ショタって……(以下略
気が付けば、優紗とテディチヌが契約してから早二か月がたっていた。
テディチヌも無事に「茅渟テディ」としての学校生活を邁進できているようだ。
「エアリン……優紗が僕をこき使ってくるんだよぉ」
はいはい。それは学校に通うって決めた時点で想像できたでしょ?
煎餅バリバリ、腰ぼりぼりでテレビ見るおばちゃんの気分。
「でも、さすがに悲しくなってきた。もうすぐ体育祭なんだけどさぁ、その学級旗を作るのに足りない絵具のために、三階から一階まで何往復もさせられて……僕、骨が痛い」
骨しかないくせに。
美少年気取るからだよ。
「違うって、あの姿は……」
はいはい。あまり空気に話しかけて、物語勝手に進展させないの。
うじうじ骸骨は、部屋の隅にでもいなさい。
「エアリン、酷いよ~……」
「邪魔」
がらがらがらがら、ごろんがっしゃん!
あー、骨がばらんばらん。
テディチヌキット販売!
何回でもばらんばらんにして組み立てなおせるよ。これで君も人体骨博士だ!
実際にこれ何度もくみなおしてたら、プロになれるわ~w まじでwww
「小指ぶつけたわ。どうしてくれるの?」
ばらんばらんにした張本人は、悪びれぬことなく賠償責任を訴える。
そう、彼の女王様……ごほんごほんっ、優紗である。
郵便物を取りに行った彼女は、手に持っている封筒をまじまじと見ていたが不意に興味を失ったかのように、ぽいと机の上に放った。
骸骨の空虚な眼窩が、その様子を見て言った。
「見慣れない封筒だね。誰からだったの?」
「弟」
がらがらん!と一斉に骨が組み上がった。
おいおい、そんなことができるのなら、いつもちまちま自分で虚しく組み上げる必要ないじゃん!
しかし、テディチヌは余裕ない様子でエアリンの突込み総無視して優紗に詰め寄る。
「弟って、真寿くんのこと……?」
「真寿以外に、私に弟はいないわよ」
「いや、知ってるけど……」
何をそんなに焦っているのか、テディチヌは必死な様子で封筒を拾い開ける。
白い五指でしっかり手紙を広げて、文章を空洞な眼窩で追う。
表情がないからわからないが、手紙を読み進めていくたびにその手は震えていった。
「優紗……真寿くん、もうすぐ退院するんだって」
「そうらしいね」
「そうらしいって……他にないの?」
「どうして?」
優紗がテレビをつけながら言った。
「真寿の病気を治す。それが契約内容だったのだから、当然じゃない」
心を引き換えに叶えた願いに、わずかな反応も示さない。
これが、《心》を無くすという事。
「……見舞いにいこう?」
「どうして? なぜ治っているのに、見舞う必要があるの」
お笑い芸人の必死なギャグに、無感動な視線を向け、心無い言葉を吐く。
テディチヌはカランとしゃれこうべを下に向けた。
落ち込んでいるのだろうか。
彼女の心を、手に入れてしまった彼は。
「……えっとね、僕が真寿くんを治してあげたでしょ。だから、その経過をちゃんと見とかないとねっ。そういう契約だった、し……」
「テディチヌ。あなた、ショタコンだったの?」
……あれ?
「へ?」
「真寿は、確かに華奢で可愛い系男子と言うものに入るかもしれないけど」
おかしいなぁ。さっきまで、シリアスな雰囲気だったよね。
どの隙間からそんな言葉零れる余裕あった!?
「小学校四年生は、まだショタだって……飯塚が言ってたわ」
飯塚香里。オールジャンルOKの、じゃっかん腐ってやがる遅すぎたんだ系女子。
同クラスのリーダーである優紗も腐食させようとしているが、淡々とした淡泊な反応のためうまくいっていない。そのため最近は、優紗を侵食できれば、自分の(上げてはいけない)レベルがMAXになると楽しみになっている。
まったく、どんな知識を入れてくれてるんだよぉ……
こんな純白な子に……あっ、今日の下着がとかいう意味ではな(ry
「幼い男の子に萌え~ってなるのは、どういう気持ちなの?」
「知りません。そんなの、知りません」
あ、テディチヌ、めっちゃビビッている。
真面目な優紗の視線から逃れようと、必死ですねぇw
ちなみに優紗は視線をテディチヌにむけながらも、右手でエアリンに向かって連続パンチしてるよ!
