーを発動したのだった。

「ホワット!?な、何よ、この集団は!?」

 驚愕しているジュリーのオープンカーの周りを、十数台の暴走バイクが取り囲んでいた。その暴走ライダーたちは、彼女に何の恨みもないのにいきなり攻撃し始める。

 やり返したくても、ジュリーの方から幅寄せしてバイクを倒すと、ポイント減数というペナルティーが課せられてしまう。彼女はやむを得ず、スピードを落としたまま、この邪魔者たちの暴動に指をくわえて耐えるしかないのであった。

「ははは、やってくれたな、潤。よし、ここはチャンスだ。」

 最前列を走っていた2台がもたつく中、一気に差を詰めてくる真人。彼だけを行かせまいと、粗削りな運転で追いかけていく潤とあかりの二人。

 先頭を許すわけにはいかないわ!と、麗那はポイント争いを捨てる覚悟で、真人を標的にジャマーを発射した。すると、ジュリーの時と同様に、彼のマイカーの周りに暴走族が群がってきた。

「麗那さん、甘いですよ。ジャマーは計算のうちでしたから。」

 真人は華麗なまでのハンドルさばきで、暴走ライダーたちに囲まれる寸前に、スピードダウンという危機から脱出することに成功した。

 ここで、このジャマーのもう一つのおもしろいシステムを紹介しておこう。

 標的となった参加者にかわされたジャマーは、そのまま消えることなく、すぐ近くにいる別の参加者を攻撃するようプログラミングされているのだ。というわけで、次なる標的となってしまったのは、不器用な走りをしている潤のマイカーであった。

「ちょ、ちょっとやだぁ。何よ、このバイクぅ~。はっきり言って、うざ~~い!」

 潤のぎこちない運転が災いし、暴走バイクはうめき声とともに、次々と跳ね飛ばされてしまう。そのたびに、彼女の残りポイントがみるみる減少していくのだった。

「ちょっと、マサくん!あなた、このゲーム知りつくしてるわね。ずるいわ。」

 それはそれは悔しい表情を浮かべている麗那。こうなったら意地でも追い抜いてあげると、彼女はフルスロットルで猛追撃を開始した。

 麗那の操るスポーツカーは、エンジンの爆音を響かせて、ゲームの世界のハイウェイを爆走する。一般車両や外壁と衝突しそうになりながらも、彼女は天性の運転技術を駆使して、先を進むマイカーたちをじわりじわりと追い詰めていった。

「麗那さん、本気になってる。これは、こっちもマジにならないと!」

 まだ邪魔者に四苦八苦しているジュリーを抜き去り、ついに悲願の先頭に躍り出た真人。しかし、トップを走る以上、彼の敵は麗那やジュリーだけではない。

 バカでかい図体を揺らしながら、あかりの操作する大型トラックが、真人の普通車との距離をどんどん縮めてくる。さも、獲物を狙うジョーズかのごとく・・・。

「ほらほら、管理人!覚悟なさい。もう逃げられないわよ~。」

「あ、あかりさん、キャラ変わってますよ!?」

 真人の背後に標準を絞って、あかりは血走った目をぎらつかせて迫ってくる。彼は必死にハンドルを切って、彼女の破壊力抜群の猛追を何とか防いでいた。

 先頭争いを繰り広げる真人とあかりは、いよいよ最終ラップとなる3周目に突入する。それを追いかけるジュリーに潤、猛スピードで追走している麗那がそれに続き、最下位に由依と奈都美のコンビが続いた。

 参加者全員が3周目のラインを走り抜けて、この熾烈なカーチェイスゲームもいよいよ終盤戦を迎える。

「ウェイトウェイト!まだまだ勝負はこれからヨー!」

「そーだよぉ!まずはこのでかいの追い越しちゃうよぉー!」

 ジュリーと潤は血気盛んに雄叫びを上げて、目前に居座るあかりの大型トラックを捉えていた。

 大型トラックの両側の隙間に狙いを定める二人。いざ、アクセルを踏み込んで追い越そうとした瞬間、大型トラックの荷台の扉がバタンと開き、荷台の中から真っ黒な物体が路上に落ちてきた。

「ホワイ!?」

 その真っ黒い物体とは、路上をゴロゴロと転がるドラム缶であり、これこそ、あかりがここぞとばかりに発動したジャマーであった。

 攻撃対象となったジュリーは反射的に、真っ黒い物体を避けようと強引にハンドルを切った。そして、ハンドル制御を失ったオープンカーは、あかりの思惑通りに、潤のアイスクリーム販売車と激突してしまうのだった。

