激しき雨の中、いざ!!
豪雨を前にして、優紗が導き出した回答は一つしかなかった。
「テディチヌ、来なさい」
「なぁに?」
「合体するわよ」
……!?
「えぇっ!! 優紗、僕にはできないよ」
テディチヌは当然のごとくたじろいで、骨の手を何度も振った。
だが優紗は、ずいっ前へ足を踏み出した。
「あなたなら出来る。私はそれを知っているから、こうして頼んでいるんじゃない」
「 無理ー!! そっ、そそそんなこと、僕には……」
ボギッ!
「あっ……」
折れたーー!
振りすぎて手首からぼっきりいっちゃった〜
「やっちゃったー」
慌てて自分の右手を取ろうと屈み込んだテディチヌだったが、その隙は不用心だったとしか思えない。
屈み込んだテディチヌの肩骨をガッと掴み、グワオオオオという効果音がなりそうな勢いでひっくり返したーーーーー!
「うわあああ」
仰向けになっていまいガシャガシャ骨を鳴らして暴れるテディチヌに、優紗は馬乗りになった。
「さぁ、覚悟はいい? 」
「いやー! 優紗、やめてぇ!」
ナムダブナムダム。
あー、エアリンの骨をちゃんと墓にいれてもらっていてよかったぁ。
ⅩⅩⅩⅩⅩⅩ
笑いをこらえるのが大変だ。
一応エアリン透明モードだからね、笑っちゃダメなんだけどさ。
それにしても、あれはないよね。
「行ってきます」
「行ってきます…」
淡々とした声と、ひどく落ち込んだ声、その二つがいい感じに混じって扉を開けた。
途端、吹きすさぶ風!! 激しく打ち付ける雨!!
その中を彼らは果敢に飛び出して行き、ドアを閉めた。
エアリンももちろんついて行くことにした。ひきニートとか言ってられない。
こんなに面白い遊戯があるのに。
外はもう台風が二つ重なったのではないかというほど、ひっどい有様。
猫が空を飛び、人の足も一センチくらい浮いてしまいそうなほどの風の中、その一つの人影はまっすぐ道を歩いていた。
そう、一つの人影が――。
解説しよう!!
彼らは見事に合体を果たしたのだ。
優紗はテディチヌの肋骨を折って、無理やり作った空洞に入りこんだのだ!
これだったらマントを着ていて、フードを被っているテディチヌは濡れても優紗は濡れない。この風の中でも悪魔であるテディチヌは飛ばされることなんてない。
テディチヌの姿は見せようとしなければ一般人には見えないし、歩かなくてもいいし、もう一石四鳥!?
冴えたやり方なんだろうが、やはり普通はしない。
まず木の枝を折るみたいな感じで、花の女子がボキボキ骨をおらない。
テディチヌの足取りは重そうだが、内部から聞こえる声がそれを許さない。
「もっとキビキビ歩きなさい、学校に遅刻しちゃうじゃない」
「でも、優紗が…」
「重いって言いたいのね」
ビクゥッと、派手にテディチヌは体を震わせた。
はああああああああああという気合の入ったため息で、テディチヌのマントがぼわりと浮いた。
この暴風でも、はためくことなかったマントが!
「私って、そんなデリカシーのない心の持ち主だったかしら。記憶を探ってみると、少し気弱げな優等生と言った印象しかないんだけど」
どうやら非難しているわけではなく、本当に疑問に思っているような感じだった。
「僕にもよくわからないよ〜。だって僕にとって優紗が……、はっ、初めての、相手だったんだから……」
なにやら乙女ゼリフ来たーーー
テディチヌが顔を俯けて、あっ、あたりにぽわぽわした空気が……
「ふんっ、わからないの? あなた達悪魔は、心が欲しくて契約するんじゃないの?」
がちスルー!
雰囲気破壊!!
冷徹な声はもうこの場を支配する横暴な女王のもののような気さえしてきた。
表情わかんないけど、骸骨の顔が少し寂しそうだね、テディチヌ。
「うん、そうだけど……」
「人の心を持つで大きな力を手に入れることができる、だったわね。じゃあ、何であなたはここにいるの?」
「…………」
骸骨はカチャリと少し緩んでいた口を閉じ、黙ってしまう。
そういえば、この二人はこういう基本的なことをまだ話していなかったのだ。
出会って二ヶ月。
契約してから当然のように居続ける悪魔に対して、初めて優紗は相手の事情に突っ込んだ。
「なんか、よく喋るね」
「そうね。疑問に思ってしまったのも、きっとこんなにもあなたの近くにいるからだわ」
近くと言うか、内部というか。
「近く――私の心に」
次こそ本当の沈黙だった。
というのも、交差点に差し掛かり止まったテディチヌ(たち)であったが、目の前を通ったトランクが水溜りを跳ねたのだ。
はい、びしょ濡れ~。水も滴るいい骸骨っ!!