僕は空気だから、文字通り空を突くばかりなのだけど――そのはずなのだが、どうして! なぜ!? こんなに避けないといけない気がするのか!
一回でも当たったら、成仏とかよりやばいことになりそう。
ちょっと待って!! いいこと聞いたみたいな感じで、パンチのスピード上げないでぇ!!!!
「母性からくるもの? それとも将来性に期待という事? いや、でも飯原はショタはショタであるからショタなのだと訳が分からないことを言って」
「もうやめてください……」
うわああああああああああああああああああ!!
パンチがあああああああああああああ!
今、すかったぁ!!
かすったのか、これは。いや、実体を持たないエアリンに『かする』という現象はありえない。
これは幻覚か……?
もしや、このエアリンがただの中二少女に気圧されているとでもいうのか!
「……腕が、疲れたわ」
あ、よかったぁ。
終わったわ。
ふぅ、なぜかこっちにまで厨二が感染してきてびびったわぁ。エアリン、恥ずかしぃ。
うわああああああああああああああ!
不意打ちやめてぇよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「エアリン……空気のくせにうるさいよ」
耳無いくせに骸骨押さえてんじゃねーよ!!
空気っつうのはわかってんじゃい!! 幽霊傷つけるようなこと言うなよ!!
あ、てかテディチヌに突っ込まれるのは珍し―よね。エアリンそんなに目立っちゃいました?
あはは……さーせん。
指をついて謝ると、優紗は無表情の眼に無をさらに十かけたみたいに真っ黒な瞳で「チッ」と言った。
キャラ違う~
……というか、優紗に恥じらい程度の感情が残ってて安心しました。
「今、僕が近くにいるからね~。少しは『心』の影響を『体』が受けているんだろうね……」
テディチヌがてへへと言うふうに、白骨化した指でつるつる頭蓋骨をかく。
なるほど、優紗のこの反応はテディチヌが近くにいるからこそ見れたものか。
では『茅渟 テディ』が学校に来るまでは、優紗はどうしていたのか!?
恥じらいがないという事は、学校での体育は……
あーーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(星キラリ』
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ゆ
う
れ
い
だ
から
消えないよ!!
いやぁ、幽霊だからね! 予想通り、優紗の腕は見事僕をすり抜けました。
こら、そこ「チッ」とか言わない!!
予想通りだったけどね……どうしてか、エアリンが星になっちゃう夢を見たよ……
「腕が痛いわ」
「……うわぁ! 大変だよ、優紗。明日、病院に行かなきゃ」
棒読みだ。腕の骨ぶんぶんふるって、演技下手だなぁ。
「これ、そんなにやばいの?」
「うっ、うん。痛いよ~ってなってるよ……」
後ろめたそうにするな。嘘はちゃんと最後まで突き通してこそ輝くんだぞぉ(おっ、ちょっとかっこいい台詞?)
心を失った優紗は五感も鈍くなっているから、病院判断とかは常にテディチヌに仰ぐ。
別に感覚は失ってないけど快・不快がわからないから、汗がだらだらでも水分取らないし、体が震えててもストーブをつけないといった感じで危うい。
「わかった。病院に行く」
だから『体』は『心』に従う。
テディチヌはほっとしたようにする。
「真寿にも会いに行くんでしょ」
あ、見透かされてる。
テディチヌも、骸骨がぱっと口開いちゃった。
久田真寿。小学四年生。
近重優紗の弟。
離婚した両親の、母の方に引き取られた弟。
生まれた時から病弱で、ベットから離れられない子供――だった。
永くは生きられないという弟を「元気にしてあげてください」という優紗の願い。
陳腐な、よくありそうな話。
それがありきたりな結末を迎えなかったのは。
《心》を手に入れた悪魔がそれに感化されて、《優しくなってしまった》からだった。
ものすっごく久しぶりです。
つまりはネタがなかったのです……
久しぶりに書いたら、エアリンが暴走して止まらなかった。
これもう空気じゃない(涙
またぽろっと思いついた時に更新します!!