「にゃぁぁ~!?何すんのよ、ジュリーのバカァァ!」

「Oh、No!あかりが卑怯な手を使ってきたんだもノ!」

 後退していく哀れな2台を見やり、あかりは口角を吊り上げて不敵に微笑む。

「ごめんなさい、お二人さん。真剣勝負というものは、いつも厳しくて儚いものなの。しっかり憶えておきなさいね。」

 さあ、これから一騎打ちよと言わんばかりに、あかりは先頭に立つ真人のセダンタイプに焦点を合わせる。

「あかりさん、見境なくなってきたな。このままだと、いずれは追いつかれるかも。」

 真人はバックミラーを見ながら、頭の中でこれからの作戦を練る。このままギリギリまで逃げ続けるか?それとも、ポイントを消費してジャマーを発動するか?彼は残りのコースを計算し、悩みに悩み抜いた末、ついにその決断を下す時が来た。

「あかりさん。オレからのささやかなプレゼント、受け取ってください!」

 真人が下した選択肢は、あかりを奈落の底に突き落とすジャマーであった。

 ジャマーの正体であるオイルが突如路上に流れ出し、大型トラックの行く手を阻むかのように、太いタイヤにねっとりと絡みついていく。

 ハンドルの制動が瞬く間に悪くなり、大慌てで左右に舵を切るあかり。並行する一般車両に接触し、さらには外壁へ跳ね飛ばし、彼女の残りポイントも瞬く間に減少していった。

「え、ええ!?ちょっと、これはどういうことなの!?」

 大事故の一歩手前で何とか踏みとどまったものの、あかりの大型トラックは、大きな痛手となる小さな接触事故を起こしていた。

 あかりが接触してしまった車両の中に、運悪くパトカーが含まれていたのだ。呆然とする彼女はなす術もなく、そのパトカーに現行犯逮捕という屈辱を受けるのであった。

「やった。これでオレの独走だぞ。優勝はもらった!」

 真人の普通車にとって、脅威となり得る車両はもういない。なりふり構わず暴走している麗那のスポーツカーだけが彼との距離を詰めていたが、彼女にはもう、ポイントらしいポイントは残されていない。

 他の参加者たちも、ジャマーの攻撃に振り回されてしまい、追い上げようにも時間と距離が足りないため、事実上、首位を走る真人の完全なる一人勝ちとなっていた。

 真人はすっかり有頂天になっていた。ジャマーを隠し持つ存在が二人いようとも、このゲームを知り尽くす自分ならきっとかわせるだろうと。ところが、彼はこの後、ジャマーのとっておきの極秘システムを身をもって知ることになる。

「このカーブを慎重に越えれば、いよいよ最後の直線コースだ。」

 車体を滑らせて、120度カーブを華麗に曲がり切った真人。彼の目指す直線の先には、優勝を祝福するゴールフラッグがはためいている。そしてもう一つ、路上を丸く照らす黄金色の光線が、彼の到着を待っていた。

 その黄金色の光線の下に、真人の普通車は吸い込まれるように導かれていく。彼が気付いた時には、光線に包まれた車体は宙に浮き上がり、空中でグルグルと回転し始めてしまった。

「な、なんだこれ!?こんな、ジャマーなんてあったのか!?」

 これこそが究極のジャマー”ダブルジャマー”である。

 この発動条件はただ一つ。二人の参加者が、特定の一人にほぼ同時に攻撃すること。つまりは、ジャマーを温存していたジュリーと由依の二人が、同じタイミングで、真人目掛けてジャマーを発動したというわけだ。

「わー、ダブルジャマーは計算外だったぁ!せっかく優勝できると思ってたのにぃ~!」

 多数のマルチプレイでこそ出現するこのシステム。ゲームセンターに通い詰めて、腕を磨いていた真人でも、これを回避することなどできるはずもなかった。

 宙ぶらりんにされた真人の普通車は、上空に突然出没したUFOの誘導光線のなすがまま、ゴールとは反対方向へ拉致されてしまうという、見るも空しく聞くも悲しい運命であった。

「ははは、やったね、大成功だよ。由依ちゃん!」

「はい。まさか、UFOがやってくるなんて想像もしませんでしたね。」

 喜んでいるのは奈都美と由依の最下位コンビだ。奈都美のこれ見よがしのガッツポーズが、安全運転中の由依の三日月目に映った。

 当然ながら、喜んでいるのは最下位の二人だけではなく、他の参加者も皆、ざまあみろと言わんばかりの顔で歓喜の喚声を上げていた。

 UFOに拉致された真人はどうなかったかというと、ポイントの減少こそなかったものの、3周目のスタートラインまで後退させられてしまった。

「さあ、これで勝負の行方はわからなくなったよ、みんな!」

 麗那の励ましの一声に刺激されて、参加者一同が目の輝きを取り戻し、気力を奮い起こしラストスパートに全身全霊をかける。

 最終コーナーで巧みにハンドルを切る麗那。彼女の背中に続くように、ジュリーにあかり、そして潤も最後のコーナーを難なく越えていく。

 3周目のスタートラインから激しい追い上げを見せる真人。彼との距離を警戒しながら、無事にゴールすることだけを意識して走る由依と奈都美の二人。

 この熾烈なカーチェイスに勝利する者は、果たしていったい誰なのであろうか・・・?


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