青になっても立ち尽くしたままのテディチヌの腹から声がする。
「冷たい……」
はいっ、あなたのお声の方が冷たいです!
もうテディチヌ動けない。がたがた震えて、骨がカチカチなっている。ついでにガリガリと音がするが、もしや腹の中から骨削られてないかい?
「少し、いらっとした気がする」
ないはずの感情がかすめて、優紗は聞く。
「あなたの近くにいればいるほど、私の空っぽの中に何かが入って来る。だからなの?」
「僕は…………」
「死神が言っていた。心を失ったら、意思も本能も失って、廃人同然になるって。何かをする気力も無く、ただ衰弱死するのが普通だって」
人にとって、感情とは原動力である。人は心で動く生き物だ。
心を奪われたら、優紗のように感情を失うだけではすまない。契約で命を渡していなくても、空虚な人形のようになり死んでしまう。
優紗がそうなっていないのは、テディチヌが――心が、近くにあるから
「どうして? 」
優紗の問いに、テディチヌはかちかち歯を鳴らす。
躊躇いながら、でも正直に、
「死なないでって思ったんだ。僕じゃないよ、優紗の心が、だよ」
骸骨に表情はない。
真っ白なしゃれこうべはただかぱかぱ口をわずかに開くだけ。
だが、その声音には――いつくしむような優しい響きがあった。
「悪魔に心なんてないよ。だから、僕が悲しくなるのも、嬉しくなるのも、全部、全部、優紗の心なんだよ。だから、優紗から離れたくないっていうこの気持ちも――僕じゃなく、優紗の心が望んでるんだろうね」
「ふうん」
エアリンがほろりしそうな話なのに、すぐに返ってきた優紗の言葉はそれだけ。
ただの音にしか聞こえない、生返事よりも空っぽな言葉。
その音は、そのまま紡がれていく。
「じゃあ、私を介抱したのも?」
「助けたいって、優紗の心が思ったから」
「じゃあ、私に感情があるように人前ではふるまえって言ったのも?」
「誰かに優紗の悪口を言われたくないって、優紗の心が思ったから」
「じゃあ、私の家に居候してきたのも?」
「一人は寂しいよねって――優紗の心が、思ったから」
「じゃあ、私のプリンを食べたのも?」
「食べたいって、優紗の心が……あ」
「そう、覚悟しておきなさい。あと二週間は腐った卵しかあなたには与えないから」
「そっ、そんなぁ、優紗ぁ!」
あれお仕置きだったんかい!
てっきり好物だと思ってました!!
その後も二人はギャーギャー言い合って、信号が何回青や赤に変わったかわからないくらいの時が過ぎていく。やっと、優紗は気づいて、
「帰りましょう」
「え……学校は?」
「癖で家を出てしまったけど、大雨警報が出ている日は、連絡もなく学校が休校になるって先生が昨日行っていたわ。すっかり忘れてた」
……クールな天然さんですね!
テディチヌ可哀想。これこそ、骨折り損……
しょんぼりしてしまったテディチヌは、優紗の命令にとぼとぼ来た道を引き返す。
「それで、あなたはいいの?」
脈絡もなく、優紗は聞いた。
「私が死ぬまで、離れられないってことになるけど」
「……死なないでって、優紗の心が言ってるよ」
「人の話聞いてる?」
優紗の言葉に、カラカラ小さく骨がなった。
その音は笑い声に似ていて、バカにされているような気がしたのかまたガリガリ骨が削られる生々しい嫌な音が聞こえた。
それでもカラカラ、骸骨は雨に濡れて笑っていた。
今日はエアリンセーブしてくれました。
というか、そのぶんコメディ要素減ってないか心配です。
この配分がかなり難しいんですね……修行します。
勢いで描いている者なので、質問&ご指摘がある場合どしどしお願いします!
次回は未定です! 正直、ここまでしかストーリー考えてませんでした。
これからどう進ませるか、それも少し楽しみです。