雨のち……
多少鬱なのかな?www
十四歳のあの日、いつも通り学校から下校してきた。
両親は共働きなので家からは何の音もしない。これが当たり前なのだが、何故だろう、胸騒ぎがする。その胸騒ぎが落ち着かない。
ふと電話がきた。
「…………」
「もしもし……」
「…………」
「いたずら電話なら切りますよ!」
「……君の両親が亡くなった……」
意味が分からなかった。
「あれから二年経ったのか……」
俺、橘奈月は下校していた。
今日は両親が亡くなってたら二年が経った。
「あの日も雨が降っていたな」
時期は六月中旬。梅雨のせいでじめじめしていた。
ふと、傘の向こうずぶ濡れの女の子が立っていた。
歳は同い年ぐらいだろう。白を基調としたシンプルなワンピースに長い黒髪が映えている。その長い黒髪が顔に雨でくっついているが、その顔立ちのせいかとても絵になる、正直タイプだ!
だが、その子が持つ異変にそんな印象はすべて払拭された。まず靴を履いていないし、その足のは包帯をしている。顔もよく見ると眼帯をしていた。
「何があったの……?」
気がつくと俺は声をかけていた。
「……何でもない……」
虚ろな瞳が俺を見つめてそう言った。
何でもないように見えない。
俺は感情的になりいつの間にかその子の肩を掴んでいた。
「何でもないわけないだろ、何があった!」
「……虐待されたの……」
想像は出来ていたがそれだけは信じたくなかった……。
この雨の中いつまでも外にいさせるわけにもいかないので、半ば強制的に家に連れてきた。
風邪をひくとわるいので今は風呂に入ってもらい、俺は制服から着替え居間で考え事をしていた。もちろんあの子のことだ。
そんなことをしているとあの子が風呂から上がってきた。
あの雨だったのさすがにワンピースは乾かなかったので、亡くなった母さんの服を着てもらった。
「……ありがと……」
「……気にするな。俺が無理やりしたことだし」
「…………」
どうも気まずい。仕方のないことだが。
「悪いけど名前教えてくれないか?俺は橘奈月」
「……私は佐月彼方」
…………………………。
それから少しずつだが聞き出せた。家族のこと。怪我のこと。何故雨の中傘も無しに裸足で立っていたのか……。
「……ここにいないか?」
聞き出したことを考えると辛すぎる。
比べるべきじゃないと思うけど、俺自身のことと比べても辛いと思う。
「そんなことできない」
「どうして?」
「あなたに迷惑をかける気はないから。それに……」
「それに?」
「人が信用できないから」
それもそうだ。佐月さんの両親は早くに亡くなり、引き取ってもらった親戚の人とはうまくいかなかったらしい。その上、親戚中にたらい回しにされた挙句、その親戚の人から虐待を受けたのだ。人を信じられなくても不思議じゃない。でも、それでも俺はほっとけない。
「だったら尚更ここにいてくれ!」
「……なんでそこまで赤の他人の私にそこまでしようと思うの?」
「……俺も両親を亡くしたから……」
「っえ!?」
「二年前に交通事故でな。即死だったらしい」
「……そうだったんだ……」
「佐月さんが気に病むことじゃないよ。俺のがまだ楽じゃないか」
笑って誤魔化した。でもやっぱ痛い…………
「そんなことないっ!!」
急な叫び声に俺は驚きを隠せなかった。
「橘君だって私と何も変わらないよ!両親が亡くなって悲しくないわけないじゃない!楽なんて言わないで、程度なんて関係ないよ……」
「うっ、うん……」
「……ごめんなさい。急に叫んじゃって……」
「いや、俺の方が軽率だったよ。ごめん」
「……ごめんなさい……」
俯いてしまった……。
やっぱり佐月さんをこのままに出来ない!
「どうしてもここにいる気になれない?」
「わからないの……信用できないわけじゃないけど……」
「けど?」
「……現実的に考えて金銭面だって一人増えるだけでも全く違うし、それこそ迷惑がかかるじゃない。私は全くないまま逃げてきたし……」
そんなことか。
「気にするな。お金だけならうちの両親がしっかり積んでいてくれたし。それにバイトだってしてるから佐月さんの気にすることじゃない!」
「だめだよ……」
「だめじゃない!だったら『ここにいる』って言うまでこの家から逃がさない」
そんなことを言っていると雨も上がり日が照っていた。
「もうこの家から出さないからな!」
俺はこの日一番であろう笑顔で言ってやった。
「あの日からちょうど一年経ったんだな」
俺が強制的に彼方を家に迎え入れて一年が経った。
「ほんと無理やりだったよね?」
隣で彼方が言ってきた。
彼方は俺の提案で同じ高校に通っている。そして今は家が同じなので一緒に下校している。
ふと、彼方と最初に出会った道に猫が捨てられていた。
「かわいそう……」
「それじゃぁ飼うか!」
「っえ?」
彼方が困っていたが気にしない。
「今日からこの猫はうちで飼う異論は認めない」
「……ほんと無理やりね」
彼方が笑っていた。
「……ありがとね」
顔をそらすと虹が掛かっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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