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和やかな朝食って憧れだよねー


 はーい! みんな覚えてくれてるかな?

 すでにうざいとか陰口叩かれていないか心配の、エアリンだよ。

 エアリンの心はブロークンハートしやすいから、扱いには十分注意してね。


「うるさい」


 蹴られたよ!

 今、エアリンが住んでいる部屋を全力で蹴られたよ!!

 前回が最初シリアスで全然コメディー性ないから頑張ろうと思ったのに、その気持ちを早々裏切られーー

 箱が開く。

 中途半端にあけられた扉から半分顔をのぞかせた優紗が、


「あなたは黙って、そこにいればいいのよ」


 ……はい。

 

 牢獄(魂を閉じ込める例の恐ろしい箱)に入らずに済んだけど、その代り就職したよw

 冷蔵庫にね!!

 いや~、普通、肉とか野菜が詰まっている中に幽霊を入れる?

 並みの精神の人じゃ無理だよ。

 

 おっ、何だ。

 突然光が入り込んできたぞ。

 

「優紗~、生卵食べてい……」


 テディチヌは固まってしまった。

 下あごが落ちるのではないかというほど、カパリと口がだらしなく開いた。

 狭い冷蔵庫に体育座りをして収まっている幽霊。

 コンセントが抜かれてしまった冷蔵庫の中身を、あふれ出る寒気で守っているのを見てしまって……


「テディチヌ、邪魔よ」

 

 優紗が邪魔な骸骨をぐっと押しのける。

 無表情なまま、手を冷蔵庫の中へと伸ばして、

 あれ? ちょっと待って?


「「…………!!」」


 エアリンとテディチヌはもうどうしていいやら……

 いやいやいやいや、確かにすり抜けますが!! エアリンの中にそんな堂々と手を入れますか!?

 いろいろまさぐられている気分で、恥ずかしいのですがっ。

 

 エアリンの慌てる姿に全く動じず、彼女は目的であったレタスとトマトを取り出すとあっさり去って行った。


「…………」


 テディチヌもいくかい? ちょうど君の目的の卵はエアリンのヒップの位置だよ。

 さぁ…………!!


 パタン……

 あ、閉めた。

 そうそう、これが普通の反応である。

 

 悪魔なのは、お前だろうが。


 それにしてもテディチヌ目当ての卵ねぇ。

 殻が変色していませんか? あれあれ、意識したら匂いまでしてきたよ。

 ちっ、違いますから! エアリンの屁なんかじゃありませんから!

 こんながっつり硫黄臭とかないから~!!


 ⅩⅩⅩⅩⅩ


 このままだとみんなのこと観察できないので、離脱~

 あきた! くそつまらん!

 冷蔵庫の電気代くらい惜しむなよ。

 まぁ、エアリンも考えているよ。このままだと確実に優紗に極寒の視線を浴びせられかねないからね、


 透明(インビジブル)モード!! 発動!


 エアリン(空気)なめんなよ。

 その気になれば悪魔にも、契約者のような特殊人間にも見えないようにするのは簡単なんだぜ。


 さらに手は抜かない(キラッ

 

 頑張れポルターガイスト!! 発動!


 空気は軽いからねぇ、全ての物が重く感じられちゃって。コンセント=煉瓦十個分の重さをじわじわ頑張って差し込むエアリンの姿! コンセント差し込むだけなのに、五分もかかっちゃたぞ、エアリン(キラッ 

 みんな想像してねw


 リビングでは、既にテディチヌと優紗が簡素なテーブルを挟んで向き合う形で座っていた。

 エアリンがそのあたりを漂っても誰も気づかなーい。

 テディチヌの頭の上に乗っても(空気だから軽いしね)、庭吾郎を踏み潰しても(空気だからすり抜けるしね)、テーブルに載っても誰も気づかなーい! 空気だから!!

 そう……空気、だから。

 何か切ない。

 え~い! もう優紗に抱き着いちゃえ~!!

 

 っと、うわあお!?

 

 目が合った、気のせいだけど、バッチリ目が合った(現在進行中で)

 怖い……、え、冷気とかもしかして感じてます?

 あ、逸らした。

 やっぱ気づいてないよね~、あはは、驚かせないでよ。


 だが、さすがにもう襲う勇気はない。


 優紗の前にはご飯、目玉焼き、味噌汁、簡単なサラダという理想的な朝食が並んでいて、黙々と食べる彼女をテディチヌが骸骨の空っぽな眼窩を向けているという、シュールな光景であった。

 平凡な朝の光景とは言えない。

 でも、もし仮に彼女が普通の人間であったとしても、家族と食卓を囲む牧歌的な今日はなかったのだろう。


 優紗は父子家庭である。一年前に両親が離婚し、父親に引き取られたのだ。

 その父親は大手の企業に重役として勤めているのだが、昨今の不景気で経営が思わしくなく、週に一度ちらりと顔を見ればいい方であった。

 この春、以前住んでいた一戸建てを売り払い、職場に近いからという理由で曰くつきでも構わず2LDKのこのマンションを借りたというのに全くの無意味だった。

 中二の多感な時期の娘を自分の勝手な都合で転校させ、揚句半ば放置するのは、いい父親だと言えるのだろうか。


 だが、この環境の一新は――優紗にとって幸運なことだった。

 春休みに優紗はテディチヌと契約し、心を失った。

 喜怒哀楽を失った、誰にも共感できなくなった、過去の自分を反芻しても感情というものを全く理解できない。

 そんな彼女の変貌を、周りの者は気味悪がっただろう。遠ざけられ、虐げられるということもありえた。

 しかしたまたま引っ越しした、たまたま転校した、たまたま父親と会う回数が極端に減った。

 その偶然の積み重ねによって、父にまだ勘ぐられておらず、おそらく学校でももともとそういうキャラの子だと認識されているはずだ。


 いや、きっと彼女は自分がいじめられることになっていたとしても構わなかっただろう。

 もう、何も感じないのだし。


 転入してもう二か月が過ぎるのに、友人(・・)がこの家に訪ねてきたことはない。


 彼女は楽しい(・・・)学校生活を遅れているのだろうか?


「優紗、お願い!! 僕の代わりに卵取ってきてよ~」


「ココッコケーコケッ、コケコケッ!!」


「黙れ」


 優紗はずずずとみそ汁をすする。

 骸骨がガシャガシャ鳴る。

 ニワトリが羽を撒き散らし暴れまくる。


 ……うん、そうだよね。

 こんな家、誰も呼べないよね。


 がたっと優紗は席を立つ、テキパキと皿を水につけるとエプロンを脱いで、玄関横に置いてあった鞄をとる。


「あれ? どこに行くの~」


「学校に、決まってるでしょ」


 エプロンの下はもちろん制服だ。

 ちっ、パジャマはエアリンが冷蔵庫に閉じ込められている間に脱いじゃったのかよ。

 実はね、いまだにエアリンは優紗の生着替え一度も見てないんだよ。

 同居幽霊として、おかしいと思わないかい?

 このマンションの曰く=エアリンとしてはこれは存在さえ危ぶまれる異変だよ。

 エアリンはエアリンのためにエアリンとして頑張るよ!

 いつか必ず達成する!!

 みんな、応援してね(キラッ


 カバンの中身をチェックした優紗が、玄関に立つ。

 靴を履いて、ドアを開けるふた刹那ほど前――


「優紗、だって今日はどしゃ降……」


 ゴロゴロゴーン、ガッシャーン!!

 ザバザバザバザバ、ビュゥーワーーーー!!

 ザーザーザーザーーーー!!


「…………」


 優紗が振り向く。

 一歩出ないうちから、全身びしょ濡れだった。

 平然とした表情、良しッ! 水も滴るいい女。


「もしかして、忘れてた?」


 テディチヌが首を傾げる。

 朝、カーテンを開けてみたはずなのに。

 傘も持たずに豪雨へ足を踏み出そうとしていた。


「……そのようね」


 弁解せずにクールに言い切る!

 顔に髪の毛が張り付いて、鼻の下でヒゲみたいになってる!!

 クールな天然!!


 あーーーーーーーーーーーーーー! この部屋に生き(とりつい)ててよかった!!


 エアリン……こいつはいったい何なのでしょうか?


 一話目を書き初めには全く考えてなかったキャラクター、書き進めるうちにいつの間にか現れて、なんか主人公みたいにふるまってませんか!?


 主人公……優紗

 メインキャラクター(今のところ)……テディチヌ、庭吾郎


 空気……エアリン


 です!! そのつもりで書いているのですが……(汗


 

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